くどうれいんの友人用盛岡案内 〜手土産編〜 #1 光原社のくるみクッキー
岩手県盛岡市在住の作家のくどうれいんさんが、プライベートで友人を案内したい盛岡のお気に入りスポットと、手土産を交互に紹介します。
1. 光原社のくるみクッキー
お土産というのは実に奥が深いと思う。その土地と言えば!を優先するか、その人が好きそうなものを優先するか、とにかくおいしいことを優先するか、常温で個包装なことを優先するか。作家になってから、盛岡のお土産を買う機会がとても多くなり、いまも常にあたらしい、ぐっとくるお土産を探し続けている。
そんなわたしがいちばんよく買う盛岡土産は、光原社の「くるみクッキー」。
民藝に興味のある人ならばとっくに知っているお菓子かもしれないけれど、わたしはいま、改めてこのくるみクッキーのすばらしさをお伝えしたい。
光原社は盛岡市材木町の商店街の中で、凛とした風格でそこにある。陶器や硝子、布物や漆塗りの食器、全国各地の工芸品などを取り扱うお店だ。もともとは宮沢賢治の生前唯一となった童話集『注文の多い料理店』の発行元であり、宮沢賢治ファンたちが訪れる聖地のような場所でもある。
光原社には二階建ての本館と、うつくしい中庭があり、本館の道路向かいに別館〈モーリオ〉がある。くるみクッキーはその別館で購入できる。
静かなのに温かみのある包装紙にまずは心躍る。さて、開けます。
わあ。何度も見ているはずなのに、この箱を見るたびに声が出る。くるみクッキーには5個入りと10個入りと16個入りがあるのだけれど、この箱が手に入るのは10個入りからなので、いつも10個入りを買ってしまう。
かわいらしさと誠実さを兼ね備えたこのパッケージは、岩手県紫波町にある小田中染工房の3代目を務める型染め作家の小田中耕一さんによるもの。晴れた日に光原社の中庭を通ったときのすがすがしくうれしい気持ちと、昔からこの場所を知っていたのではないかと思ってしまうような妙ななつかしさ、愛着がこの箱にはある。
箱の中にはきれいに並べられたくるみクッキー。裏返すとひとつひとつ「モーリオ」と書かれたシールが貼ってある。宮沢賢治が作品「ポラーノの広場」の中で登場させた、盛岡の街をモデルにした地名「モリーオ」をもとに「モーリオ」をお店の名前にしたのだそう。
手に取ってみると、くるみクッキーはひとつでもしっかりとした重さでうれしくなる。コーヒー淹れましょう。つめたい牛乳でもいいかもしれない。このクッキーは盛岡市の横澤パンが作っている。
ひとくち。ほろ。という。ヌガーを絡めたくるみをタルト生地で挟んで焼き上げた「エンガディナー」という焼き菓子があるけれど、それよりもずっと「ほろ」としていて、歯にくっついてくるしつこさがまったくない。クッキーがあまい、くるみがほろにがい。おいしい。くるみクッキーを食べるたび、いつも「わたしがりすだったらおいしすぎて気絶してしまうかもしれない」と思う。噛むごとにくるみの味がつよくなる。小麦とくるみの風味がぶわっと広がり、あっという間にひとつ食べきってしまう。
白状すると、わたしはお土産用に買ったくるみクッキーをがまんできずに食べてしまったことがある。それも一度ではなく、三度以上ある。
盛岡駅やお土産屋さんでは買えない。光原社に来て、「モリーオ」を感じたひとだけが持ち帰ることのできるお守りのようなくるみクッキーだ。