興味を深堀りし、親も子どももバージョンアップする。 「子どもの興味の対象を、親も一緒に面白がる」♯03草野絵美さん (アーティスト) 後編 MAMA 2023.02.27

アーティストであり起業家でもある草野絵美さんは、10歳と2歳の2人の子育てをしている。一人目の子どもを妊娠したのは大学在学中。一年の休学を経て大学に復学し、卒業後は広告代理店に勤務。子育てのモットーは「親子で知的好奇心を伸ばす」ことだ。2021年には、8歳の長男が夏休みの研究で手がけたピクセルアートをNFT作品として販売。「Zombie Zoo Keeper」の作品はSNSなどでアートコレクターの目に留まり完売、その後、アニメ化プロジェクトへと発展した。
既存のルールや常識にはとらわれず、持ち前のディグり(ヲタク)精神を活かし、楽しみながら子を観察、子育てについて研究してきた成果が2022年の春に『ネオ子育て』として出版された。現在は、起業家として新たなNFTやデジタルアートのプロジェクトを行う会社を経営しつつ、子育てにまつわるエッセイやインタビューを多数受けている。30代前半にして、いくつもの人生を生きているようなパワフルな草野さんに聞く“ネオ”子育てとは。

大学在学中に出産を経験した草野さん。その後卒業論文のために「よい子育て」についてのインタビューを行い、自身の中で子育てのゴールを「子どもと対等で良好な関係を築くこと」に定めた。そして、社会人経験を積むために広告代理店に就職した。多忙な広告業界にあって「残業のできない新人」は、かなりのレアケースだろう。働きやすい環境を手に入れるのは、並大抵のことではなかった。

「入社時はラッキーなことに自分が得意とするクリエイティブの部署に配属され、理解ある上司のもとで働けたのですが、半年後に部署の統廃合により環境が変わってしまいました。新人なのに残業ができない人材というのは、広告業界では用意されていないポジションだったので、居場所を見つけるのはかなり苦労しました。他の部署の方に相談をしたり、コミュニケーションをとって、どういう部署や仕事内容だったら自分が輝けるかを探し、自分ができることを伝え歩く日々でした。コミュニケーションがすごく重要でしたね」

組織で働きながら子育てをしている方は、この草野さんの言葉にきっと大きくうなずいていることだろう。就業規則で労働者の権利が謳われていたとしても、現場の忙しさを尻目に会社を後にするのは、後ろめたい気持ちが付きまとう。同期に相談しようにも、生活スタイルが違い過ぎて話が合わず、なかなかうまくいかない。さらに草野さんは社会人1年目で離婚を経験。「協議自体は1日で終わりました。相手も私もそこに労力を割かないようにしました」と軽やかに話すが、どんな形であれ相当な労力を伴っただろうことは想像に難くない。
子育てに仕事に目まぐるしい日々ではあったが、一番大事なのは「自分のメンタル管理」だと心に銘じ、周囲の助けを借りていた。

「生まれたばっかりの頃はとにかく必死で助けて〜!って言いまくっていましたね。とにかく自分がいっぱいいっぱいになってしまったら終わりだ思っていたので。もちろん保育園にも行かせてましたし、大学の後輩にベビーシッターを頼んだり、母親に助けてもらったり。自分の中でも子育てというのは、一人もしくは夫婦だけ育てるわけではないと思っていましたし、子どもはいろんな人の影響を受けて育っていくのがいいと思っていました。その時も、周囲で子どもがいる人がほとんどいなかったから、赤ちゃん可愛い〜ってみんなが応援してくれたのはすごく助かりました」

「自分のメンタル管理」をしていく上で、周囲の助けを借りるのは必須だが、自分を保ち続けるためのインプットもすごく大切な時間だ。草野さんは、学生時代からSatellite Young(サテライトヤング)という日本の歌謡曲にインスパイアされたエレクトロ・ポップグループの活動をしているが、第一子の子育て時には少しでも時間があったら曲を考えてボイス・レコーダーに吹き込んでいた。現在は、第二子の手が放せない時だというが、子どもが寝た後はAIアートの制作に熱中している。草野さんにとって「創作」する時間が癒やしであり、発散にもなっているのだ。

「隙間時間に何をするのかは人それぞれだと思いますが、親でもなく、配偶者でもなく、仕事でもない、自分だけの時間を持つというのはすごく重要だと思っています。私の場合は、創作とインプットがすごく重要ですね。最近は、抱っこ紐で散歩をしながらオーディオブックやポッドキャストを聞くのにハマっています。子どもが産まれてから活字を追える時間がとれないんですが、最近は何でもオーディオブックになっているのですごく便利です。最近はすごく種類も増えましたし、朗読しているのが声優さんや俳優さんだっりするので、臨場感もあり、頭にも入ってきやすいです。最近は慣れてきて3倍速で聞けるようになったので、週に3冊くらいのペースで実用書や小説を読んでいます。何かをインプットするとモチベーションもあがるし、ネットでダラダラとニュースを見るよりも情報量があるので、本が一番アイデアの宝庫になっているなと感じます」

