漢方って何なのだろう? 散歩でみつけた植物をお茶にしていただく | ゆるめる23時 HEALTH 2023.12.29

一日はあっという間に過ぎていく。起きて、仕事して、合間にごはんを食べて、息をつく間もなく眠りについて。気づいたらカレンダーがどんどん次の日にめくれていく。やるべきことをこなしたり、やりたいことに夢中になったりする時間も大切だけれど、ふと一息、ぴんとはりつめた自分をゆるめる時間をどこかに取り入れられたら。たとえば、眠る前の23時だけでもそんな時間がつくれるように、日々のなかで取り入れられる「ゆるめる」方法をme and youの竹中万季さんが探しにいく体験型のコラム連載です。

大きい公園のそばに引っ越してから、公園まで散歩することが習慣になった。少しの時間だけでも緑のなかに身を置いているだけで、身体や心がほぐれていく。人間だけでなく、木々や生きものたちとともに生きているのだという、当たり前だけれど都市で暮らしていると忘れられてしまいがちなことを思い出させてくれるからかもしれない。都内にも実はたくさん緑があって、どこかの街に出かけたときには自然と緑がある場所に向かうようになった。

小石川植物園は東京のど真ん中、文京区にある植物園で、植物学の教育・研究を目的とする東京大学の教育実習施設だ。前に友人の誘いで訪れたときに、一歩足を踏み入れただけで都市にいることを忘れ、見たことがないような多種多様な植物に囲まれて静かで穏やかな気持ちになり、公園ともまた異なるよさがあった。

そんな小石川植物園で「小石川植物祭」というお祭りがあることを知り、ユニークな企画の数々にわくわくして絶対に行かなければと思っていたら、友人の稲川由華さんが「漢方と日々を支える植物を知るツアー」というワークショップをやるということで、さっそく行ってみることに。

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稲川さんとは、前職の仕事で知り合った。話しているだけで不思議とパワーをもらえるような人で、いまは漢方養生指導士の資格をとり、「inagawa yakuzen」という屋号で漢方にまつわるさまざまな表現活動をしている。今日のツアーでは、漢方の視点から園内をツアーし、そのあと園内で採集した植物たちを使用したブレンドティーを楽しめるそう。

木々

駅を出たら雨が降っていたのに、着いたらちょうど雨がやんで、木々がきらきらと輝いていた。集まった5人で、ワークショップがいよいよスタート!

ワークショップ

まずはじめに、稲川さんから「漢方ってどんなイメージですか?」という質問が。「天然の薬?」「ちょっと風邪をひいたときに頼る存在……?」。わたしも普段、風邪気味のときに葛根湯を飲んでいるし、PMSで困っていたときにも漢方薬を飲んできた。薬のイメージもあるけれど、薬膳鍋や漢方茶など、食に取り入れられるものという印象もある。漢方って何なのだろう? 身近なようで、聞かれると意外と答えられない。

稲川さん

中国の中医学を日本式に解釈したものを「漢方」と呼び、実は中国にはこの言葉はなく、日本にしかない独自なもの。西洋医学が日本に入ってきたときに「蘭方」と呼ばれ、その対として「漢方」と名付けられたそうだ。「漢方医学には鍼やお灸、あん摩、つぼ押し、薬膳、養生などが含まれていて、性格や体質、どうやって暮らしているのか、季節なども考えながら、その人に合った処方をしていきます。薬の印象が強いけれど、意外と身近にあることを知ってもらえたらと思います」と稲川さん。

漢方薬は西洋の一般的な薬とは異なり、この植物園にあるような生きた植物を用いてつくられる。稲川さんの案内で、まずは薬草が植えられている「薬園」に向かった。

小石川植物園 薬園保存園

小石川植物園の薬園保存園は、徳川家とのつながりがあるとのこと。徳川家康が天下をとった時代、孔子の教えである儒教の考えを取り入れたことから健康への関心が高くなり、幕府には薬草が献上されることもあったそうだ。5代目の綱吉の頃、「小石川御殿」という屋敷があったこの場所に薬園がつくられ、さらに8代目の吉宗が産業振興に力を入れ薬用の植物をたくさん植えるようになり、現在の薬園ができあがっていった。江戸から脈々と受け継がれてきたのだと思うと、いかに重宝されていたかがわかる。

普段、錠剤や粉末状の漢方薬を飲んでいると、これが植物からできているということもつい忘れてしまう。ここからは、漢方薬などにも使われている薬草を一つひとつ見ていくことに。

アシタバ

天ぷらでたまに食べることがあるアシタバは、貧血に効いたり抗酸化作用があるとのこと。お茶で知られているドクダミは、利尿効果や熱を下げる効果があるほか、花を摘んで焼酎につけて虫刺されに使うこともあるらしい。なにも知らなければ雑草だと思って通り過ぎてしまうかもしれない植物たち。これらの効能を一つひとつ見つけ出した昔の人たちは本当にすごい。

「クコの赤い実は杏仁豆腐にのっていますよね。血を補うときには、赤いものを食べるといいと言われています。ほしいものに近い色のものを食べるということですね。ニラは冬が旬ですが、それには理由があって、身体を温める効果があるから。旬のものを食べることが、自分の身体のためになるんです」

ニラ

「薬膳というと、『赤いよくわからないものが入っているけどからだによさそう』『これが入っていないと』というイメージがありますよね」と稲川さん。たしかに、そんなイメージがある。「薬膳の本当の意味は『自分に合った食事』という意味で、風邪のときに生姜やネギを食べることと一緒です。言葉が繋がっていないだけで、実は自分の身近にあるんですよね」。

