ハナコラボSDGsレポート 養鶏を引退した鶏が料理人も唸る黄金の鶏ガラスープに!小規模養鶏を救う循環を作る〈鶏革命団〉。
ハナコラボ パートナーの中から、SDGsについて知りたい、学びたいと意欲をもった4人が「ハナコラボSDGsレポーターズ」を発足!毎週さまざまなコンテンツをレポートします。第21回は、エディター、ライターとして活躍する大場桃果さんが、養鶏を引退した鶏の命を最後までおいしくいただくことをテーマに、小規模養鶏を救う活動をする〈鶏革命団〉を取材しました。
私たちが普段、何気なく食事に取り入れている卵。近年は“平飼い”という言葉を目にする機会が増え、養鶏場での飼育風景はなんとなく想像がつくようになったものの、歳をとって卵を産まなくなった鶏の行き先については意外と知らないものです。実は、小さな養鶏場の多くが、引退した鶏に関わる問題を抱えているのだそう。そんな引退鶏をおいしく商品化することで小規模養鶏を支える循環を作る、〈鶏革命団〉の2人に話を聞きました。
初めて養鶏場を訪れた時の感動が仲間を呼び、〈鶏革命団〉が誕生
ーーまずは、〈鶏革命団〉として活動を始めるまでの経緯を教えてください。
鳥居さん:僕たち2人は、駒沢にある〈BROOKLYN RIBBON FRIES〉の同僚として出会いました。僕が入社してすぐにきみちゃんがやめちゃったので、一緒に働いていた期間は1ヶ月半だけなんですけど(笑)。
土屋さん:引き継ぎをしながら2人で会話する中で、「私たちはこれまで誰かのチームに所属していろんなことをしてきたけど、次は自分たちで何かやってみたいよね」という話になったんです。“鳥”居さんと“きみ”ちゃんという名前にちなんで、目玉焼きをテーマにした「NEW YOLK(ニューヨーク)」という名義で活動することになりました。
鳥居さん:それからいろんなフェスやイベントに出店するようになって、ホットドッグの上に目玉焼きを載せた“世界一食べづらいホットドッグ”を販売していました。そしてある時、「目玉焼きが主役のブランドなんだから、卵が生まれる背景を知る必要があるよね」と思うようになったんです。
土屋さん:私たちと同世代で養鶏をやっているハナちゃんという知り合いがいたので、早速Facebookで「養鶏場を見に行ってもいい?」と連絡したら、「いいよいいよ!」と言ってくれて。彼女は埼玉県の小川町で生まれ育って、両親がずっと農業をやっていたんですけど。それをただ継ぐだけではなく、自分自身のビジネスとして新たに養鶏を始めたんです。毎朝鶏の鳴き声とともに起きて、自らブレンドした餌を使って全部1人で世話をして。
鳥居さん:養鶏場を訪れる前は、ハナちゃんのところに“遊びに行く”くらいの気持ちでいたんですけど、彼女が真摯に鶏を育てている姿を目にしたら、そんな中途半端な気持ちじゃいられなくなりましたね。
土屋さん:鶏は生まれて半年経つ頃に卵を産み始めるので、効率を重視する養鶏場ではある程度育った鶏を仕入れているんです。でも、それだと自分の選んだ餌を好き嫌いして食べてくれない可能性もあるので、ハナちゃんは生後3日から自分で育てていて。雛から健康に育てた上で、おいしい卵を産んでもらうっていうのが彼女のやり方なんです。それを見ていたら私たちもすっかり感動しちゃって、「絶対にまた来るね!」と約束をして。
鳥居さん:東京に戻ってからいろんな人にその感動を話していたら、「私たちも行ってみたい!」って言ってくれる人たちがどんどん増えてきて。半年に1回くらい、友達を15人くらい連れて小川町へ行くようになったんです。そうやって仲間が増えていく中で、自然と〈鶏革命団〉が結成しましたね。
ーー団員は何人くらいいるんですか?
