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僕たちが種を蒔く理由/「種を蒔くデザイン展2023」直前インタビュー Food 2023.03.06

長崎県雲仙市の八百屋<タネト>の店主・奥津爾さん。有機野菜を直売し、プラスチックフリーを実践する彼は、地元の野菜を中心に販売することで、地域の農家と食卓を繋いできました。

そんな奥津さんが2021年から開催しているイベントが「種を蒔くデザイン展」です。流通から外される在来種の野菜たちにスポットを当てた本展は、趣旨に賛同した解剖学者の養老孟司さんやファッションデザイナーの皆川明さんなど、各界の著名人が協力していることでも話題に。

2023年は3月7日から開催されます。それに先立って、奥津さんと、主催チームの一員である横浜の八百屋青果<ミコト屋>の鈴木鉄平さんにイベントへの思いを伺いました。

「世の中捨てたもんじゃない」と思えるイベントを作る

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──「種を蒔くデザイン展」は今年で3年目になります。奥津さんが企画されていますが、今年も豪華な方々が出演され、たくさんのイベントが企画されていますね。

奥津 ありがたいです。解剖学者の養老孟司さんや文化人類学者の中沢新一さん、アーティストの大竹伸朗さんの講演会をはじめとして、錚々たる方々が協力してくれることになりました。料理人たちに、在来種を使った料理を作ってもらい、それを写真家や陶芸家の方々の技術でアーカイブ化する試みも毎年やっていて、今回も楽しみです。

──ファッションデザイナーの皆川明さんのトークイベントも気になります。

奥津 皆川さんは毎回出てくださっていて。今までもちょうどパリコレと被っていてものすごい忙しい時期なのに、雲仙まで来てくれました。今回はポストイベントという形で、4月〜5月に来てくれます。皆川さんは、このイベントに欠かせない方で、野菜の自家採種をしている岩崎政利さんのことを、リスペクトされてるんですよ。

昨年のイベントの様子。シェフの原川慎一郎さん(左)とファッションデザイナーの皆川明さん(右)。photo:栗田萌瑛
昨年のイベントの様子。シェフの原川慎一郎さん(左)とファッションデザイナーの皆川明さん(右)。photo:栗田萌瑛

──「未来の八百屋展」は、奥津さんや<青果ミコト屋>を営む鈴木さんならではの企画ですね。

奥津 未来にこういう八百屋が残ってほしいねっていう願いを、各地の仲間たちと展示で見せる予定です。

鈴木 「種を蒔く」っていうのは、次世代に向けて何かをつなぐ行為なんですよね。何が芽吹くかはわからないのも含めて、めちゃくちゃ可能性のあるイベントだなと思います。その意味では、次の時代を担う若い子達にもぜひ来てもらいたいですね。

奥津 今回の参加者のラインナップを全員知っている若い人はまずいないと思います。でもだからこそ、イベントの一つに興味を持った人が、全体に関心を持つ可能性があると思っていて。

──なるほど。

奥津 このラインナップのどこかに興味を持つ人は、今の社会や自分の暮らしに漠然とした辛さを感じているんじゃないかと思うんですよね。でも、この人達の言葉と、仕事を見てもらえれば、「世の中捨てたもんじゃんねえな」って希望を持てるはずです。

雲仙で自家採種を行いながら農業を営む、岩崎政利さん。photo:繁延あづさ
雲仙で自家採種を行いながら農業を営む、岩崎政利さん。photo:繁延あづさ

鈴木 でも、養老さんや中沢さんの聞き手を務める奥津さんは大変ですよね。

奥津 そうですね(笑)。養老さんも大竹さんも中沢さんも、僕が若い頃からずっとリスペクトして本を読み続けてきた人なので、ドキドキです。でも、来てくれた人には絶対後悔はさせません。もしつまんないって言われたら、ダンボール1箱の野菜でお返しします(笑)。

──講演会や演奏会、ワークショップも企画されていて、開催場所も雲仙をはじめ、東京、福島、京都など複数の地域に渡ります。これだけの大きなイベントだと全容を掴むのも大変そうです。

奥津 全部を知る必要はないんですよ。一つ興味を持ってくれたら、もう一個その先を見ている、くらいで十分です。まずは公式のインスタグラムのストーリーズなどを見ていただければ、全体に流れる雰囲気はつかめるかもしれません。その後は、実際会場に来てもいいし、配信もあるのでおうちで見てもいい。

鈴木 でも、できることなら生で見てほしい(笑)。

奥津 もちろんそうですね(笑)。例えば、ファンだったら福島でやる高木正勝さんとハナレグミさんのライブは絶対生で観たいものになると思いますよ。ここでしか見られないコラボレーションもあるので必見です。ライブの前後に「せっかく福島に行ったんなら、他の展示も見よっかな」くらいのノリで全然いいんです。

標準化と効率化で生きづらい現代社会への問いかけ

昨年の皆川さんのワークショップの様子。photo:栗田萌瑛
昨年の皆川さんのワークショップの様子。photo:栗田萌瑛

──奥津さんはそもそもなぜ『種を蒔くデザイン展』を始めたのでしょうか?農業とデザインは、一見遠いところにあるもののようにも思えます。

奥津 そもそもの始まりは、農業とデザインを結びつけて何か企画ができないかと雲仙市に頼まれたところからなんです。いろいろ考えるなかで、野菜もデザインも規格化されて消費されているものになっているという共通点が見えてきました。
標準化と効率化と規格化によって、特に農業でいえば、個人が頑張って作っても、「長崎県産のじゃがいも」として出荷されて、個人の名前や思いが消されてしまう。ただ消費されてしまう現状があると思います。

──デザインもそうですか?

