東日本大震災から10年。東北の「現在地」。 “旅をする”という支援のカタチ。【宮城県】基金と熱意で復活した「獅子振り」のストーリー。

LEARN 2021.03.08

2011年3月11日、午後2時46分。その時から日本は大きく変わった。そこから10年。東北を盛り上げる人が集い、場が創られ、新たな文化が誕生。〝復興〟という言葉ではくくれない、面白い動きが日々生まれています。今回は、東北の祭りをご紹介。消滅の危機に瀕した祭りが復活できた背景には、それを支えた基金と人々の熱意があった。無形の伝統芸能を目に焼きつけに、東北へ。旅をする、という支援のカタチもある。

当たり前を失ったあの日。祭りの灯も消えかけた。

それは役場にかかってきた一本の電話から始まった。「地域のお祭りの復興をお手伝いさせてもらえませんか?」たまたま受話器を取った職員(当時)の平塚英一さんは、その言葉を信じられない思いで聞いていた。なぜなら、地元・女川町に古くから受け継がれていた地域の伝統行事「獅子振り」を復活させたいと、動き始めた矢先だったからだ。2011年のことだった。

獅子ぶり11

宮城県牡鹿半島の東に位置する女川町は、人口約1万人の港町だった。東日本大震災では津波によって壊滅的なダメージを負い、町はほとんどすべてを失った。「お布団で眠れる。温かいごはんが食べられる。友達と笑い合って話せる。今まで当たり前だと思ってきたことが、どれだけ特別なことだったか…。行事だってそうです」獅子が家々を練り歩き、悪霊を追い払い、家内安全、無病息災、商売繁盛、大漁祈願を行う正月の風物詩「獅子振り」。各地区、各浜ごとに獅子の顔や太鼓、笛、衣装などが異なり、それは代々口承で受け継がれ、地域の絆の強さを象徴する伝統行事だった。だが、津波によって道具類は流失、担い手の多くが仮設住宅へと散り散りになった。「震災から日が経っておらず、〝まだそんな気になれない〞という人がいてもおかしくない。でも、〝復活させたい気持ちはありますか?〞と聞いて回ったところ、被害を受けた14団体のうち、12団体が〝ぜひ、やりたい〞と回答したんです。それを聞いて、これは絶対に復活させなければならない、と」

奇跡の連鎖に導かれた「獅子振り」の復活。

獅子ぶり1

冒頭の電話は、まさにそんなタイミングでかかってきたのだ。電話の主は日本財団。「すぐに獅子振り復活に必要な金額を試算してくださいって言ってもらって。ただ、写真も流されていましたから、地区ごとに異なる獅子の顔を再現したくても資料がなかった」すると偶然にも、獅子の姿を収めたネガフィルムを借り受けていた人物が、獅子振りの事務局に返却し忘れていたことが判明。そして彼の家は津波の被害を免れていた。「さらにそのネガを受け取った瞬間、なじみの写真屋さんがたまたま横を通りかかって(笑)。現像をお願いしたら、無償で協力してくださった。これはもう神様からの〝絶対に獅子振りを復活させなさい〞というメッセージだな、と」

奇跡の連鎖は2013年8月、「復活!獅子振り披露会」という形で結実する。「翌年の正月まで待てなかったのは、感謝の気持ちを舞で表現したかったから。もうひとつは、仮設住宅に移り、気持ちが落ち込んだままの方々を勇気づけたかったんです。獅子振りが復活したと聞いてみんなが集まれば、懐かしい顔にも会える。元気になってもらえるんじゃないかと」平塚さんは町の広報チームと共に、告知に奔走。結果、出演者約200人、観客約300人が参列し、披露会は大成功となった。
「復活したことで、地区を離れた人たちも正月や夏には獅子振りを見に女川に帰ってくる。県外の方も旅行の目的のひとつとして、見に来てくださる。こんなにうれしいことはありません」現在は正月ほか、7月の最終日曜日(今年は例外的に8月22日(日)予定)に行われる「女川みなと祭り」でも披露され、観光客も楽しむことができる。取り寄せがきかない無形の伝統芸能こそ、生で見る価値がある。祭りを見に東北へ。いつか旅に出る日のプランに加えてみよう。

「まつり応援基金」とは。

日本音楽財団が名器・ストラディヴァリウスを売却して得た約11億6800万円の全額を日本財団に寄付したことで発足された基金。地域の風土から生まれ、人々の暮らしや心を育んできた芸能や祭りを応援する。

女川獅子振り

住民の約8割が被災した港町で、何百年も前から伝承されてきた地域の絆を象徴する伝統行事。造形の異なる獅子が太鼓や笛の音とともに舞う。一般の観光客が見ることができるのは、各地区で行われる正月の獅子振りのほか、7月の最終日曜日(※2021年は8月22日[日]予定)に行われる「女川みなと祭り」。ようやく護岸工事も終わり、船の上で舞う「海上獅子舞」を今年は披露する予定。大漁旗がはためく船上での勇壮な舞は必見。女川町のホームページで告知される。

https://www.town.onagawa.miyagi.jp/

ほかにもある!楽しく支援したいなら。

1.【体験して支援】小高パイオニアヴィレッジ内ガラス工房

2019年に誕生したコワーキングスペース。フロア内のガラス工房〈HARIOランプワークファクトリー〉には、オリジナルブランド「イリゼ」ほかのアクセサリーが並ぶ。制作体験も可(要予約)。
■福島県南相馬市小高区本町1-87
■0244-26-4525
■10:00~18:00 土日祝休

2.【食べて支援】フィッシャーマン・ジャパン通販

“カッコよくて、稼げて、革新的”な「新3K」に漁業を変え、次世代へと繋げる活動をしている若手漁師集団が運営。オンラインによる「お魚さばき教室つき」の鮮魚BOXなど、三陸の海の幸が多数ラインナップ。
https://shopping.geocities.jp/fishermanjapan/

3.【食べて支援】ふたば未来学園「caféふぅ」

地域協働スペース「双葉みらいラボ」内で高校生がカフェを運営。ハンドドリップで丁寧に淹れるコーヒーや手作りのケーキが人気。現在、yahoo!の3.11復興支援企画で、人気のマドレーヌとコーヒー(ドリップバッグ)を販売中。3月15日まで。
■yahoo!の3.11復興支援企画:https://fukko.yahoo.co.jp/

(Hanako1194号掲載/photo : Kaori Ouchi (column) text : Yoshie Chokki)

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