くどうみやこさんインタビュー。 【前編】子どものいない女性の生き方。これまで聞こえてこなかった、無子女性の声に耳を傾ける LEARN 2023.10.17

子どもを持つか、持たないかーーそれは、女性の人生にとってとても大きな決断です。子どものいない女性を応援する「マダネ プロジェクト」を主宰し、女性の生き方をテーマに研究を続けるくどうみやこさんは、これまで光の当てられてこなかった子どものいない女性たちの本音をもとに、『誰も教えてくれなかった 子どものいない女性の生き方』(主婦の友社)を執筆。大きな反響を呼びました。これまで誰も教えてくれなかった子どものいない女性の生き方とは?子どもがいてもいなくても、自分らしく生きるためのヒントを、くどうさんに伺いました。後編記事はこちら

これまで聞こえてこなかった、子どものいない女性たちの声

――まず、くどうさんが子どものいない人生に注目されたきっかけはなんだったのでしょうか?

私は、子どもの頃から何の疑いもなく将来は「お嫁さん」になって、子どもを産むものだと思い込んで育ちました。だから、就職も半分腰掛け気分。早く結婚して仕事も辞めるつもりでいました。当時ももちろん子どもを持たない女性はいましたが、それはバリバリのキャリアウーマンか、フェミニストなど、強い意志を持った賢い女性だけ。私のようなごく普通の女性には到底選べない道だと思っていました。

ただ、人生とは思い通りにいかないもの。結局あっという間に20代が過ぎ、気づけば30代に。両親は娘の“行き遅れ”を心配して、私をなんとか早く結婚させようと必死でした。親を安心させるためにと、当時の恋人と結婚したものの、私は「子どもはまだ先でいい」と思っていました。その頃は恋愛モードより仕事モードにシフトしていて、日々目の前のことに必死だったんです。

ところが、42歳のときに子宮の病気が見つかり、これまで曖昧にでも希望を捨てていなかった“子どもを産む”という可能性が、完全に絶たれてしまったんです。「子どもを産まない」のと「子どもを産めない」のは、心持ちが全然違います。これまでふわふわと生きてきたことを後悔し、かなり落ち込みました。でも、今思えば私は子どもを持つか持たないか、真剣に向き合ってこなかった。恥ずかしながら、婦人科健診ですらまともに受けたことがなかったんです。そんななかではじめて「子どものいない女性たちはどうやって生きているんだろう?」という疑問がわいてきました。

――その後、子どもたちのいない女性を応援する「マダネ プロジェクト」を立ち上げますが、どんな経緯があったのでしょうか?

今の私にはきっと彼女たちの生き方が参考になると思いました。でも、子どものいない女性について調べてみても、情報が全然ないんです。そこで実際に子どものいない女性たちに話を聞いてみることにしました。リアルな声を聞き続けるなかで、想像以上の苦しみやつらさを長年抱えている方がたくさんいることがわかってきました。この可視化されていない彼女たちの本音を、社会がもっと理解しなければ。そこで、子どものいない女性が、語り、つながれる場所として「マダネ プロジェクト」を立ち上げることにしました。

――これまで、子どものいない女性の実態があまり知られてこなかった理由として、どんなことが考えられるでしょうか?

例えば、子どものいる女性であれば、子育ての大変さをママ友同士話すことができます。でも、子どものいない女性はたとえ当事者同士であっても、その理由まではなかなか踏み込んで聞きにくいもの。それぞれが悩みやつらさを胸に秘めてきたのだと思います。

実際、子どものいない女性の多くは、側から見れば仕事に忙しそうだったり、好きに生きているようだったりして、「子どもがいなくても、それなりに楽しく生きている」と思われていることがよくあります。でも、根っこの部分では、モヤモヤしていたり、傷ついていたりすることも…。それを理解してくれる人が周りにいないから、余計に苦しさが増してしまうのです。

今の時代、会社にはいろんな立場やステータスの人が働いているのも関わらず、支援制度の中心となるのは、子育てに関すること。そんななかで、子どものいない人は、子どもがいる女性をサポートするのが当たり前という見方もあります。もちろん、大変なときは助け合うのは当然だと頭では理解していても、周囲の感謝がなかったり、我慢ばかり強要されたりする環境であれば、不遇感を感じる人もいるでしょう。だけど、そんなことを口にしたら「子育てに理解がない人」と言われかねない。自分の気持ちは飲み込んで黙って働くしかない、子どものいない女性からはそんな声も漏れ聞こえてきます。

産むも産まないもイバラの道。産みたいのに産めない女性たちも

――子どもがいない人生を選ぶ(選ばざるを得ない)理由には、どのようなものがあるのでしょうか?

現在、無子女性は増加傾向にあると言われていて、国立社会保障・人口問題研究所によれば、2000年生まれの女性の31.6%(現在の出生傾向が続く場合)~39.2%(出生率を低く見積もった場合)が、生涯子どもを持たないと推計しています。また、経済協力開発機構(ОECD)によると、日本の1970年に生まれた女性の50歳時点の無子率は27%で、同じく3割程度の数字となっています。これは先進国で最も高い数字です。

子どもがいない理由はさまざまで、最近特に多いのは、不妊治療をして最終的に授からなかったケース。ほかには私のように婦人科系の病気で子どもを持てない人や、気づいたら年齢を重ねていて、出産が難しくなっていたというケースも少なくないでしょう。また、若い人に多いのが、経済的な不安です。自身の家庭環境に問題があり、結婚や育児に希望が持てず、子どもを持たない選択をする人もいます。

――一方で、現在の日本では「産む」こともまたハードルが高いように感じます。「産む人生」を選択しづらい理由に、どのような問題があるでしょうか?

私が若い頃は、子どもを持つのは自然なことで、それに対して不安を感じる人も少なかったように感じます。しかし今は、簡単に「子どもを持ちたい」などと思えない状況ですよね。それは、経済面に加え、共働きが一般的になったことも要因として大きいと思います。女性は結婚して子どもができても働き続けることがデフォルトになり、仕事と育児の両立が求められる。身近な先輩を見ていると、ものすごく大変そうで、とてもじゃないけど自分にはできると思えない…。そう思ってしまう女性は少なくないのではないでしょうか。

近くに両親が住んでいるなどサポート体制が整っているならまだしも、それが全くないとなると、負担増の不安から子どもを持つことに、ブレーキがかかってしまうでしょう。現在、国では少子化対策として子育て支援に力を入れてはいるものの、まだまだ追いついていないのが実情です。仕事も暮らしも、経済面も不安。産むも産まないもイバラの道というのが、残念ながら今の日本の社会構造ではないでしょうか。

後編記事に続きます。

text_Renna Hata illustration_Asato Baba

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