「子どもを持たない人生」月岡ツキさんが夫婦で歩むと決めた理由【前編】|工藤まおりが聞く、それぞれのチョイス
カップル間でのコミュニケーションや心理学を学びながら、フリーランスのPR・ライターとして活躍する工藤まおりさんが、結婚や妊娠について様々な選択をした女性たちにインタビュー。今回は、子どもを持たない共働き夫婦(通称「DINKs」)という生き方を選択している月岡ツキさんに話を伺いました。
この連載では、31歳フリーランスライターの工藤まおりが結婚や妊娠について様々な選択をした女性たちにインタビューを行い、多様な価値観に触れていく。
今回は子どもを持たない共働き夫婦、通称「DINKs」という生き方を選択している月岡ツキさんにインタビューした。
結婚するまでは「結婚はしないの?」と聞かれ、結婚したあとは「子供は産まないの?」と聞かれることが多い世の中で、なぜ(現時点で)子供を産み育てないという選択をしているのか、そしてなぜその選択について発信をしているのかについて話を聞いた。
移住先でパートナーと知り合い、出会って半年後に結婚
現在30歳の月岡ツキさんは、2021年に東京から長野県に移住。
そこで現在のパートナーと知り合い、出会って半年後に結婚。現在は都内の企業に週3で正社員として働きながら、ライターとしても活動しつつ「令和DINKs(仮)」としての考えを発信している。
子供関係なく、二人で生きていきたいから結婚した
ーー出会って半年で婚約とは、かなりのスピード婚だと思います。どのような流れで結婚を決意されたのでしょうか。
「夫とは出会った当初から話が合うなと思ってたんですけど、結婚を決意したキッカケは出会って2カ月目に二人で行った旅行です。その時に今後の関係性について話し合うなかで、『結婚しよう』という言葉と、『もし結婚するのであれば、この世の中はまだ女性の負担や苦労が多いから、名字を変えることは自分がやりたい』ということを伝えてくれたんです。
この社会で男性として生きてきて、そういう言葉が出てくる人とだったら一緒に暮らせるだろうなと思って、彼と結婚したいと思いました」
ーー「名字は女性が変えるものだ」という固定観念を持っている人も多い中で、そんなことを言ってくれるなんて素敵。逆に、月岡さんは名字を変えようと思ったことはあるんですか?
「私は元々、自分の『月岡』という名字が気に入ってるし、周囲の人からずっとツッキーと呼ばれてきて、名字がアイデンティティみたいなものだったので変えたくなかったんです。
改姓に関することも含め、既存の婚姻制度についてはずっと不信感があったので、彼と出会うまでは結婚自体をあんまりする気がなく…老人ホームに一人で入るにはどれぐらい稼がなきゃいけないのかみたいな金勘定をずっとしてました(笑)。
いざ結婚するとなって、自分がやりたくない改姓を夫にさせるのはかなり抵抗がありましたが、夫の決意は固かったので結果的に名字を変えてもらい、法律婚をしました」
ーー現在はご夫婦で「子供を産み育てない」という選択をしていますが、結婚する前のおふたりのお気持ちは?
「結婚前の夫は冗談みたいな感じで『子供は5人かな!』みたいなことも言ってましたね。一方私は、子供はいてもいなくてもどっちでもいいかなという感じでした。でも、そこまで具体的な話し合いはせず、「子供がいてもいなくても仲良くやっていこうね」と言い合っていました。
私たちは二人でいる時間がすごく楽しかったから、二人で生きるために結婚したのであって、子供が欲しいから結婚したわけではありません。あくまで第一目的は二人が一緒に楽しく暮らすことなので、子供をどうするかについては結婚前ではなく、結婚後に話し合いました」
二人で暮らすのが楽しいから、これ以上何も足さなくても
ーー結婚後、現在はなぜ「DINKs(仮)」として、子供を産み育てないという選択をされているんですか?
「一番の大きな理由は、結婚してみて二人で一緒に暮らすのがすごく楽しかったからです。これ以上ここに何も足さなくていいんじゃないかと思っています。まだ新婚だから浮かれているだけと言われるかもしれませんが、本当に夫は一番の理解者で一番の親友のような存在。結婚したての空気感がなくなっても、いいコンビでやっていける気がしています。
あとは、夫も私も仕事が忙しく、やりたいこともたくさんあるタイプの人間なので、キャパシティ的に子供を育てるというのは現実的じゃないと思いました。もし子供ができたら、お互いに今持ってる何かを取捨選択しなければならなくなるじゃないですか。今この状態でかなり満たされているのに、あえてその選択をする必要はないのかなって考えてて」
ーー確かに子育てをする場合は、働き方や生活スタイルを大きく変えなければならないですもんね。
「あとは、世の中の子供を育てる親への風当たりの強さみたいなものを感じ、産み育てることに対して抵抗を感じてしまう部分があります」
ーーなるほど。どのような風当たりの強さを感じますか?
