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ファッション産業の環境問題に風穴を。繊維ゴミに新しい命を吹き込むアートの可能性
世界第2位の環境汚染産業と言われているファッション産業。大量生産・大量廃棄は全世界的に課題で、フランスでは、企業が洋服を廃棄すると罰金があるそう。私達いち個人でも、簡単に安価な服が手に入るので簡単に捨てることができてしまいますよね。そんなファッション業界の課題を解決すべく、廃棄された繊維のゴミをアップサイクルし、繊維のゴミ100%で和紙や壁紙を作っている〈サーキュラーコットンファクトリー〉を取材しました。
繊維のゴミ100%で和紙や壁紙を作り、ファッション業界の環境問題の解決に糸口を見出す〈サーキュラーコットンファクトリー(以下、CCF)〉。
そんな〈CCF〉が今回、出展したのが、“新時代を創る、クリエイションの祭典”というコンセプトで定期的に開催されている「NEW ENERGY(ニューエナジー)」。繊維のゴミ100%で作ったアート作品や商品、そこに込められた思いとは?
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繊維から和紙、和紙からねぷた、ねぷたからクリスマスツリー…。柔軟な発想で作る究極のアップサイクル
——CCFでは繊維のゴミをアップサイクルした和紙を使って様々な活動をされていますが、今回はねぷた(※)にフォーカスした展示をされているんですね。
※ねぷたとは、東北地方の風習である「眠り流し」という夏の農作業の妨げとなる眠気を追い払う行事から来ていると言われています。諸説ありますが、「ねむたい」が「ねぷたい」に変化し、さらに「ねぷた」に変化したと言われています。
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渡邊さん:そうなんです。このプロジェクトを、〈CCF〉の活動の1つのアイコンにしていきたいと思っています。
もともとねぷたに使った紙をアップサイクルしてクリスマスツリーにするプロジェクトを行っていた〈KMSD〉の原田圭祐さんという方が、以前、私達が出展していた「NEW ENERGY」のブースにいらしたのがきっかけでした。
その時、原田さんが私達の紙がゴミから作られているというのを知り、「これってすごいサーキュラーだから、ねぷたに使えないだろうか」とご提案いただいたんです。
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そこから、〈CCF〉の和紙を使ってねぷたを作り、祭後「伝統をアートへ」のコンセプトの元、ねぶた師によりNEP*ART©(ネップ・アート©)としてアップサイクルされクリスマスツリーに生まれ変わりました。それを、〈CCF〉のパートナー企業でもある〈大丸松坂屋〉さんに設置することに。さらに、飾り終わったツリーに使われていた和紙を1枚ずつ剥がし、青森のりんご農家さん、醸造所によって、シードルのラベルとしてアップサイクルされ、「NEP*ART CIDRE」として販売しました。こんなふうにして、私達〈CCF〉の活動はたくさんのパートナー企業さんによって支えていただいています。
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——4回のアップサイクル! すごいですね。しかも、和紙も100%繊維のゴミというのが本当にすごい。シードルは今購入できるんですか?
渡邉さん:2024年5月1日(水)より大丸東京店にて行われる「SPA2024展示販売会」にて残りわずかですがご購入いただけます。シードルで使われたりんごはもちろん青森県産のものですよ。
久保さん:「NEP*ART CIDRE」も実は社会課題解決に貢献している側面があります。りんごって、収穫までにちょっと傷ついたり、虫に食われたり、鳥が齧ったりといった理由で規格外になってしまい、出荷できないやつがいっぱい出るんです。加えて、「摘果」と言って、上質なりんごを育てるために、栄養を集中させる目的で育ち具合がよくないりんごを取っちゃう。「NEP*ART CIDRE」は、そういった、商品としては出荷されないりんごを使用して作られたシードルです。
——シードル自体にもストーリーがあって素敵ですね。現在は、使用後にランタンとして使える日本酒の化粧箱も開発段階だとか。そちらもとても素敵ですね! プレゼントに良さそう。特に海外の方へのプレゼントにとても喜ばれそうです。
久保さん:ありがとうございます。ねぷたの紙を箱に貼ってみたら、なんかあまりにも日本酒が入りそうな箱ができたんで、日本酒の化粧箱にしちゃおう!となって商品化を進めています。
かっこいいですよね。もともと、地元でねぷたの紙をアップサイクルしたランタンとかはよく作られていました。そこから着想を得て、日本酒の化粧箱をランタンにしたらお酒を楽しんでもらえるし、 飲み終わったらライトをいれてランタンにしてもらえたらいいなと思って。
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——ただの日本酒の化粧箱というだけでなく、箱自体がランタンになるって、それもアップサイクルされていてサーキュラーで素敵ですよね。すごい日本っぽい。使ったものを捨てるんじゃなくて、また新しい使い方があるんだよって。
久保さん:実は青森県って、ゴミの資源化率、つまりリユース、リサイクル率が全国で44位なんです。特に衣類のリサイクル率がとても低い。この取り組みは一部でやっていてもしょうがないと思っていて、みんなに意識付けをして資源化率を上げていくことを目的にしています。
渡邊さん:久保さんが代表を務める〈共立寝具〉は、リネン類(シーツやタオル、衣類などの布製品)を提供していて、弘前市内のシェアはなんと85%以上。ねぷたのプロジェクトにあたって、ぜひ協業しましょう、ということになりました。〈共立寝具〉さんのシーツやタオルはとても上質な紙の原料になるんですよ。
久保さん:企業だけでなく、誰でも参加できように、市内に6店舗ある我々のクリーニング店に回収ボックスを置き、古くなったTシャツや、タオルを入れてもらい、それがねぷたに、そして最後には日本酒の化粧箱やお土産になるという仕組みを作っています。これなら、市民の皆さんがTシャツ1枚からアップサイクルの循環に参加できますよね。
多様性を認め合っていきたいという気持ちを込めたモノトーンのねぷた
——今回の「NEW ENERGY」での展示テーマはブラック&ホワイトですが、そのテーマになったのはなぜでしょうか?
渡邊さん:通常のねぷたって カラフルですよね。そのカラフルなものをそのまま真似てもつまらない。そんなの、他のいたるところでやっているし。それよりは、“コンテンポラリー”な感じにしたかったんです。そもそも我々の取り組みって、“Something New”だから、我々がこれまでと同じ“普通”のことをしたって面白くない。何か目新しいことをしないと、と思ったときに、思いついたのがブラック&ホワイトでした。
真逆なものを一緒に提案するのがいいなと思ったんです。静と動とか。生と死とか。そういったものを、ねぷたの技法を使って、ねぷたという世界観の中で、表現してみようと。私たち自身も、真逆なものを常に受容してかなくてはいけない。 宗教の違いとか、肌の色の違いとか、そういう多様性を認め合っていきたいという気持ちがこのテーマには込められています。
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渡邊さん:今はまだ国内だけでの取り組みですが、これから世界へもっと発信していきたいと思っています。ヨーロッパをはじめ、海外の方々にうけるのではないかなと思っているので、まずは2024年中にパリで、2025年には大阪万博で展示をして、世界中の人に見ていただきたいと思っています。
——楽しみです! 日本は昔からお着物をしつけ直して親子代々で着たり、アップサイクルが当たり前に行われていた文化がありますよね。だからこそ、そんな日本の文化がつまった、CCFの和紙で作ったねぷたの取り組み、ぜひ世界中の方々に知っていただきたいです。
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