鳥居さん:30〜40人です。僕らが勝手に団員って思ってるだけで、向こうは自覚してないかもしれないですけど(笑)。きみちゃんが団長で、僕が副団長みたいな感じですね。
土屋さん:そして、ハナちゃんは鶏革命団の“主役”。あの場所で同じ経験をして、同じ想いを持った人たちは、みんな仲間だと思ってやっています。
小規模養鶏場を困らせている、“引退鶏”の課題
土屋さん:ハナちゃんとの交流を深める中で、ある日「実は相談があるんだよね」と打ち明けられて。鶏は2歳頃になると卵を産む頻度が下がって、安定していい卵を産まなくなってしまうんです。まだまだ元気だけれど、それが養鶏としての鶏の引退時期。大きな養鶏場では提携した業者が回収に来てくれるらしいんですが、小規模なところは数が少なすぎるゆえに断られてしまうことも多く、ハナちゃんもそのうちの1人。彼女が言うには、同じ課題に直面して養鶏を辞めてしまう人がたくさんいるみたいなんです。行き場を失った引退鶏は、最悪の場合だと産業廃棄物として処理されることもあるのですが、ハナちゃんはどうしてもそれを避けたい…と。
鳥居さん:何も知らない僕らからしてみたら、「引退する鶏の肉をどこかに卸したりできないの?」って思うじゃないですか。でも、解体するためには養鶏とは別の資格が必要で、専門の業者に頼むと1羽あたり500円くらいかかっちゃうんです。
土屋さん:しかも、養鶏用の鶏は私たちが普段口にしている鶏肉とは違い、固くて筋肉質な感じ。肉を食べるために育てられた鶏は丸々と太っているのに対して、養鶏の鶏は健康的な痩せ型で、卵を産みやすい体質なんです。
鳥居さん:身が固くて、チキンステーキや唐揚げには向いてないけど、ミンチにすればおいしく食べられるようなお肉なんですよね。
土屋さん:私たちもそれに気づくまで時間がかかってしまって…。いろんな料理人を小川町へ連れて行って試行錯誤しながら、チキンナゲットにしたり坦々麺の上にトッピングしたりしてました。それと同時に、鶏肉がもっとおいしくなるように、ハナちゃんも育て方を少しずつ変えてくれて。
鳥居さん:業者に回収された引退鶏はドッグフードなどに加工されることが多い中、「せっかく丁寧に育てた鶏だから、できれば多くの人においしく食べてもらいたい」というのがハナちゃんのポリシー。その想いを実現するべく料理を作ってイベントで売っていたのですが、ハナちゃんの養鶏の規模が大きくなるにつれて、引退鶏を継続的に循環する仕組みが必要だということになって。そんな時、よく相談に乗ってくれていた料理人のニキさんから「そういえば鶏ガラってどうしてるの? もし余ってたら送ってほしい」という連絡があったんです。その数日後に、興奮したニキさんに呼ばれて店に行ってみたら、ものすごく濃い出汁が短時間でたっぷり取れたと。
土屋さん:その出汁を味わった瞬間、私たちも「これだ!」って。「まずは鶏ガラを使ったスープを商品化しよう!」ということが決まりました。
鳥居さん:それからイベントのたびに自分たちで鶏ガラを炊いてたんですけど、自分たちでやるのには限界があったから、商品化してくれる工場を探すことにして。いわゆるOEM工場は、原価を抑えて管理しやすくするために提携業者から素材を調達してくることが多くて、素材を持ち込まれることを嫌うんです。しかも僕たちはロットも少ないから、協力してくれる工場が全然見つからなくて…。いろんなところに断られまくった末に、群馬県の上野村にある工場がようやく引き受けてくれました。
土屋さん:上野村の工場のおじさんたちは優しく話を聞いてくれて、この商品のストーリーを説明したら「いい心意気だね」って共感してくれたんです。それから何度も試作を繰り返して、やっと商品が完成しました。
ーー成分に添加物が入っていないというのも特徴ですよね。
土屋さん:そうなんです。添加物は一切使ってないんですけど、真空になっているので常温で2年保存できます。
ーー素材や味にはどんなこだわりがありますか?