出産後はその前にできたことができなくなる。その時、今までのようにあれもこれも「できない」自分にショックを受けるし、悲観したくもなる。しかし、草野さんの話を聞いていると、できることを見つけて、そのスキルを伸ばすことだってできるんだと励まされる。昨今、政治家が軽々しく言った産休・育休中のリスキングについての話が非難轟々だったが、あれこれできないからといって何も学ぶことを止める必要はないのではないかという気持ちになる。資格や学位のための勉強というとプレッシャーになるかもしれないが、そこは選択と集中だ。漫画でもアニメでもアイドルでもいい。自分の得意な(好きな)ことにフォーカスする。その結果、思いも寄らないスキルが伸びるかもしれない。

SF小説、文芸、政治、心理学、歴史、テクノロジー、教育……、草野さんの興味は幅広い。その興味の幅広さは、子どもの興味関心と並走することでさらに広がっていくのだという。

「子どもに質問された時にどう答えたらいいかと思って読み始めた本も多いです。今は子どもがとにかく歴史好きなので、一緒にどんな歴史漫画があるのかを調べて買ったり、一緒に勉強をしています。でも、この子は歴史が好きだから将来は歴史博士になれる!と親が肩入れし過ぎても、次の年には何の興味もなくなっている。子どもの興味関心というのは本当にコロコロと変わっていく。それは当たり前のこと。私にできることは、子どもが本当にハマれるものを一緒に探すサポートをしたり、案内人になることです。

その対象はアンパンマンでもいいかもしれません。子どもがアンパンマン好き〜といったら『アンパンマンにはいろんな種類があるんだよ』という風に、一緒に興味を持って“好き”を伸ばしていくのが大事なのかなと思います。例えば私は、戦国武将には興味がなかったんですが、歴史を検索してみると、歴史系ユーチューバーの面白い人がいたり、歴史漫画のタッチも今どきで興味をそそるものになっていたり、面白いドラマがあったりとすごく入り込みやすいんです。その中から自分が好きなポイントを見つけて、面白がることで自分にも新しい扉が開ける。親も子どもも一緒に新しい勉強の旅に出るつもりで、子どもの興味に寄り添うのがいいと思います。

それは勉強も同じ。勉強って自分がやる気にならないと全然頭に入ってこないし、どんなに親がいい環境を与えたとしても、子どもが楽しめなければ不幸せになっちゃうし。そこのコアになるのが、『面白がれる力』なんだと思います。どんなことに対しても面白いって思える好奇心のマインドセットが大切なのだと思います」

「どこまでも情報を深堀りするオタクになりましょう」と草野さんは本に書いているが、子どもの興味の対象を「親も一緒に面白がる」、とても重要なポイントだ。子どもがやってることだからと傍観するのではなく、親も前のめりに楽しむ。そして、必要な文献や情報を先に調べて差し出したり、一緒に検索して学んだり、情報を深める(ディグる)ことを一緒に楽しみながらやる。その方法論は、興味の対象が他に移ったとしても使える。歴史にハマっているという10歳の長男は、自身のiPadで検索をして情報を集め、城ファイルを作成し、全国の城を巡ったり、家紋や城の地図を描いたりしているという。立派なオタクである。

現在も「ネオ子育て」は、日々アップデート中だという草野さん。情報収集は欠かさず、子どもと一緒に様々な事象を面白がる日々だ。子どもの活動から着想し、2021年に起業。現在は起業家として、NFTの世界で手腕を発揮している。草野さんも、子育てをしながら日々アップデートしている。

「私は完璧な親になろうとは思いませんでしたが、親になったことで子どもにとって恥ずかしくない人であろうということは常に意識しています。人に優しくしようとか、すごく小さいことかもしれませんが、“常に自分のベストバージョンでいよう”と思えるのは、子どもがいるからこそだと。子どもがいることによって、自分がベストな方向に向かっているんだなと思います。自分のベストバージョンというのは、何も仕事をしていなくてもよくて、専業主婦の方でも地域に貢献したり、趣味に打ち込んだり、人それぞれだと思います。その人に最適な場所で輝くことが重要。人生を楽しんでいる姿を子どもに見せるのが一番。そのためにも、皆さんがご自身の人生を謳歌してください」

『ネオ子育て』草野絵美著/CCCメディアハウス
いかにして子どもの好奇心を開花させるか? 親も新しいことに挑戦し続けるか? 草野さん自身も楽しみながら、観察と実験を繰り返した子育ての記録とノウハウをまとめた一冊。
『ネオ子育て』草野絵美著/CCCメディアハウス
いかにして子どもの好奇心を開花させるか? 親も新しいことに挑戦し続けるか? 草野さん自身も楽しみながら、観察と実験を繰り返した子育ての記録とノウハウをまとめた一冊。
photo:Eri Kawamura text:Keiko Kamijo

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