京都だけの「きつね」と「たぬき」って?おもしろすぎる京都食堂の世界

京都だけの「きつね」と「たぬき」って?おもしろすぎる京都食堂の世界
京都だけの「きつね」と「たぬき」って?おもしろすぎる京都食堂の世界
FOOD 2026.09.28
京都が誇る食文化の一つ、食堂。「麺類・丼物一式」? 京都だけの「きつね」? 人々と共に独自の歩みを刻んだ、京都食堂の世界へご案内。京都の会館にも精通した立命館大学教員の加藤政洋さんに教えていただきました。
illustration_Hitoshi Kuroki text_Shiho Yoshida
profile
加藤政洋
立命館大学教員

かとう・まさひろ/専門は人文地理学で、京都の会館にも精通。近著に地理学の専門家5名で構成される〈味覚地図〉研究会の研究成果をまとめた『京都食堂探究」(ちくま文庫)がある。

くる日もいつもの味をひたむきに作り続け、地域の人々の胃袋を支えてきた食堂。本頁での「京都食堂」とは〝麺類と丼物を揃えた気軽な食事処〞のこと。起源は餅屋といわれる。その代表格が今も京都でよく目にする〈力餅食堂〉で、京都食堂についての著書を持つ加藤さんによると「創業当時は餅屋で、甘味処を兼ねる店もあった。その後1920年代に暖簾(のれん)分けで街のあちこちに広まり、現在の姿へ進化したと考えられます」。味はもとより、よく知る定番料理も京都食堂では少しばかり様子が異なる。つまり旅人にとっては新鮮な驚きを持って独自の食文化を体験できる場所でもあるのだ。値段も手頃。例えば、龍安寺そばの〈あいおい〉は千円あれば十分。加藤さんが「京都食堂の醍醐味」と熱く語る〝台〞の変更にも、どの店も快く応じてくれる。

今回は、そんな食堂のいろはを伝授。後は実践を重ね、自分好みの一軒を見つけてほしい。

1. 麺類・丼物一式。

京都の食堂イラスト
餅系食堂の特徴として表のショーケースがある。ここにおはぎなどが並び、ひとつから販売する。

看板のほか、品書きや箸袋などで目にする「麺類・丼物一式」。これは京都食堂のメニューを一言で表した文言。〈力餅〉や〈相生餅〉などの餅系食堂では、これらに昔の名残と思われる自家製おはぎや赤飯などが加わる。食堂の名前は同じでも経営は個人。味の肝となるだしも店ごとに違うため、うどんひとつとっても同じ味はふたつとない。自分好みの京都食堂探しに、近道はないのだ。

2. 「台」と「上置き」。

京都の麺の違いがわかるイラスト
京都食堂の中華麺はストレートの細麺。素朴な味わいが和だしとマッチする。

加藤さんいわく「京都は西日本随一の台替え天国」。“台”とは麺を指し、“上置き”は麺や丼の具を表す。台の変更は、京都食堂の楽しみ方のひとつ。というのも食堂の品書きは主に上置きのことを指しており、台には縛りがないのだ。種類は主にうどん、そば、中華麺(黄そば)の3種。なかには夷川室町にある〈やっこ〉の「キーシマ」のように、キー(黄そば)×シマ(うどん)が評判となり名物になった店もある。

3. 卵でとじる。卵で蓋する。

京都の卵でとじる。卵で蓋する。がわかるイラスト
左は卵とじの木の葉丼。右は卵で蓋をしたかつ丼。食堂のかつ丼はカツを鍋で煮ない、京都だけの味。

卵料理を好む京都人。その証拠に食堂でも上置きを卵でとじたうどんや丼が大人気だ。話はここからで、なんと京都の“卵とじ丼”は上置きをだしで煮て卵でとじたものと、上置きに卵を後のせした2タイプが存在する。後者の代表格は「かつ丼」で、ご飯にのせたカツを上から半熟の卵で蓋をする。卵とカツの食感を両立させた調理法だが、“とじる”も“蓋する”も見た目はほぼ同じ。いただく前に一度観察を。

4. 京都だけの「きつね」と「たぬき」。

京都だけの「きつね」と「たぬき」。のイメージイラスト
ちなみに「きつね」の上置きを卵でとじたら「衣笠うどん」に化ける。華麗なる化け術も京都食堂ならでは。

京都の「きつね」は、短冊切りの薄揚げをのせた「きざみきつね」のこと。京名物の豆腐の味を生かしたものであり、同じく京名物の九条ネギと共に供される。さらに化けると次は「たぬき」になる。刻み揚げ入りの「あんかけ」だ。ショウガがたっぷりのったあんかけはアツアツがお約束で、冷やしは生息しない。底冷えする京都の冬だけでなく、真夏も含め一年を通して品書きに並ぶ。

5. 「しっぽく」の〝置く〞美しさ。

京都のしっぽくうどんのイラスト
精進料理のように肉を使わないのも特徴。〈相生餅〉系列にはえびせんが加わる。

由来は長崎の大皿料理・卓袱(しっぽく)。高級郷土料理が、京都の食堂では“具だくさんのうどん”に形を変えて定着した。手間隙をかけて炊き上げる主役の椎茸や、かまぼこ、薄焼き卵などの具材がきれいに並ぶ。他県に似た麺はあっても「これほどまでに美しく上置きを並べたものは京都でしか見られない」と加藤さん。京都食堂の花形「しっぽく」は大定番であると同時に、京都らしさを凝縮させた一杯ともいえるだろう。

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