リーベ2

くどうれいんの友人用盛岡案内 〜スポット編〜 #2 ティーハウスリーベ Learn 2023.05.15

岩手県盛岡市在住の作家のくどうれいんさんが、プライベートで友人を案内したい盛岡のお気に入りスポットと、手土産を交互に紹介します。

2.ティーハウスリーベ

盛岡は喫茶店が多い街である。街を歩けばコーヒー豆を焙煎するにおいが漂っていて、どこも扉を開けてみたくなる場所ばかり。けれど、十七歳のときのわたしには、その素敵な雰囲気にひとりで足を踏み入れる勇気は無かった。

それは二月の、雲をちぎったようなぼたん雪の降るとても寒い日だった。わたしは高校生で、文芸部に所属していて、原稿の締め切りを抱えていた。お守りのように黄色いガラケーを持ち歩き、通学用のリュックの中にはポメラという、Word機能がついたちいさな電子機器が入っている。その日、わたしはいつも通り俳句会へ行き、思うように点の入らなかった句について考えながら外へ出ると、目の前はすっかり雪だらけになっていた。盛岡駅まで歩いてたどり着くには三十分ほどかかる。傘を持っていなかったが、構わず歩き出した。足元はとけた雪と積もった雪でぐしゃぐしゃになっていて、ブーツはあっという間に濡れた。濡れたところからじわじわと冷たさが足先を喰うように襲ってきて、わたしは奥歯を噛み締めながら歩く。そこで一本の連絡が来た。仲良くしてくれている人が、実はしばらく前から重い病気と格闘していて、その格闘が思いのほか長引き、入院することになったからとうぶん会えなくなるだろうという連絡だった。冷え切ったからだで、わたしは絶望した。大好きな年上の友人だった。重い病気の最中にありながら、それをちっとも感じさせないような明るさでお茶をしてくれていたなんて。あたまだけがぐるぐると熱くなり、しかし足元は冷たかった。しんじゃったらどうしよう。一度そう思うと止まらなかった。どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしようもないのに、わたしには。冷えた足の指の感覚がなくなって、歩くたびに足の裏がじんじんと痛んだ。泣き出したかった、というか泣いていた。だめだ、このまま盛岡駅までは歩けない。そう思ったあたりで櫻山神社の前にいて、雪の中であたたかく灯る黄色い看板、それが〈ティーハウスリーベ〉だった。

わたしはその日、はじめてひとりで喫茶店に入店した。「あら、いらっしゃい、お二階?」と奥さんのやさしい声がして、よくわからなかったので、はい。と答える。二階にはつややかに黒く塗られた木材の椅子やテーブルが置かれていて、とてもかっこよかった。わたしはいちばん奥の席に座った。
手渡されたメニューはピンク色のファイルで、その中には手書きでたくさんの飲み物の名前が書いてあった。コーヒーのことはよくわからないし、パフェを食べるような気持ちでもない。悩んだ末、ブルガリアミルクティーを頼んだ。「こいめのミントミルクに、ホイップクリームを浮かせました」と書いてあり、あたたかくて甘そうだったので、そうした。

リーベ1

届いた飲み物は、とても愛らしかった。いかにもティーカップというようなカップとソーサーで出てきた飲み物の上には、ぐるりと絞ったように生クリームが浮いていた。一口飲む。くちびるにひんやりと生クリームが触れて、口の中にはとても熱いミントミルクティーが流れ込んできた。あまりに熱くてくちびるをすこしやけどした。けれど、その熱さがわたしを冷静にした。(書こう)と思った。とにかくいまわたしにできることは、わたしの作品を作ることだけ。わたしはブルガリアミルクティーを飲みながら、ポメラを出してそこにたくさん書いた。ブルガリアミルクティーは冷めながらより甘く、ミントの香りがしてとてもおいしかった。奥さんが二階に上がってきて、わたしはそそくさと帰る支度をした。飲み終わっても居座るというのはあまり良くないことだと思ったから、叱られてしまうかもしれないと思ったのだ。すると奥さんはお冷のポットを持ってきて言った。
「終わったの?それ」
「えっ」
「宿題?」
「……まあ、そういうかんじです」
「終わるまで書いていったら、まだ雪だし」
奥さんはわたしのお冷のコップに水を入れ、「がんばって」とほほ笑んで一階へ降りて行った。とても、うれしかった。書き終えることはできなかったけれど、一区切りつくところまで書いてお会計をした。「またお越しください」の代わりに「おつかれさま」と言われた。お店を出ると雪は降りやんでいて、わたしはとてもあたたかい気持ちで帰った。

リーベ2

それからというもの、わたしはリーベを愛している。はじめてデートをした日も、芥川賞候補になった日も、退職した日も、こころが落ち着かない日は必ずリーベに来る。それだけじゃなくて、リーベでなくては埋まらないこころの隙間があるから、定期的に来る。
金魚が住めそうなおおきな器で出て来るチャーミングティーも、アイスとコーヒーゼリーまでついて来るケーキセットも、騎士のよろいのような器で出て来るアイスコーヒーも、じゃりっとしたかき氷も、分厚いグラタントーストも、リーベで注文するすべてがわたしは好き。

だから、友人が盛岡に来るときは、そういう大事な場所として案内する。わたしの大切な場所、〈ティーハウスリーベ〉。

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