芸術を通して、障がいのある人・ない人が交流できる劇場|
前田エマの秘密の韓国 vol.14 Modu Art Theater
この連載では、韓国に留学中の前田エマさんが、現地でみつけた気になるスポットを取材。テレビやガイドブックではわからない韓国のいまをエッセイに綴り紹介します。第14回目は、みんなのための劇場Modu Art Theaterへ。
韓国は日本よりも障がい者への理解が進んでいると思っていたが、そうではないような感覚を抱いた。
私が韓国へ来る前、読んだ韓国の小説や、観た韓国ドラマの中には、障がい者の生活や、世間との関係性をテーマにしたものがいくつかあった。
そういったものを見ていると、障がい者への眼差しや描きかたに、共感に似たようなものを感じた。ここ数年の韓国ドラマは、障がい者との交流を描いたものがぐんと増えているだけでなく、演者にも障がい者を起用している。
なので勝手に、韓国は日本よりも障がい者への理解が進んでいる国なのかと思っていたのだが、こちらに来て生活してみると、どうもそうではないような感覚を抱いた。
どっこいどっこいだと思う部分もあれば、街中のバリアフリーなどについては「日本の方が生活しやすいだろうな」と思ったりもした。
そしてそのことを韓国の友人や、韓国に長く住む日本人に話してみると、その感覚はあながち間違っていないようだった。
ただ、国としても努力はしているようだ。
そう感じたのは、今年の10月にオープンしたばかりの、Modu Art Theaterを知ったことだった。
韓国語で“Modu=モドゥ”とは“みんなの”という意味だ。
ここは、障がいがある人、ない人、みんなのための劇場である。
障がいがあるアーティストたちが、様々なストレスを感じることなく公演ができるように努力された劇場や練習スペースがある。
劇場の形や動線を変形することができ、様々なジャンルの公演に対応することもできる。
そして、障がい者がリラックスして鑑賞を楽しめるような空間づくり、仕組み作りが施されている。
とても広々としたトイレは、明るくポップな雰囲気。
鑑賞時は、手話通訳、字幕、音声解説、触覚ツアーなどを導入し、多くの人が楽しめるように努めている。
専門スタッフも常駐し、限られた移動しかできない方、視覚障がい者、聴覚障がい者、自閉症のかたなどのサポートをすることができる。
プログラムの中には、演者たちと運営側が協力しながら、作り上げていくようだ。
何よりも、障がい者たちが練習できる場所というのが、今までは非常に限られていたそうなので、これを機に韓国の障がい者アート、障がい者パフォーマーの人口が増え、可能性が広がっていくのではないか。
私はまだここで公演を観たことはないが、韓国のみならず、世界中から様々なジャンルのパフォーマンスが集まってきているようだった。いつか観てみたい。
私が訪れた時に開催していた展示は、鉛筆デッサンでホテルを描いたものだった。
ステートメントが書かれた紙は、点字のものもあった。
ホテルの風景を描いたデッサン、ひとつひとつにも点字で物語が描かれている。
絵巻風のデッサンは、少し下の方に貼ってあるので、屈んで観なくてはならない。
なぜ、この位置に絵があるのかというと、車椅子ユーザーの方が見やすいようにとのことだった。
もう一方の部屋は、先ほどとは一変、ほっこりするようなアートが並んでいる。
私が行った時には、子どもたちも見に来ていて、楽しんでいる様子だった。
芸術を通して、障がいがある人もない人も、交流できる場所になることを目指しているこの場所が、これからどのように発展していくのか、楽しみだ。