どの季節にどんな植物が育つか。昔の人たちは植物がもっと身近で、季節に合った食材を生活の中に自然に採り入れていたはず。今はスーパーに行けば、季節を問わずどんな野菜もだいたい手に入る。便利になった一方で、自分の身体にどんな食べものが必要なのか考える機会は減っているのかも。これからスーパーで買い物をするときは、食材を見る目が少し変わりそうだ。続いて、「分類標本園」へ。

小石川植物園 薬園保存園

まるで標本のように、隣り合わせにさまざまな植物が植えられ、それぞれに植物名が書かれた看板が立てられている。植物の図鑑の順番通りに植えられているそう。生きた図鑑のような空間だ。

植物

たまに家の庭などでも見かける松の木。これにはアカマツとクロマツがあって、アカマツの下には松茸のようなきのこが生えることから、葉を干して切ってお茶にすると出汁のような味がしてとてもおいしく、滋養強壮の効果もあるのだそう。近くにあったイヌビワと一緒に、のちほどのブレンドティーにも使うとのことで楽しみ。

チャノキ

お茶に使われるチャノキ。ここでは稲川さんからお茶に関する豆知識が。

「この葉から緑茶や烏龍茶、紅茶をつくることができますが、製法の違いによって、身体への影響も異なります。発酵されていない緑茶は、身体を冷やしたり喉の炎症時にうがいをするのによく、半発酵している烏龍茶は、寒くも温かくもならないので日常で飲むのにいい。全発酵している紅茶は身体を温めることができる。発酵するときは熱が出るので、その作用に応じて人間の身体も温かくなるんです。体調に合わせて選べば、身体をコントロールするための一つの材料になります」

クマザサ

道端で立ち止まり、「これがブレンドティーにも入っていることが多いクマザサです」と稲川さん。あまりにも自然に生えていて、お茶になるなんて絶対に気づかない! 繁殖力が高く、こんな風にばーっと生えているらしい。利尿効果や毒出しの効果があり、青っぽい味がするそうだ。これも後ほどのブレンドティーに入っているとのこと。

分類標本園を出て、植物園の中を歩いていく。お腹の調子を整える効果もあるという、いい匂いがするゲッケイジュの木。血管にいいとされているイチョウ。これらの葉っぱもこのあとのブレンドティーに使われるそうだ。

竹中万季

空も次第に晴れてきて、雨上がりの土の匂いがする。広場にレジャーシートをひき、ここからはいよいよブレンドティーの試飲タイム。今まで見てきた植物を使った、ここでしかつくれない特別なお茶をいただく。

ブレンドティー

使われたのは、植物園を散歩する中で紹介してもらった、アカマツ、イヌビワ、クマザサ、ゲッケイジュ、イチョウ、そして「杜仲茶」としても知られているトチュウと柿の葉だ。それぞれにさまざまな効能があるのはもちろん、味もいい具合に調和して、稲川さんも試飲したときにそのおいしさに驚いたそう。

ブレンドティー

お湯を注ぐと、いい香りが。素朴だけれどじんわりと身体に染み渡る味。木々に囲まれながら、その木々を自分の身体にも取り入れる。新鮮なようで、昔の人が自然にやっていたことが失われてしまっただけなのかもしれない。

AMMIN CHAI

最後に、inagawa yakuzenオリジナルの「AMMIN CHAI」を飲みながら、秋の養生についてのお話を聞いた。

乾燥するこの季節は、特に肺に気をかけるといいとのこと。肺が司っている機能はたくさんあり、乾燥にすごく弱いため、「体を潤すこと」「朝、窓を開けて深呼吸してみる」「汗を出しすぎないよう、辛いものを食べすぎない」という三つのポイントを教えてもらった。また、大根はちみつは喉を労るのにぴったりで、甘酸っぱいりんごや梨やみかん、黒酢あんかけやはちみつレモンなど酸味と甘味が一緒になった食べものは体を潤してくれるということについても教えてもらった。家に帰って、すぐにでも取り入れられそうだ。

陽が短くなると、人間の身体のリズムもゆっくりになっていく。新しいことを活動的に始めるのに合っている春に比べ、秋から冬にかけてはのんびりゆっくり考え、動かしてみることを心がけるといいそうだ。稲川さんは11月に入って年末年始が近づいてくると、なるべく仕事を入れすぎずにゆっくり過ごすことを心がけていた。周りの人はもっとやってるけど大丈夫かな……と葛藤することもあったけれど、自分のスタイルを受け入れるようにしたら、体や心も楽になったとのこと。自分の思った通りに生きてみるのも一つの養生だという。

稲川さん

「人を元気にするのがわたしの使命だと感じます」と稲川さん。元気になるための選択をする架け橋になるようなことができたらという思いで活動していると話してくれた。

植物は目で見て心をゆるませてくれるだけでなく、それを自分に合ったかたちで口にして取り入れれば、身体もよいほうに向けてくれる。いくつもの季節を超えて、地球にずっと存在している植物たち。人間は季節や時間など地球のリズムにとらわれずに生活できるようになったけれど、もっとそのリズムに立ち返ってみてもいいのかもしれない。元気になるための知恵は、意外と身近な場所にあるのだ。

※通常時、園内植物の採集はできません

text&photo_Maki Takenaka illustration_Karin Okamoto edit_Kei Kawaura

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