待ったり休んだり、何気ない一コマの中に… あなたはどんなとき、“美しい”と感じますか? |
#3 漫画家・今日マチ子

LEARN 2024.02.29

SNSに飛び込んでくる大量のビジュアルやテキストに「いいね」と「やばい」と「スルー」のリアクションを反射的に返し続ける毎日。ふと思ったのは、「美しい」ってなんだろう? ということ。この言葉には何か別格というか、乱用してはならない崇高な気配すら漂う。知りたいのは辞書や教科書的な答えではなく、あの人やこの人がそれぞれの「美」について考えるプロセス。
漫画家の今日マチ子さんには、「美しさ」にいくつかの尺度があった。日々SNSに投稿している絵から、その尺度が垣間見える5枚をセレクトしてもらった。

「音を聴く(ダムタイプ|2022: remap)」
「音を聴く(ダムタイプ|2022: remap)」

東京駅近くにある〈アーティゾン美術館〉での一コマ。ダムタイプの展示「ダムタイプ|2022: remap」でレコードから鳴る音楽に耳を澄ませる女性を描きました。より大きなフロアでのプロジェクションマッピングも素敵だったけれど、このミニマルな空間で自分と向き合うように鑑賞する姿にグッときたんです。

「地下鉄と野菜」
「地下鉄と野菜」

昨年夏、展示もあって約10年振りに訪れた台北での1枚。地下鉄の構内で野菜が育てられていたんです。この有機的な営みと、空間の無機質さの組み合わせがなんともシュール。近未来的でもあって印象に残りました。
それに構図も気に入っています。絵の1/2、あるいは1/3で分割線が入る構図が美しいなと思うんです。今回選んだ5枚にも共通していますね。とはいえ、必ずしもSNSのリアクションがいいものばかりではないですが(笑)。

「コーヒーを待っている間に日が暮れていく」
「コーヒーを待っている間に日が暮れていく」

都内の〈スターバックス〉でのワンシーン。窓から見えるビル群が面白いなと思ったんです。スタバといえば暖色系のデザインだけど、内側から外を見ると無機質な光景が広がっている、というコントラストが印象的で。
そこに人がいるのも、際立っていていいなと思います。この人にとってはオーダー品の出来上がりを待つ時間に過ぎないけれど、そんな瞬間もはたから見るときれい。毎日を応援するような気持ちで普段はピックアップされないような瞬間の美しさを描けたら嬉しいですね。

「向かいのビルで休憩する人」
「向かいのビルで休憩する人」

昨年末の一コマ。友人と新宿の喫茶店に行ったときに、窓から見えた光景です。時期柄、私も含め年内の仕事を納めた人が多かったけれど、この彼女はきっと勤務の合間の休憩中。まさに応援の気持ちで1枚。窓に走るワイヤーが反射して印象的なカットになりました。
選んだ5枚に限らず、SNSに投稿する絵には元になる写真があります。漫画家という職業柄、背景の素材集めのためにも普段からよく撮るんです。もちろん、そのまま絵にするのではなくて特に人の佇まいなどは変えています。

「ビルの隙間から夕日を見る」
「ビルの隙間から夕日を見る」

こちらも年末、新宿での1枚。ビルそのものを撮影したのですが、後々見返したときに、小さく人が映っていたことを発見して。この人はなにをしていたんだろう? と思いながら描きました。
振り返れば、ここ数年はビルを描くことが増えたと思います。10年くらい前には好んで草原を描いていたことを思えば、かなり大きな変化。建築関係の本が多い環境で育ったり、私自身生まれも育ちも東京なのでそもそも馴染み深い存在ではある。それに直線だらけのビルに人がいる様子を描くと、その存在がより浮き立ってくるから面白いんです。

edit_Ryota Mukai illustration_Kyo Machiko

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