ハナコラボSDGsレポート 介護にポジティブな接点をつくりたい〈KAIGO LEADERS〉
ハナコラボ パートナーの中から、SDGsについて知りたい、学びたいと意欲をもった4人が「ハナコラボSDGsレポーターズ」を発足!毎週さまざまなコンテンツをレポートします。今回は、ナチュラルビューティーハンターとして活躍するシナダユイさんが、介護に関わる人のコミュニティ〈KAIGO LEADERS(カイゴリーダーズ)〉発起人の秋本可愛(かあい)さんに話を伺いました。
平成生まれが、介護に関わったきっかけ
ーー最初に〈KAIGO LEADERS〉を立ち上げたきっかけをお聞かせください。
「大学生の時に様々な事業に取り組み学ぶインカレサークルに所属していたのですが、そこで知り合った先輩のおばあさんが認知症で、認知症による悲しみを減らそう!と、フリーペーパーを制作することに。活動をしていく中で、認知症についてもっと知りたいという想いが芽生え、ボランティアではなくバイトを始めました。いざ踏み込んでみると、やりがいを感じる一方、課題もたくさんあり…。特に、私だから気づけたのではないかというのが、“介護”というこれから伸びる業界に対して、周りを見ても若い人の関心がないこと。そんな課題解決に関わる若い人たちを増やすべく、大学卒業後に独立し、〈Blanket〉を起業。〈HEISEI KAIGO LEADERS(後のKAIGO LEADERS)〉を立ち上げました」
ーー介護現場は大変そうなイメージしかありません。課題解決に向けてコミュニティを作るってすごいことですね。
「仕事の特性上、施設の中だと利用者さんと職員のみの世界で生活が完結してしまうことが多く閉鎖的。それに加えて、介護に関する報道量が少ないのも問題です。報道されたとしてもネガティブなニュースが多く、ポジティブに介護について知れたり、学び合えたりという機会はあまりないと実感したのもコミュニティを作ったきっかけの一つです。私が介護施設でバイトしていたのは10年ほど前になるので、その頃に比べると環境は整って働きやすくなってきていますし、起業したての頃はコミュニティと言っても理解されづらく、最初は『なんかやってるわ…』みたいな空気感でした(笑)」
ーー私もコミュニティというものが幸福感に繋がるということを最近知ったばかりで…。〈KAIGO LEADERS〉さんの公式サイトを拝見したら、情報を共有し合えたり、いざという時に心が救われそうな内容で、とても興味が湧きました。
「介護現場では色々な想いを持っている人たちがいて、それこそがすごく可能性を秘めていると考えています。現場で働く職員たちは利用者さんの生活の困り事に気付けるプレイヤーですが、どうしても組織の中だと意思決定権がなかったり、そもそも忙しかったりして徐々にその想いが消えていってしまう。〈KAIGO LEADERS〉ではそういった想いを発掘をして行動につなげるきっかけをつくっています」
ポジティブな情報発信を
ーー現在、〈KAIGO LEADERS〉ではどんなことに取り組んでいるのでしょうか?
「登録制のオンラインコミュニティ、介護に関する色々なテーマのイベント、ワークショップ、他にも現場のレポート記事といった読み物もあります。イベントは参加して『いいイベントだったね』で終わらせたくなくて、行動変容に繋げてもらえるかが重要。アクションに変えていけるような、介護職を応援するプログラム運営もやっています。参加者も決して介護職だけでなく、介護の周辺事業者、学生やご家族などさまざまです」
ーーおもしろそうですね!実際に参加された方には変化がありましたでしょうか。
「オンラインコミュニティを始めて4年目になりますが、仲間同士で起業して会社が2社誕生したり、出会いによって影響された、〈KAIGO LEADERS〉で得た情報で自分をどんどんアップデートしているという方も。イベントで話したことがあるというゆるやかなつながりから、結婚式に呼び合うような仲間ができたりするほど、大切な繋がりができています」
ーーいいお話ですね。逆に何か問題や課題に感じることはありますか?
「右肩上がりに介護の需要は高まっているようなので課題は尽きなくて、私たちがどれぐらい認知してもらえるか、インパクトを出せるかみたいな点では、まだまだだなと思っています。介護って当事者になった瞬間、すごく大変で嫌なものになると思うんですよね。だけど、前段階から準備ができていたり、リテラシーがあれば選択肢は増えますし、別に介護が必要になったから人生が終わりなわけではない。“知っているか知らないかで全然違う”と思っているので、いかにポジティブに介護との接点を持ってもらえるか、そのために様々な取り組みを紹介しています」
究極、全員幸せになれる環境をどう作れるか
ーー〈KAIGO LEADERS〉ではどんな事例が紹介されているんですか?
「テクノロジーの導入によって介護現場がどう変わるのか?という実践事例や、地域に根ざした取り組みなど、様々な事例を紹介しています。例えば、全国の素敵な事業所を取り上げる企画では、『はたらくデイサービスDAYS BLG』という、要介護の方たちがお金をもらって洗車などの仕事をする事業所を紹介しました。高齢男性の多くは今まで仕事をすることで自分の地位や誇りを持って生きてきたのに、定年退職で何も役割がなくなると、人と関わりがなくなって一気に気を落としてしまう方が多いんです。でも、ここの事業所ではみなさん楽しそうに働いていて。誰も“世話になっている”感じがしないんです。社会のために、誰かの役に立てた時、そういうことで人って喜びや生き甲斐を感じるからこそ、介護が必要になってもそう思える環境が増えていかなければいけないと思っています」
ーーそうですね。やりがいや人との関わりも大切ですよね。
「自分自身も学生時代は“介護=お世話すること”だと勘違いしていたので、一生懸命尽くしていたんですけど、そもそもそれが生きがいを奪っていたということに、外に出てから私自身も気づいたんです」
ーー気づいたきっかけは何だったのですか?
「認知症ケアの実践で全国から注目を集める〈あおいけあ〉の代表取締役・加藤忠相さんの『介護職の役割はお世話をすることではなく、地域の中でいかに活躍できる環境をデザインできるかが介護の仕事』という言葉です。地域の人たちとの接点や活躍の機会をいかにつくれるか。この世代の人たちは色々な経験をしてきている人たちなので、できることがたくさんあります。それを活かせる人たちが増えないといけないなと思い、〈KAIGO LEADERS〉では要介護や認知症状があっても活躍できる環境づくりに取り組む事業所を紹介しています」
ーーそのような大きい枠組みで考えると、未来が明るく感じられます。
「他にも事業所に赤ちゃんを連れてきてもらう『赤ちゃんボランティア』という取り組みをしている事業所では、普段サービスを受ける側になりがちな要介護のおばあさんが子守をするという役割ができ、お母さんも助かる。また、廃虚になったお寺を改装して、高齢者のデイサービスや障がい者の就労支援、障がいのある子供たちの居場所となる放課後等デイサービスの3つの事業をつくり、運営する事業所では、いろんな人がごちゃまぜにいることによって、自然と世話するされるの役割が固定されず、誰にとっても居心地のいい空間が生まれているなど、事例はたくさんあります」
ーー心のよりどころになるような地域コミュニティがあるのはいいですよね。
「『介護って大変そう』とばかり思われていると思いますが、私たちの活動を通して、大変な側面だけでなくポジティブな側面も届けていけたらいいなと思っています」
「避けては通れない」「関心はある」…だけど、介護に希望が見出せない。そうネガティブに感じて踏み出せないのは、自然と触れていた情報によって出来ていたバイアスなのかもしれない。介護は「とても可能性のある領域」(秋本さん)。たくさん気づきの得られるインタビューでした。