“私たちの元に生まれてきてくれてありがとう”。自分、子ども、家族の幸せの在り方を考える
ある夫婦のもとに、世界で前例のない疾患を持った子どもが生まれた。
星野孝輔さん、しほさん夫婦のもとにやってきた未来くん(1歳7ヶ月)は、妊娠22週目のスクリーニング検査で頭部の異常が発覚し、顔面と頭蓋骨に奇形を持って誕生した。
「妊娠・出産は何があるかわからない」とはいうものの、実際、妊娠中に我が子の障がいが発覚したら多くの人たちが悩むであろう。
子どもの医療ケアはどうなる? 今後の夫婦のキャリアは?
障がいを持って生まれてきた子と、どのように人生を歩んでいけば良いのだろうか。
星野孝輔さん、しほさん夫婦に話を聞いた。
(右)しほさん:大手外資系企業エンジニアリングマネージャー。部署内女性最速マネージャーに抜擢された。英語が堪能なトリリンガル。
(左)孝輔さん:大手総合映像プロダクションに務め、企業の広告制作に携わる。
彼の真っ直ぐな言葉と、ポジティブさに惹かれて。
──まずは、お二人の出合いについて教えてください。
しほさん(以下、しほ):きっかけは《ツイキャス》でした。
たまたま同じゲーム実況者が好きで、その繋がりで一緒にゲーム配信をするようになって…いつの間にか毎日電話するのが日課になっていったんです。
ある日、その電話で仕事の悩みをポロッと彼に打ち明けた時に、彼がくれた言葉に私が号泣しちゃって。彼の持つ言葉のパワーや、ポジティブさに惹かれて、顔も何も知らないのに好きになっていったんです。
孝輔さん(以下、孝輔):僕も話すたびに素敵な女性だなって思うようになってきて、気がついたら好きになっていました。知り合って半年経ったあたりで会う約束をして、その日に交際を申し込みました。付き合って5年目に結婚をして、それから3年目のタイミングで僕たちの元に未来くんが来てくれたんです。
しほ:お互い顔を知らずに好きになって、結婚した私たちのところに未来くんが来てくれたことに対して、意味を感じずにはいられなくて。見た目なんて本当に関係がないというのを、未来くんと出会って改めて感じました。
──素敵なご縁ですね。元々お二人とも正社員フルタイム勤務ということでしたが、現在は交代制で医療ケアを行っているのでしょうか?
しほ:そうですね。今も24時間の医療ケアが必要なので、まずは二人で2年間の育休を取得しました。それぞれ朝と夜の担当を決めて、交代しながら行っています。
主なケアとしては、気管切開をしているので痰の吸引と、嚥下(えんげ)障害(※)を持っているので、食事の際に胃に直接ご飯を注入すること。あとは、喉の管や首のバンドを定期的に交換。上下の瞼が欠損しているので、点眼も1日に数回行なっています。夜は目が乾燥しないように、小さく切ったラップにワセリンをつけて寝かせてあげるのが日課です。
(※)物を食べる(嚥下する)際に、喉や胸につかえ感や不快感などがあり、飲み込みにくいこと
──24時間体制で医療ケアをしなければならないとなると、育休後は仕事に復帰できるものなのでしょうか。
しほ:夫婦二人ともが、正社員でフルタイム勤務となると難しいかもしれません。
私たちの理想としては、 夫が時間に融通の利く仕事をしてもらい、私も在宅で仕事をしながら家庭に入る割合を増やすこと。将来的にそういう風にできるように目指していきたいと考えているところです。
孝輔:僕も現在は会社員ですが、いずれ独立して融通が利くような形で働いていきたいと思っています。未来くんが生まれる前から、いま勤めている会社にも今後のキャリアプランを素直に伝えていました。その準備が整い次第、自宅で未来くんのことをケアしながら仕事ができる状態にしていこうと思っています。
しほ:逆に、夫が独立して事業が軌道に乗ってくるまでは、私が家計を支える形にしようと思っています。私はエンジニア職なので在宅ワークもできますし、おうちでフルタイム働くことも可能なんです。
家庭に専念するために、キャリアを構築。
──しほさんは、英語も堪能で、エンジニアという手に職もあって、さらにマネジメントスキルもありますよね。そんなに武器をたくさん持ってたら、バリバリ外で働きたくならないのでしょうか?
しほ:むしろ今まで私が仕事を頑張ってきたのは、将来的に家庭にコミットしたいという想いがあったからなんです。
私自身は専業主婦になって24時間家庭に入れる性格なんですけど、自分の仕事を持っていた方が、子どもにもきっといい影響があると思っています。なので、“子どもが生まれる前に可能性を広げておこう”という考えで、今まで仕事を頑張ってきました。エンジニアで、英語のスキルもあるので、仮に正社員を辞めて派遣で働くことになっても、ある程度家計を支えられるような収入が期待できる仕事だと思っています。
──すごい。スキルがあるからこそ、家庭にコミットしながら自宅でも需要の高い仕事ができるという。
しほ:私、結構欲張りなのかもしれないですね(笑)。家庭にも入りたいし、仕事もなんでもいいっていうわけじゃない。自分“だから”できる仕事をしたいんです。
──お二人なら、自分のキャリアを活かしながら理想のカタチで仕事と育児の両立が叶うと思います。今後は、どんな家庭を築いていきたいですか?
孝輔:家族それぞれ幸せをちゃんと感じていることが大切だと思っているので、妻と息子のストレスをなるべく減らして、穏やかに暮らしていけるようにするのが目標です。
妻が家庭に入りたいという気持ちがあるのであれば応援したいし、家族みんながハッピーになれるように仕事をしながら、この先も妻と仲良くしていきたいです。
しほ:未来くんを妊娠する前までは、子どもは三人以上で大家族になろう! と二人で考えていたんですが、実際は育児にかかるお金も考えないといけないですし、未来くんが障がいを持って生まれた現状もあったので、改めて自分、夫婦、生まれてくる子ども、それぞれの幸せの在り方を見直してみたんです。
いまの私たちはそれぞれ幸せを尊重し合っているところなので、二人目、三人目と生まれてくる子も幸せになれるように迎えられる確信を持てたら、次の子どもも前向きに考えていきたいですね。
孝輔:家庭を築くなかで、仕事や育児の悩みというのはどうしても避けきれないと思います。そのなかで、お互いの幸せを尊重して追求し合えることが、僕たちの家族のカタチです。だからこそ、僕は家族が何人になっても幸せにできる自信がありますし、僕ら夫婦の間に生まれた子どもにはたっぷりの愛情を注いで、スクスク元気に育ってほしいです。
text_Maori Kudo photo_Wataru Kitao