伝えたかった、言葉たち。 山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」第9回

LEARN 2021.12.03

アイドルとしてはもちろん、ラジオパーソナリティとしても大活躍。乃木坂46の山崎怜奈さんが、心にあたためていた小さな気づきや、覚えておきたいこと、ラジオでは伝えきれなかったエピソードなどを、自由に綴ります。

(photo : Chihiro Tagata styling : Chie Hosonuma hair&make : Yu Kuroda)

「うまく言えない」

今は生放送のラジオでもありのままで話すことができるようになったけれど、昔は言いたいことを上手く伝えられない子供だった。感情が湧き上がっても一旦表に出すか出さないかの取捨選択を挟むし、表に出そうとしても当てはまる言葉が見つからない。黙々と考えているせいで、黙っていることすら忘れてしまったこともあると思う。今でも瞬間的に怒鳴ったり泣いたりする人は素直ですごいなと思っているし、カリカリしている人が近くにいると、勝手に圧を食らって疲れてしまう。

一番どうしたら良いのか分からなかったのが、親戚の集まりだった。久しぶりの再会にテンションが上がり、アルコールでさらに良い気分になった大人たちの中では、子供というだけで存在が浮く。幼い自分の一挙手一投足にすぐリアクションが飛んできて、ニコッとするとまたいじられる。集まっている人たちというよりもその状況が苦手だったので、時が経つのを黙って待っていた。母曰く、そんな無愛想な私を見た祖母からは、精神的な疾患を疑われたこともあったという。

小学校生活の序盤で唯一仲良くなれた子が転校してからは、とにかく波風を立てずに生きることに徹した。2年ごとにクラス替えが行われると、教室ではすぐに女の子たちがグループを作り始める。その群れでは秘密を共有することが信頼の担保となり、どこかから話が漏れると犯人探しが始まる。確証のない噂もすぐに広まり、後から訂正した真実に価値はない。「絶対誰にも言わないでね」という毎度おなじみの軽すぎる約束を押しつけられるたびに、人の業(ごう)みたいなものに過敏になり、自由に身動きが取れなくなってしまった。適切な対処方法が分からないまま、みんなが好きそうなマンガを頑張って読んでみたり、本心と違っても多数派の意見に賛同したり、嫌味を言われても「そうだよね」「ごめんごめん」と中途半端なリアクションをしてやり過ごしながら、ちゃんと友達になれているかなあ、大丈夫かなあと様子を窺った。だがそれも長くは続かず、やっとの思いで言い返したら「気が強い」と揶揄されて、もっと落ち込んだ。

強烈ないじめを受けていたわけではないけれど、何かの拍子になじめていないことを感じるたびに、人と一緒にいる自信がなくなった。でも逃げ出すほどの勇気はなくて、わざと遠回りしたり、公園で時間を潰したりしながら、結局学校にたどりつけなかった日もあった。重たいランドセルと気疲れを背負って通学路をトボトボと歩きながら、やっぱり変われないよな、仕方ないよなと、不甲斐ない自分に諦めの判を押した。仲が良い母にさえ言いたいことが言えなくなった時期には、持っていたガラケーをへし折って部屋の隅に投げてしまったこともある。真っ二つになった機械とへこんだ壁を見て、自分にもこんなに荒々しい一面があるのかとびっくりしてしまった。今思うと、あれが人生唯一の、一瞬の反抗期だった。

普段のテンションがほぼ一定だからこそ、感情的になった自分がどうなるか分からない。だから、毒を吐きたくなくて溜めて溜めてピークに達してあふれて、思わず鋭い言葉が口をついて出てしまってから、どうしてあんなことを言ってしまったんだろうと落ち込む、その繰り返しだった。思わぬ形で相手を怒らせたり傷つけたりしてしまうことに怯える一方で、ひとりでいる気楽さを覚えていった。人の顔色を窺うこともない。誰かの好き嫌いに合わせる必要もない。言葉の裏に隠された本音に、惑わされることもない。でも、安定しているように見せているだけで、心はいつも揺らいでいた。

とにかく安心したかった。安らげる場所はどこにあるのだろう。

山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」
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