無題 (19)
2022.07.10

ローカルが教える名店 四姉妹と町の人々をつなぐ映画『海街diary』、是枝監督が語る鎌倉の魅力とは?

映画『海街diary』の舞台となった鎌倉。是枝裕和監督に話を聞きました。

姉妹の記憶の量を、食を通して表現する。

_2AB0429

鎌倉を舞台に、四姉妹の絆と町との関わりを描いた漫画『海街diary』。物語は、15年前に家を出た父親の訃報から始まる。葬儀に参列した三姉妹の幸、佳乃、千佳が出会ったのは、腹違いの妹、すず。不倫をして家を出た父が遺した妹である。三姉妹の前でだけ涙を見せたすずの姿に、いっしょに暮らすことを提案。鎌倉の古い一軒家での四姉妹の暮らしが始まる。

この原作を読み、自ら映画にしたいと考えたのが是枝裕和監督。舞台はもちろん鎌倉で、鎌倉名物ともいえるおいしそうな食べ物が、物語の随所に登場する。たとえばしらす丼。ほかほかのご飯に、獲れたての生しらすをたっぷりのせた一杯は、新鮮さが命。海辺の町だからこそ堪能できる味である。

すずと父親の思い出の味、しらす丼。姉たちに素直に明かせない、ふっくらと甘く、懐かしい記憶。
すずと父親の思い出の味、しらす丼。姉たちに素直に明かせない、ふっくらと甘く、懐かしい記憶。

姉たちの前では、初めて生しらす丼を食べるようにふるまうすず。姉たちから父を奪った後ろめたさからの嘘だった。後に千佳には父がよく作ってくれた味だと告白。父親の記憶がほとんどない千佳。姉妹の間での記憶の量の違いが、しらす丼を通して浮き彫りになる。

このしらす丼は、映画のなかで三女・千佳と四女・すずの父に対する思いの違いとして登場する。「父親の記憶のない三女と、父親のことを話せない四女という関係のなかで、しらす丼は微妙な位置にありますよね。同じ姉妹なんだけど、父に対する記憶の量の違いを食で出そうと、あのシーンを撮りました。食というのは、記憶の量が反映されるものなんだなと思ったんです。

〈池田丸 腰越店(いけだまる こしごえてん)〉/腰越
店主が早朝から船を出し、水揚げした魚をその日のうちに提供。透き通った生しらすの姿は新鮮さの証。生しらすにはしょうが、釜揚げしらすには大根おろしをのせた2 色丼が人気。海と江の島を見ながら、すずのようにかっこんでみて。2 色丼1,300円。
■神奈川県鎌倉市腰越2-12-10
■0467-32-2121
■11:30~14:30、17:00~21:30 不定休
■28席

鎌倉にある宿り木のような食堂。揚げたてのアジフライに、温かいご飯。いつもの店がいつも通りある幸せ。
鎌倉にある宿り木のような食堂。揚げたてのアジフライに、温かいご飯。いつもの店がいつも通りある幸せ。

アジフライがおいしい〈海猫食堂〉。重病を患う店主の二ノ宮がすずにかけた言葉は、自分の存在が姉たちを傷つけると悩むすずを、やさしく包み込み、鎌倉にいていいと思わせてくれる。

アジフライを食べる海猫食堂も同じです。あの店で誰と何を食べたのかっていうのは、みんな違う。この映画では、誰とどこで何を食べるかをすごく考えました」と是枝監督は言う。アジフライも鎌倉ならではのおいしさがある。近郊で獲れたばかりのアジは、ふっくらとした身とカリッと揚がった尻尾がたまらない。劇中では、すずは初めて口にするが、姉たちの思い出話を聞きながら、父親の様子を想像する。

〈楽縁(らくえん)〉/小町
カリッとした衣にふんわりやわらかなアジの身。鎌倉近郊で獲れたアジを使い、その日の状態を見ながら、油の温度や時間を調整。塩だけでも十分アジの旨味を感じられる。カリカリの尻尾までいただくのが『海街diary』流。アジフライ定食1,090円。
■神奈川県鎌倉市小町2-11-11 大谷ビル2F
■0467-67-9444
■11:00~22:00 不定休
■14席

