京の台所・錦市場で出合う学業の神“錦の天神さん”|寺社につき喫茶。絵になる京都ご多幸散歩 Vol.5 神社編
独特の吸引力に惹きつけられ何度でも足を運びたくなる。そんな街といえば、やっぱり京都。飽きない点も魅力だけど、知られざる美しい心の保養地がこの街にはまだまだあるんです。知っているとちょっと“粋”な神社仏閣、そしてその道すがらに出合った“秘密にしたい”素敵な喫茶店、教えちゃいます。案内人は寺社を愛する京都在住のモデル・本山順子さん。今回訪れたのは、学問、厄除けの神様・菅原道真と所縁ある繁華街唯一の鎮守社〈錦天満宮〉と、天然石やモダンな美術工芸品を取りそろえる〈ぎおん石〉の2階にひっそり佇む喫茶室。前編では〈錦天満宮〉をお届けします。
商店街をつなぐ鳥居と、幻想的な提灯に誘われて。
ひと雨ごとに春の陽気が増し、華やかな香りを纏う風が髪を撫でてゆく京都。桜の開花まであと少しです。海外からのお客さんも加わり賑わいを増した“京の台所”錦市場。その400年もの歴史を誇る錦市場を真正面にして新京極通の中心に鎮座するのは、繁華街唯一の鎮守社(※1)〈錦天満宮〉です。提灯の明かりが煌々と通りを照らします。
勤勉・慈愛・健康の象徴として置かれている、たおやかな表情の撫牛(なでうし)さんが門前から可愛らしい顔を覗かせてお出迎え。牛の頭を撫でてご神徳をいただけるという撫牛さん。すべすべピカピカになっている様子から、たくさんの方々に愛されてきたことが伺えます。菅原道真公を主祭神とし、“錦の天神さん”として地元の方々だけでなく街ゆく人々に古くより親しまれてきました。
境内には麗しい花々をしつらえた花手水が両手に二つ。約35mの地下から汲み上げる京の名水“錦の水”が涼やかな水音を響かせています。一年を通して、冬はほんのり温かく夏はひんやり冷たい17〜18度の水温を保っています。
お参りをしているとお賽銭箱の上にちょこんと座られている小さい撫牛様がいらっしゃいました。流行り病の際の配慮で鈴緒の使用を控えていた際に大活躍だったこちらの撫牛様は、なんと御案内くださった禰宜(ねぎ)・新田雅美さんのアイデアで作られたものなのだとか。
賑やかな越天楽(えてんらく)のしらべが聞こえる方へ目を向けると、中に小さい人が入ってるのではないかというほど躍動感のある動きの獅子舞さんが。健気におみくじを運んでくださって可愛らしい。他にも〈錦天満宮〉の歴史を紙芝居にしたロボットも。これらはエンジニアであった宮司・大和政夫さんが設計されたのだそうです。ご参詣に訪れた方々を楽しませたいという宮司さんのお気持ちが伝わってきます。
参拝者想いの心配りは絵馬にも見て取れます。お願い事をそっと胸の内だけでとどめておきたい方は、梅の実をかたどった絵馬「大願梅」(たいがんうめ)に封じて大願梅の樹にご奉納。月次祭のお焚き上げで願いを届けます。
錦天満宮には塩竈神社(しおがまじんじゃ)、白太夫神社(しらだゆうじんじゃ)、日之出稲荷神社(ひのでいなりじんじゃ)、七社之宮(ななしゃのみや)とたくさんの摂社・末社もあり、その周りには手入れのゆき届いた木々や花々でとても賑やか。塩竈神社には大河ドラマ『光る君へ』で話題の光源氏のモデルとされる源融公が祀られています。
京都に引っ越してきた日に商店街を歩いていて驚いたのがこちらの鳥居。本当にビルを突き抜けて内側の壁から鳥居の端がひょっこりしているのだとか。
商店街も神社もこの地をお互いに大切に、共存して発展していこうという想いが、地続きで繋がっているような気がして私はこの鳥居がとても好きです。
割烹着姿の方やイケてる髪色の若者が代わるがわるポリタンクを抱えて境内へ。皆さん、手水舎の蛇口から「錦の水」を汲んで、爽やかに挨拶を交わし帰られるのでした。
「この神社は地域の方々と水でも繋がっているんですよ」と優しく微笑まれた禰宜さん。本殿の脇には、長唄三味線や詩吟、日本舞踊、お花のお稽古の御案内も。聞けば境内のお稽古場で先生方がご教授されているのだとか。
錦天満宮に訪れた方々がみんな笑顔で、境内が朗らかであたたかな空気で満ちているのは、きっとこの場所が街の方々のみならず、ふらりと訪れた方にとっても心休まるオアシスだからなのかもしれません。
錦天満宮
住所:京都市中京区新京極通り四条上る中之町537番地
TEL:075-231-5732
参拝時間:8時〜20時
HP:https://nishikitenmangu.or.jp/