日々のエシカル消費の“ものさし”に。 食にまつわる課題を解決。日本初となる「エシカルフード基準」が誕生。
近年、さまざまなシーンで「エシカルフード」という言葉を見聞きするようになりました。しかし、日本においてはエシカルフードの明確な定義や基準がなく、エシカルフードとそうでない食品を見分けづらい状況があります。こうした現状を受け、共創型プラットフォーム『Tカードみんなのエシカルフードラボ』は、エシカルフードを見つけやすくするための「エシカルフード基準」を作成。2022年3月30日に発表会が開かれ、「エシカルフード基準」の詳細などが説明されました。
まだ日本にはない“エシカルフード市場”を作るためのラボ。
2021年3月、エシカルフードアクションについて考え、行動していく共創型プラットフォーム『Tカードみんなのエシカルフードラボ』が発足。当ラボのプロジェクトリーダーである瀧田希さんは、ラボが発足した経緯や理由をこう説明しました。
「『Tカード』事業によって得られたビッグデータをはじめ、社会からお預かりしている資産を社会と生活者の皆さまに還元するべく、2016年より〈CCCマーケティング〉はソーシャルな取り組みを続けてきました。すでに実施した取り組みには、三陸の牡蠣や五島列島の未利用魚を活用した商品の開発・販売などがあります。今回の『Tカードみんなのエシカルフードラボ』は、生活者の皆さまが自らの購買データを確認しつつ、エシカル消費に取り組めるよう発足したプロジェクトです。なお、発足の背景には、自らの購買データを自ら利活用することに対するニーズの高まりもあります」
瀧田さん曰く、『Tカードみんなのエシカルフードラボ』は、まだ日本にはない“エシカルフード市場”を作るためのプラットフォーム。また、食品メーカー、流通企業、飲食店、生活者などあらゆるステークホルダーとともに、食にまつわる課題を解決していくプラットフォームにもなるといいます。
より大きなソーシャルインパクトを生み出すことを目的に、『Tカードみんなのエシカルフードラボ』には、社会進化の実現を目指す〈フューチャーセッションズ〉、未来の海を考えるシェフとジャーナリストの集団〈Chefs for the Blue〉をはじめとする幅広い組織の有識者が招かれています。
環境サステナビリティの第一人者として『Tカードみんなのエシカルフードラボ』に参画している河口眞理子さんより、昨今のSDGsの動向が解説される一幕も。解説の冒頭、河口さんは地球環境の現状を次のように解説しました。
「地球に生息するさまざまな生物が多様な資源を生み出し、それを利用して人間は生きています。なお、生物が生み出す資源は『バイオ・キャパシティ(biocapacity)』とも呼ばれています。この『バイオ・キャパシティ』には当然ながら限りがあるのですが、1970年には、人間が『バイオ・キャパシティ』を超える資源を消費していること、現在に至っては、地球が生産できる『バイオ・キャパシティ』の1.6倍にあたる資源を消費していることが分かっています。この結果として、森林の減少と砂漠化、海におけるプラスチックゴミの増加といった現象が起きています」
また、社会においては、貧富の差の拡大という問題も。河口さんによると、世界の労働者のおよそ6割が非正規労働者として不安定な立場で働いているそう。近年流行している新型コロナウイルスの影響を受け、その多くが仕事を失い、大幅な所得の低下に直面しているといいます。そのいっぽうで、世界における富豪の上位10人の資産は、コロナ禍において倍増しているというデータも。つまり、新型コロナウイルスの流行を機に、貧富の差はさらに拡大したということ。
「人間による活動、とくに消費にいたるまでのバリューチェーンが、環境破壊や人権侵害を引き起こしています。これらの問題を解決するためには、企業と、企業に資金を提供している金融機関、企業が展開する商品を購入している消費者が一体となり、世の中の流れを変えていく必要があります」と、河口さん。
加えて、農業が温室効果ガスの増加や水質汚染の原因の一つとなっていることを明らかにしたうえで、バイオマス燃料の製造拡大や耕地面積の縮小といった対策の必要性も語りました。
一方で、近年、消費者の意識が大きく変わりつつあることを示す調査結果も。消費者庁が2016年に実施したエシカル消費に関するアンケートでは、エシカル消費への知識と理解がほぼない人が全体の約5割を占めたのに対し、2019年に実施した同様のアンケートでは、5割以上の人が「エシカル消費は必要なもの」という考えを示したそうです。
エシカル消費度を知ることができる「エシカルフードアクションスコア」。