風景も食も堪能できる、鎌倉という場所。

「この映画で、食は重要な要素です。食べ物が、いなくなった人と今いる人を結ぶ。食べ物に残る記憶は見えなくても、味といっしょに受け継がれる。そういうことをやりたいな、と思いました」と是枝監督は言う。記憶の量の表現、気持ちを吐き出すきっかけ、思い出を受け継ぐ存在。人と人、人と町をつなげる食。鎌倉ごはんを食べれば、四姉妹の記憶を共有できるかもしれない。『海街diary』とあなたをつなげるアジフライやしらす丼が、鎌倉にはある。

映画では、鎌倉の四季を追って撮影しているのも特徴である。すずが人や町とつながる様子を一年かけて撮り続けた。桜並木を自転車でかけぬけたり、浴衣姿で花火をしたり、梅仕事をしたり……。息を飲むほど美しい映像と、四姉妹の交差する思いが重なり、鎌倉という土地の魅力を伝えてくれる。

「これからの季節だと、サルスベリが見られるんじゃないでしょうか。二ノ宮さんの葬儀の舞台は極楽寺ですが、まわりのサルスベリがとても美しくて、印象に残っています。それに、撮影していてありがたかったのは、鎌倉に住む方々がほどよい距離感でいてくれたこと。顔を合わせれば気持ちよく挨拶してくれて、でも、野次馬的にぐいぐい撮影を見に来るわけではなく、ほうっておいてくれる。素敵な人たちだなあと改めて思いました」

外から来る人を受け入れながら、過剰な干渉をしないのが、鎌倉流なのかもしれない。ぶらり散策していても、飲食店に入っても、その穏やかさは伝わってくるはず。「材木座もいいですよね、すいてて(笑)。のんびりするにはいちばんいい場所じゃないでしょうか。あ、あと、わらびもちもうまかったなぁ。あとから子どもを連れていったくらいですよ」と話す是枝監督からは、鎌倉を楽しみ、堪能していた様子が伝わってくる。海や山が近く、土地ならではの食があり、迎えてくれるやさしい人たちがいる。風景の美しさも、旬のおいしさもすべてを味わえる鎌倉へ、ぜひ。

FROM COMIC

無題 (19)
無題 (20)
無題 (19)
無題 (20)

〈北村牛肉店(きたむらぎゅうにくてん)〉/大町
原作コミックではすずがサッカーのチームメイトと共によくコロッケやカツ弁当を買いに行く店がある。〈北村牛肉店〉は、同じようにできたてのカツやコロッケが並び、地元の人が通う老舗。料理に合わせてカットしてくれる精肉も人気。熱々のコロッケを食べるなら、予約必須。
■神奈川県鎌倉市大町1-2
■0467-22-1856
■9:00~18:00 火、第3 水休

無題 (24) (25)
無題 (23)
無題 (24) (25)
無題 (23)

〈高崎屋本店(たかさきやほんてん)〉/御成
酒好きの佳乃が通う酒屋には、その場で飲んだり食べたりできる「角打ち」がある。〈高崎屋本店〉にも一角に同じスペースあり。全国各地から取り寄せている地酒はなんと80種以上。量り売りの焼酎や紹興酒もあり。鎌倉散策の仕上げに、ぐいっと一杯どうぞ。
■神奈川県鎌倉市御成町5-36
■0467-22-1881
■10:00~19:00 水、第3 木休

Profile…是枝裕和(これえだ・ひろかず)

1962年生まれ。映画監督。初監督作品『幻の光』で第52回ヴェネツィア国際映画祭で金のオゼッラ賞を受賞。以来、作品は海外でも注目される。最新作『ベイビー・ブローカー』は5月に第75回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に選出される。

※インタビューはHanako 2015年6月25日号鎌倉特集の記事を再掲載しました。

(Hanako特別編集『鎌倉びいきが教える鎌倉の答え。』掲載/photo : Yoichi Nagano, Sachie Abiko text :Kaori Hareyama edit : Rie Muraoka)

編集部
編集部 / Hanako編集部

「東銀座にある編集部からお届けします!」

編集部さんの記事一覧 →
2021年4月1日以降更新の記事内掲載商品価格は、原則税込価格となります。ただし、引用元のHanako掲載号が1195号以前の場合は、特に表示がなければ税抜価格です。記事に掲載されている店舗情報 (価格、営業時間、定休日など) は取材時のもので、記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。
TOPに戻る