学芸員ラジオDJ・DJAIKO62さんがおすすめする、今見ておくべきアートとは? 〜今度はどの美術館へ?アートのいろは〜「岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟」展 LEARN 2019.02.27

ラジオ番組で美術展を紹介するうちに美術館巡りの面白さに目覚めたというDJAIKO62さん。コラム連載第12回は〈東京都庭園美術館〉で開催中の「岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟」展をご紹介します。約7年間という限られた期間に制作されたコラージュ作品には一目で見る者をひきつける強烈な魅力があります。〈旧朝香宮邸〉という特別な空間もあわせて楽しんでください。

〈東京都庭園美術館〉へ。

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目黒駅、白金台駅からともに徒歩圏内、フランスにおけるアール・デコ全盛期に建てられた〈旧朝香宮邸〉は1983年から〈東京都庭園美術館〉として一般に公開を開始、館内の装飾は驚くほど細部にいたるまで芸術性の高さを感じられます。国の重要文化財でもある空間で楽しむアートはまた格別ですよ。

見ればわかる、コラージュで世間をあっと言わしめた才能。

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私が美術展を紹介する時に一つ意識するのは「予習をしなくても楽しめるかどうか」という点。作品によっては背景や裏話などを知るともっと面白いのも確かですが、今展においては「コラージュってこんなにも精細でアーティスティックなものなんだ!」と見てまず驚いてほしいなと思うんです。メインビジュアルの一つにもなっている「夜間訪問」はドレスを着た女性の顔の部分が扇になっています。突拍子もない組み合わせのようですが、とても幻想的で美しいなと思う方が先でした。実際の作品は貼り合わせた繋ぎ目すらよく見ないとわからないほど繊細なものです。

岡上淑子・近年再び熱い注目を浴びるコラージュ作家。

左:「轍」1951年〈高知県立美術館〉 右:「ポスター」1950年〈東京国立近代美術館〉
左:「轍」1951年〈高知県立美術館〉 右:「ポスター」1950年〈東京国立近代美術館〉

学生時代に出された「ちぎり絵」の課題にヒントを得て、「溢れるように湧く空想や夢やストーリーを、これなら私でも形にできるかもしれない」と、モード雑誌を切り抜いて黒のラシャ紙の上に置いたのが岡上淑子のコラージュ制作のはじまり。日本のシュルレアリスム運動を先導した瀧口修造に見出された後、エルンストの作品と出会い刺激を受けた岡上さんの作品はどんどん洗練されていきます。表現はより自由に、背景にまでファンタジーが広がりました。

「海のレダ」1952年(個人蔵)
「海のレダ」1952年(個人蔵)

岡上さんが一番のお気に入りという作品が「海のレダ」。いくら女性に順応性があるといっても、変化には誰だって苦しむもの、そんな女性の苦悩を言いたかったのだそう。

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素材となったのは戦後連合国軍が置いて行った「LIFE」や「VOGUE」、「Harper's Bazaar」といったファッション誌。求めるパーツを集めるのに1年近くかかったものもあるそう。

「洋裁の型紙」
「洋裁の型紙」

洋裁を学んでいたという岡上さん、デザインを形にするという点でコラージュとも通ずるところがありそうですね。写真は洋裁の型紙です。

クリストバル・バレンシアガ「カクテルドレス」1955年(京都服飾文化研究財団)
クリストバル・バレンシアガ「カクテルドレス」1955年(京都服飾文化研究財団)

1950年代のファッションにもスポットがあてられていて、4点のドレス(京都服飾文化研究財団所蔵)も参考展示されています。写真はクリストバル・バレンシアガの1955年の「カクテルドレス」です。

しかしそれは1950年から1956年とわずか7年という期間のこと。

岡上さんは結婚を機にコラージュ制作から離れておられます。詳しいことは語られていませんが、時代的なものもあるのでしょう。今展ではその後どんな活動をされていたかもフォローしています。私が特に驚いたのは日本画やスケッチの、丁寧に描かれた美しさでした。

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極々身近にあるものを美しいと感じ取れるか、そして創作意欲の源となるかはひとえにその人が持つ繊細な感性そのものなんだと思います。画像は検索で、素材の拡大や縮小も思いのまま!という便利な現代だからこそ、時間をかけて丁寧に制作された岡上さんのコラージュ作品が再び注目を集めているのかもしれませんね。

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アメリカの〈ヒューストン美術館〉からは12点が里帰りという機会です。ぜひどうぞ。

「岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟」展 開催概要

■会期:開催中~2019年4月7日(日) 
■休館日:第2・第4水曜日(2/27、3/13、27)
■開館時間:10:00~18:00 
※3/29(金)、30(土)、4月5(金)、6日(土)は20:00まで開館(入館は19:30まで)
■会場:東京都庭園美術館 本館+新館ギャラリー1
■展覧会公式サイトはこちらから。
チケット情報やアクセス他、詳細は公式サイトをご確認ください。

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