土屋さん:ニンニクは小川町でハナちゃんが育てたものを使っています。味のついたスープにするとかネギを入れるとか、いろんな案があったのですが、まずはシンプルでどんな料理にも使える万能調味料を目指しました。
ーーまさに和・洋・中どれにでも使えるような味ですよね。
土屋さん:茶碗蒸しや塩ラーメンも作れるし、炊飯器に入れるだけで簡単にカオマンガイを作れたり、なんでもできちゃいます。
ーーハナさんは、こうやってパッケージ化されたものを見てどういう反応でしたか?
土屋さん:最初は実感が湧かなかったみたいで「これ、私の鶏…?」みたいな(笑)。でも、自分の育てたものがこうやって形になっているのを見て感激していました。
ーー今は、引退鶏の問題はだいぶ解決されたのでしょうか。
土屋さん:ハナちゃんの養鶏場では100%私たちの商品に生まれ変わっています。商品ありきではなく鶏ありきなので、養鶏場のサイクルに合わせて商品を作っていて。毎年春と秋に鶏が引退するのですが、昨年秋に作ったスープがすべて売り切れてしまったので、次は“2021年春のスープ”ですね。
鳥居さん:現在は「黄金の鶏ガラスープ」と合わせるだけで本格料理が作れる「スパイスの素」シリーズの第一弾「麻辣火鍋の素」を発売したばかりなのですが、第二弾として、池袋で〈プラマーナスパイス〉というカレー屋をやっているスパイスオタクの子とコラボして、南インドのカレースープ「チキンラッサムの素」を開発しています。また、引退鶏のお肉を使ったレシピのレトルト商品化も進めている最中です。
“おいしくてハッピー”の先に、生産背景にあるストーリーを伝えたい
ーー「黄金の鶏ガラスープ」はパッケージも可愛いパッケージも目を惹きますね。
土屋さん:このパッケージはかなりこだわりました。サステナブルな商品って、そういう考えを前面に押し出すようなものが多いじゃないですか。そうやってメッセージを伝えることももちろん大切なのですが、私個人としては、食は日常に寄り添うものだからこそ自由で楽しい方がいいと思っていて。鶏革命団の活動も、本当はハナちゃんを前に立たせることが正しいのかもしれないですが、こうやって私たちが前に出てポップに活動することを選びました。
鳥居さん:ハナちゃんも自分の抱えている問題をシリアスに発信したいわけではなかったからこそ、「きみちゃんたちなら楽しく解決してくれそう」と思って相談してくれたみたいで。
土屋さん:「サステナブルだからこれにする」のではなく、「おいしくてハッピーだからこれがいい」と思ってくれた先に、「実はサステナブルだった」があればいいなと思ったんですよね。だから、サステナブルに繋がるような言葉はパッケージに一つも入れませんでした。知りたいと思ってくれた人が知ってくれればいいだけで、食べる人は純粋にこのおいしさを楽しんでもらえたらいいなと思ってます。
鳥居さん:この鶏のイラストには特にこだわっていて、とにかく幸せそうな表情に描いてもらいました。湯気を足して、鶏が気持ちよさそうにしている感じを表現したりして。
土屋さん:私たちもハナちゃんも鶏も、みんなハッピーだってことを伝えたかったんです。
鳥居さん:それは僕らの永遠のテーマでもあって、「食べるって幸せなことだよね」ということを伝える活動を目指しています。
土屋さん:味覚って人それぞれだから、“おいしい”を定義するのって不可能に近いじゃないですか。味だけで100人中100人においしいって言わせるのは、かなり難しいと思うんです。だから、味以外に見た目や雰囲気、生産背景などの情報が影響すると思うんですけど。でも、私たちの思う“おいしい”を最も後押しする要素は“楽しい”なんです。
鳥居さん:おいしいものを作って課題を解決しつつ、まず第一に自分たちも楽んでやれた方がいいなって。
土屋さん:商品を気に入って私たちの想いに共感してくれた人たちをどんどん巻き込んで、これからも楽しくポップに鶏革命団の活動を広めていけたらうれしいです。