『Tカードみんなのエシカルフードラボ』の主な取り組みのひとつに、自らの買い物の内容がどれほどエシカルであるかを測るための「エシカルフードアクションスコア」の展開があります。瀧田さんによると、「エシカルフードアクションスコア」のコンセプトは、「毎日の食と毎日の買い物からエシカルを考えてみる」「ちょっといいものを選ぶ目を持つ生活者になる」。
「エシカルフード基準」のもと推薦されたエシカルフードの購入を重ねることで、徐々に購買履歴がスコア化され、T会員に「エシカルフードアクションスコア」が付与されるというのが、その具体的な仕組みです。また、将来的には、T会員が自らのエシカルフードの購買履歴を閲覧できるシステム、ポイント以外でエシカル度を測るためシステムも展開されるとのこと。
『Tカードみんなのエシカルフードラボ』のもう一つの主な取り組みが、「エシカルフード基準」の策定です。その詳細が説明される前に、エシカルフードの第一人者である〈グッドテーブルズ〉の山本謙治さんより、エシカルフードの定義などが解説されました。
「エシカルの先進地である欧米諸国においても、明確なエシカルの定義が存在しておらず、一般の方々もどの食品がエシカルフードにあたるのか明確に答えることができません。ただ、エシカルに関するさまざまな学術論文やエシカルコンシューマリズムの担い手の方々にヒアリングした結果、ある3つの領域に対して倫理的な配慮がなされていることが、エシカルか否かを判断するうえで重要だと分かりました。3つの領域とは、環境、動物、人で、それぞれに配慮されていることが、エシカルだと判断する際に役立ちます」と、山本さん。
具体的には、「生物多様性の確保や気候変動への対応」、動物が幸せに生きられる環境を保持する「アニマルウェルフェア」、作り手から商品を適正な価格で買い取る「フェアトレード」などが、「3つの領域」への配慮になります。
なお山本さんは、世界において最もエシカルな考え方が浸透している国は、イギリスだと捉えているそう。イギリスでは1980年代後半、倫理的ではない商品を購入しないボイコット(boycott)、反対に環境などにきちんと配慮されている商品は積極的に購入するバイコット(buycott)が見受けられるようになりました。これとほぼ同時に、どのような商品が倫理的であるか否かを見極めることを目的に、雑誌”Ethical Consumer(エシカル・コンシューマー)”が、「エシックスコア」というスコアリングシステムを導入。
この「エシックスコア」には、動物、環境、人、政策などの大項目のほか、300以上の細かい基準が設けられているそう。さらには、専門的な知識をもつリサーチャーが企業の商品などを細かく採点。その結果は、雑誌”Ethical Consumer”において「倫理的なスーパーマーケットランキング」をはじめとする多様なランキングとなって公表されています。
かつて山本さんは、雑誌『Ethical Consumer』の創刊者であるロブ・ハリスンさんより、エシカル消費がもたらすインパクトについて、印象的な話を聞いたそう。
「ロブ・ハリスンさんによると、イギリスにいる『毎日、どんな時もエシカル消費を実行している人』は5〜10%。また、『彼らが毎日エシカル消費をしても大きなインパクトは残らない』と聞きました。しかし、『時々エシカル消費をする人』は60〜75%おり、彼らのエシカル消費が与えるインパクトはとても大きい』とも聞きました」
続けて、「『毎日、どんな時もエシカル消費を実行している人』を100人増やすよりも、『時々エシカル消費をする人』を1000人増やすほうが重要です」と語りました。
対話を重ねて作り上げられた「エシカルフード基準」。
「我々と有識者だけで『エシカルフード基準』を作った場合、日本においては実行力をもたない基準に仕上がってしまう可能性を考慮し、食品メーカーや流通企業からの協力も得ながら、今回の『エシカルフード基準』を作りました」と、瀧田さん。
まず、エシカルフード基準を作るに際し、食の生産や流通などの段階に関わる人や、「環境」「動物」「人・社会」における問題に取り組んでいる専門家がチームを組み、対話を重ねたそう。そのうえでワーキンググループを作り、日本において倫理的な問題を判断する基準項目を作成したといいます。また、ロブ・ハリスンさんを中心人物とする〈エシカルコンシューマー・リサーチ・アソシエーション(Ethical Consumer Research Association)〉より、ワーキンググループが作成した基準項目についてコメントなどをもらうことで、最終的に世界のエシカル意識と同期した基準項目が完成したそうです。
さらには、食品メーカーや流通企業が対話に参加したり、項目のテスト採点をしたり、専門家たちが一つ一つの基準項目についてセッションを重ねたりすることで、その妥当性を検討したのだとか。