『笑うマトリョーシカ』『新宿野戦病院』など、今期のドラマどうだった?オラリーの今期気になる地上波ドラマ~2024年7月期~
『錦糸町パラダイス~渋谷から一本~』(毎週金曜24:12/テレビ東京)
錦糸町を舞台に、ハウスクリーニング店で働く大介・裕ちゃん・一平とルポライター・蒼を取り巻く、多様な人々の人生模様を描くストーリー。日常の中に確かに存在している、人々の小さな機微を描いた作品。過去の過ちを携えながらも懸命に(のうのうと)生きる人々と、罪を過去のものにせず密やかに告発していくルポライターの蒼。それは純粋な正義というより、かつて蒼に虐待をしていた母への当てつけのような、少し歪んだ動機を持ったものでもありました。掃除屋の3人は蒼が告発した人々に関わる場所を掃除することもあり、間接的に交わっていきます。
そんな何気ない行動の一つ一つに少しずつ意味が生じてきて、気付かないところで何らかに作用している。そういう何でもないようなことの積み重ねを大事に描いていて好きでした! 言葉にするのが難しい、空気のような作品だったので、見た方とお話したいです。。!
『笑うマトリョーシカ』(毎週金曜22:00/TBS系)
とにかく伏線だらけ、展開も登場人物も多く若干混乱したりもしましたが、何とか完走しました! 櫻井翔さん演じる若手の政治家・清家一郎のシーンは予想外に少なく、でもその最小限の尺で何とも奇妙な表情をしていて。画面に居なくとも、常に不気味な存在感を放っていました。
一郎の母親を演じた高岡早紀さんの狂気染みた目も終始素晴らしかった! マトリョーシカのように巧妙に隠された全ての謎を暴いたラスト、清家一郎が行ってきた悪事(とも言い切れないのですが)を本にして発表する香苗。それでもなお変わらない清家支持の世論に一瞬ヘコみましたが、これからも清家一郎を見続けていく、とスッキリした顔で話す香苗に、少し勇気をもらえる結末でした!
『新宿野戦病院』(毎週水曜22:00/フジテレビ系)
今期のなかでも特に物議を醸したドラマでしたが、私はすごく好きでした! 新宿・歌舞伎町に集まる様々な事情を抱えた人々を、毎話雑に荒っぽく治療していくヨウコがとにかく痛快! 保険証のない外国人や犯罪者でさえも平等に与えられた命、すべての人々を平等に助けるというヨウコの考えに戸惑いつつ、でもいつしか同じ方向を向いていく聖まごころ病院の人々。
物語はコロナを思わせるパンデミックや、居場所のない若者たちの本音、高齢者介護など様々な問題と向き合っていきます。それでもヨウコは、どんな場面でもルールに囚われすぎず何が一番大切なのか、自分の頭で考えるということを忘れてはいけないと伝えます。脚本の宮藤さんが、これまでの作品でも一貫して伝えようとしているメッセージかなと思いました。重いテーマもさすがのクドカン脚本で、最後までぬかりなく楽しめました!
『量産型リコ-最後のプラモ女子の人生組み立て記-』(毎週木曜24:30/テレビ東京)
ついに最終章となった量産型リコ。今回は田舎町が舞台ということもあり、ゆったりとした情景に毎話癒されました。小向家の人々が抱える悩みや問題を、今回も様々なプラモデルと共に解決していきます。細かい作業をしながら手を動かすうちに、言えなかったことや悩んでいることを打ち明けていく小向家の人々。温かみのある日本家屋で無機質なプラモデルを組み立てていると、何だかモヤモヤが小さく可視化されていくような、そんな感覚があります。
リコのような人間はどこにでもいる量産型なのかもしれませんが、それでも懸命に生きていれば、もう十分魅力的。どんな自分も肯定してくれるような、温かいドラマでした! うちの子どもたちもすっかりハマって、「ご開帳~!」「ギブバース!」と言いながらガンプラ作りしています。
『あの子の子ども』(毎週火曜23:00/関西テレビ放送)
様々な立場から語られる、”高校生の妊娠”というテーマ。思いもしなかった現実に戸惑い、世界の終わりのような気持ちになる者もいれば、なかったことにすれば良い、何も心配ないと考える者もいる。共に部活をがんばってきた仲間や、これからも変わらずそこにいるのだろうと信じて疑わなかった友達。かつての苦い経験を繰り返さないようにと奮闘する先生もいれば、生徒を守るという愛情ゆえに厳しい言葉をかける先生もいる。
ひとつの問題に対してこんなにも多くの答えや思いがあること、とても尊いことだと思います。その考えや言葉のどれもが間違いではないし、どの選択をしても自分を責めないでほしい。この作品は結末を案ずるものではなくて、その過程を見守る作品だったのだと思います。たくさんの選択肢があることを、このドラマを通して知っていく人が増えていったら良いなと思いました。素晴らしかったです!
今期は他に、凝った美術と予想出来ないストーリー展開に目が離せなかった『降り積もれ孤独な死よ』、先生と生徒のやりとりに一緒に笑い泣きした『ビリオン×スクール』、難聴の大学生と底抜けに明るい同級生がノートテイクを介して通じ合っていく『ひだまりが聴こえる』もとても好きでした!
illustration:Misa Itoi edit:Kei Kawaura