奥津 似た状況はあると思いますね。デザイナーが一生懸命やっても、シーズンが変われば、また新しいデザインに取って代わられる。誰がどんな思いで作ったかなんて関係なく、消費することが標準的で、効率的とされている。それが僕らの生きづらさや環境問題にも繋がっている気がします。「種を蒔くデザイン展」が、そういう問題を考えるきっかけになってほしいですね。

──雲仙だけでなく、東京、神奈川、福島、京都ときさまざまな場所で開催されているのにも理由はあるのでしょうか?

奥津 コロナ禍での開催時にオンラインで各地を繋いでみたら、その立て付けがよかったので継続してます。一か所にとどまらず、各地に種を撒いていきたいんです。

奥津爾さん(左)と鈴木鉄平さん。2月18日に表参道のeatrip soilで行われた本取材の様子は、「種を蒔くデザイン展」のアカウントからインスタライブでも配信された。
奥津爾さん(左)と鈴木鉄平さん。2月18日に表参道のeatrip soilで行われた本取材の様子は、「種を蒔くデザイン展」のアカウントからインスタライブでも配信された。

──鈴木さんは『種を蒔くデザイン展』とはどういう関わり方をされてきたんですか?

奥津 鉄平くんはアドバイザーですね。この企画って完全に僕一人が見切り発車で進めているので、鉄平くんが「いいですね」とか「こうしたらどうですか」ってアドバイスをくれて本当に助かってます。

鈴木 もともとは「種を蒔くデザイン展」とは別の「種と旅と」というイベントの世話人を奥津さんと共同でやらせてもらっていて。僕と奥津さんは、農家の野菜を食卓に広く伝えたいという点で考えが一致しているんですよね。奥津さんは、僕らみたいな小さな八百屋をずっと応援してくれている。八百屋はマイノリティな世界なので、一緒にやらせてもらってありがたいです。

──開催時期が「満月から新月まで」と変わっていますよね。これも理由があるのでしょうか。

奥津 農業って月の満ち欠けと密接に関わっているし、期間的にもちょうどいいんです。ただ、前回までは新月から満月でやっていたのですが、満月で盛り上がった次の日にふっと終わるのが、ちょっと寂しいというか、日常に戻りづらいんですよね。それで逆にしてみました。

鈴木 全国で同時開催するにあたっても、月というシンボルはいいんですよ。月の満ち欠けだから、全国のみんなが見られて、繋がりを実感できるんです。

苦境に立たされている農家のために

──初回から続けてきて、何か手応えは感じていますか。

奥津 野菜売り場をプラスチックフリーに移行できたことは大きかったです。初回、自分の売り場を展示するときにテーマの一つを、プラフリーにしたんです。野菜の包装にプラスチックを使わないってことですね。そのトライが実を結んで、今では出店者の9割がプラフリーを実現しました。そしてそのトライがジワジワと他の心ある八百屋さんの中に浸透していってるという手応えがあります。

鈴木 『種を蒔くデザイン展』って“撤収しないイベント”って言われているんですよね。奥津さんがイベントを続けて、参加してくれた人たちが奥津さんの思いを自分なりにブラッシュアップして繋いでいく。そういう意味で撤収せずに、続いていくイベントなんです。

奥津 最近は消費されてしまうイベントが多いと感じていて。自治体や企業から予算が出て、それらしいことやって、「はい、撤収」という一過性のイベントが多い。どうせイベントをやるなら、次に繋げないともったいないじゃないですか。『種を蒔くデザイン展』は、イベントそのものが消費財になる今の風潮への問いかけでもあるんです。

タネトで販売されている野菜は、プラスチックフリー。photo:繁延あづさ
タネトで販売されている野菜は、プラスチックフリー。photo:繁延あづさ

──この大変なイベントを続けて来られた原動力はなんですか?

奥津 本当にいい野菜をみんなの台所に届けたい、その一心ですね。野菜という本来は身近にあるはずのものを、大上段に構えず、説教臭くならずに、本当においしくて楽しいものだって伝えたい。

──農家の方々と食卓を繋ぐのがメディアとしての八百屋なんですね。

奥津 まさにそうですね。野菜の作り手も、真面目にやってる人たちほど、本当に生活できるかギリギリに立たされてます。異常気象や燃料費高等など、いろんな要因が絡み合って、農に携わる人は、非常に厳しい状況に立たされていると思うんです。だから僕らは、本質的なことをやり続けてる人がいることを伝え続けなくちゃいけない。

鈴木 泥臭くても足掻き続けるしかないという気持ちでやってるんですよね。

奥津 でも、手応えも感じ始めてます。クレジットを見ればわかるように、解剖学者からデザイナー、料理人、写真家、建築家、八百屋など多様な方が参加してくださっています。コネも人脈も資金力もない僕らのイベントに、なんでこれだけの方々が出演してくれるのか。それは、確実に僕らの試みに共感してくれているから。そこはすごく嬉しいし、自信にもなっています。来てくれたら伝わるものがあると思うので、ぜひ来てほしいです。

種を蒔くデザイン展 2023

3月7日(満月)〜22日(新月)
雲仙市と各地、オンラインにて

▶公式Instagram
https://www.instagram.com/tanemaki_design/

▶公式ホームページ
https://www.organic-base.com/topic/tanemaki_design/

text:Kazuaki Asato interview:Yoko Abe

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