PTA監督最新作に見るかっこ悪い恋と青春。『リコリス・ピザ』/第6回 ヒコロヒーのナイトキャップエンタメ CULTURE 2022.11.21

疲れた心と体に染み込む、ナイトキャップ(寝酒)代わりのエンタメをヒコロヒーが紹介。第6回はポール・トーマス・アンダーソン監督(以下PTA)による最新作『リコリス・ピザ』をお届け。

第6回ヒコロヒー2

私にとってPTAは、新作が出たら絶対に観に行く映画監督のひとりだ。1970年代のLAを舞台にした、15歳のゲイリーと10歳年上のアラナの恋を描く本作。
「今回はラブロマンスか」ぐらいの前情報だけで観に行ったのだが、『ブギーナイツ』のような初期の青春映画を彷彿とさせつつも『インヒアレント・ヴァイス』のようなドタバタ喜劇の要素も満載で、結果的に大満足だった。本編は先読みできないユニークなエピソードの連続。たとえばウォーターベッド販売の事業を立ち上げたり、殺人犯に間違われたり、ベテラン俳優がバイクにまたがって炎の中に突進したり……と、奇天烈な出来事がジェットコースターのような緩急で蛇行する。あまりに恋愛が進展しないので途中まで「これ何の話?」と不安になったが、ちゃんと最終的にロマンスへと収束するのだからお見事としか言いようがない。

特にお気に入りなのは、ガス欠になったトラックで曲がりくねった坂道を一気に駆け下りるシーン。アラナのスリリングなハンドルさばきとゲイリーの子どもっぽい言動とのギャップに、どうしても埋められない年齢差を痛感させられた。これはハリウッドにありがちな美男美女の王道ラブストーリーでは断じてない。でも、垢抜けなさが残る二人のかっこ悪くもトラブル続きな日々を見て思った。私の知っている青春はこっちだと。

text : Daisuke Watanuki

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