「子供を育てるとなったら、『親の責任』として育児も家事も養育のためのお金を稼ぐことも、全て完璧にこなさなくてはならないという圧があると思います。子供がもし学業や習い事などで『○○がしたい』って言ったら、それを叶えられるくらいのお金を用意しなければ、他人から『親ガチャ失敗』『それくらい用意してやれないなら産むな』と言われかねないし、もし大きな病気を持って生まれてきたら、とくに母親は仕事を辞めたり減らしたりして子供のケアに専念せざるを得ないという声をよく見かけますよね」
ーー確かにそういう声、よく耳にします。
「もちろんそういった選択をされている人はすごいなと思うし、なるべく公的なケアが手厚くなって欲しいと願っていますが、もし自分の子供がそういう状況で生まれてきたとしたら、今やっている仕事を全てやめて、子供を支えることに人生を捧げられますかっていう問いに、私は正直答えられないなと思って。
あと、これは私の価値観なんですけど、そもそも他人の人生を自分がスタートさせるという責任を負えないなって思ってて」
「少子化はお前らのせいだ」と責められる社会
ーー月岡さんのパートナーさんは、子供について現在はどのように考えられてるんですか?
「夫は医療関係の仕事をしてるんですけど、家族や子供の病気のケアでご苦労されている方の話を聞いていくうちに、子供を育てることに対して二の足を踏むようになったそうです。夫も今が楽しくて満たされていると言っていて、現在のところは私も夫も、子供を作ることに対して積極的に考えていません。100%絶対にいらないとはまだ言い切れないので、「DINKs(仮)」と言っています。
子供を作ることに対して、アレコレ難しく考えすぎなのかもしれないですけど…でも、踏み越えちゃったら、もう戻れないじゃないですか。今は夫婦共に、自分たち以外の命に責任を持てる自信がないから、ペットを飼うことも躊躇しています」
ーー出産する責任については考えてしまいますよね。一方で、産める期限もあると思います。もし月岡さんが「あと数年で出産が望めなくなります」とお医者様から言われたらどうしますか?
「『あと数年です』と、具体的な数値を提示されたら、産まない選択に完全に舵を切る理由ができていっそ気が楽になるだろうなと思いつつ、めちゃくちゃ揺らぐ自分もいるんだろうなとも思います。具体的なリミットが提示されていない今でも、親戚の子供と関わった次の日や、友達が立て続けに子供を出産したのを知った時に『私は、本当に産まなくていいのかな』と思う時があります。
でも今のところは『産んだ方がいいのかな?』と思う度に、『産みたい』と決定打になるものがないんですよね。産まない理由は、このあいだ書き出してみたら40個近くあったんですけど、そのすべてを上回るとてつもない1個の理由というのは、いまだに自分の中にはないんですよ」
ーー逆に、「産みたい理由」を考えたことは?
「産みたい理由を考えると、どこまでも自分のエゴなんですよね。
『自分がこれまで知らなかった感情を知りたい』とか、『夫と自分の遺伝子が合わさった人間に会ってみたい』とか。やっぱり出産ってエゴだなって思ってて。
そういうエゴを理由に、他人の命を生み出していいものなのかと自分に問うと、産もうという気持ちが引いていくんです」
ーー多くの人の出産理由は、ほとんどエゴだと思います。エゴじゃないとしたら、少子化対策の一環とかでしょうか。でも、そんな出産理由は聞いたことがないですよね。
「DINKsについての発信をしていくと『こういう奴がいるから少子化になるんだ』と責められることがあります。
少子化対策を理由に出産を決意している人なんてほとんどいないのに、『産まない人は少子化に拍車をかけてる』って責められるのがすごいいびつだなって思いますね」
ーー確かに、いびつな構造ですね。
「自分でもたまに、私みたいな人間がいるから少子化が進むのかなと思う時もあります。
でも、植物で考えてみると、実を付けなかったリンゴの木に対して『何でお前は実をつけないのか』って責める人なんていないじゃないですか。土壌や環境が整ってないから実をつけなかったわけで、木は悪くない。
少子化対策というなら、どんな親のもとに生まれたどんな子供でも育てやすい環境をつくるのが先で、産まない人が自分を責めたり、他人に責められたりするのはお門違い。これから生まれてくる子供たちだって、『子供を産まないと責められる社会』よりも、『人のあらゆる選択に対して希望が持てる社会』の方が絶対生きていきやすいでしょって思います」
出産することが「善」とされている世の中で、子供を産まない選択肢について発信することはかなり勇気のいることだと思う。
周囲からの圧力に負けず、自分の考えを述べる月岡さんに対し、勇気を貰う方も沢山いるはず。
後編記事では、産まないことに対する周囲からの声と、なぜ月岡さんがDINKsについての発信をはじめたのかについて聞いていく。
月岡ツキさんのTwitter:https://twitter.com/olunnun
note:https://note.com/getsumen/