『MASHING UP カンファレンス』で心に残った言葉をレポート! 鈴木涼美さん、安部敏樹さん、稲田ズイキさん、きのコさん……“あの人”の人生航路から得る「生きるヒント」/キャリア&パートナーシップ。
人生の先輩や同世代の人生ヒストリーを知り、モヤモヤした悩みに光明が差すことって往々にしてあるもの。合計70人ものスピーカーが登壇したイベント『MASHING UPカンファレンスvol.5』で、キャリアやパートナーシップについての興味深いヒントを見つけてきたので、シェアしたいと思います!
「寄り道」がキャリアをつくる【1】:10社を経験したパナソニック山口有希子さんの場合。
思いがけない寄り道や休息の先に天職との出合いが待っていることもある。柔軟な視点でキャリアを描くためのヒントを、ユニークな道を歩んできた4人のゲストが語り合いました。
登壇者は、山口有希子さん(パナソニック コネクティッドソリューションズ社 常務 CMO)、安部敏樹さん(リディラバ代表取締役)、鈴木涼美さん(文筆家)。そして、MCの岡島悦子さん(プロノバ代表取締役社長)。
山口さんは、パナソニックをはじめ10社を経験。キャリアのスタートは高級マンションの販売業務で、毎日100件ほどの飛び込み営業をこなしていたそう。
「毎日深夜まで働いていたところ生理が半年以上止まってしまい、体調を考慮して転職することに。数十社受けても落ちまくる日々でしたが、『海外プロジェクトに関われる仕事をしたい』という軸だけは見失わずに転職活動を続けていたら、地方の中小企業に“女性総合職第一号”として採用されました。総務からマーケティング、倉庫の掃除まで本当に何でもやりましたね。当時は歓迎会でボスから『結婚か出産をしたら絶対寿退社してくれ』などと言われるような時代。女性がキャリアを築く難しさを感じていた矢先、たまたま訪れた展示会で外資系企業に来ないかとお誘いを受け、再び転職しました。でも1カ月後には別の会社に買収されてしまい……」
波乱のジョブホッピングを重ねるなかで、山口さんは常に「私って何をしたい人なんだろう?」と自問自答を繰り返してきたといいます。長いモラトリアム期間を経て、「海外マーケティング」という自分の軸を見つけ、チャンスをつかんだ先で実績と信頼を積むことで、理想のキャリアをたぐり寄せてきました。
「寄り道」がキャリアをつくる【2】:ホームレス、東大、マグロ魚師を経て社会課題に向き合う安部敏樹さんの場合。
「社会課題を、みんなのものに。」を合言葉に活動するリディラバの代表・安部敏樹さんは、社会課題を多くの人に知ってもらうためのツアーや事業開発などを企画しています。
「何を“寄り道”と定義するかにもよりますが、僕のキャリアは最初から“寄り道”だったかもしれません。初めてお金を稼いだのは海外でのマグロ漁船の仕事でした。漫画『ONE PIECE』に憧れ、海賊王になろうとしたんです(笑)。船の上で認められるには仕事ができるか、お酒を飲めるかしかないから、めちゃくちゃ仕事を頑張りました。それより以前の話をすると小学生時代から不登校で、家庭内暴力を起こして家にいられなくなり、路上生活を送ったこともあります。
いまは完全に更生しましたが、自分自身が社会問題の当事者だった経験から『常にマイノリティの側にいたい』と思うようになり、現在の仕事をはじめました」
留学や不登校などの“越境体験”をしてマイノリティの視点を獲得した人は、社会課題に気づきやすくなる。そのための“寄り道”なんじゃないか、と安部さんは語りました。
「寄り道」がキャリアをつくる【3】:元AV女優で元新聞記者の文筆家・鈴木涼美さんの場合。
元新聞記者でありながら、元AV女優でもあるというユニークすぎるキャリアをもつ文筆家の鈴木涼美さん。両親とも学者で研究や執筆をしていた影響もあり「本を書く人になる」ということだけは、小学生時代に心に決めていたそう。
「児童文学者の母からは『マリリンモンローより美人だったらその資本で生きていけるから猛勉強はしなくていいし、アメリカのライス国務長官ほど賢ければ男性へのセックスアピールがなくても私生活は充実するからいい。でも大抵の人はマリリンよりブスだし、ライス国務長官よりバカだから、自分なりの個性的なバランスを見つけなさい』と言われて育ちました」
昔から吉原の遊郭やAV業界への憧れがあった鈴木さんは「ギャルからAV女優になる“不良ライン”」と、「就活して日経新聞に入る“普通ライン”」の2本立ての人生を歩むことに。
「作家の平野啓一郎さんが小説で書かれている“分人主義”のように、いろんな人格やキャリアの自分がいれば一つがダメになってもほかが生きているから、強くいられるんだと思います。
女性の人生は無数の選択の連続。男性に比べて自殺するほどの絶望は少ないかもしれないけど、一本道じゃない分、日々の迷いは圧倒的に多くて。普通に社会で仕事を頑張って生きていくのか、女の魅力で成り上がるのか、どんな生き方が自分に合うか16歳や18歳の頃に決めるなんてコクな話じゃないですか? だから私は、毎日降りかかってくる細かい選択を投げ倒しながら、『自分が明日行きたいと思えるスペースを目の前に作る感覚』で生きてきましたね。将来を深く考えすぎるのも結構しんどいし、逆にリスクだってとれなくなるような気がします。
私が作家デビューしたのは『『AV女優』の社会学』という本。AVに出ていなかったら本は書けていなかったわけです。そういう意味では“寄り道”がキャリアを作ることもあるんじゃないでしょうか」
パートナーシップと煩悩:煩悩の根底には「執着」がある。
誰もが⾃分らしくいられる⼼地よい関係を維持するための、⾃分⾃⾝との⼼の付き合い⽅とは? お次は「パートナーシップと煩悩」がテーマのカンファレンス。
登壇者は稲田ズイキさん(称名寺副住職・煩悩クリエイター・『フリースタイルな僧侶たち』編集長)、きのコさん(ポリーラウンジ幹事 / 文筆家)、中村寛子さん(fermata Co-founder / CCO ※オンラインで参加)。MCは平山潤さん(NEUT Magazine 編集長)が務めました。
「仏教の世界では、貪・瞋・癡と言われる3つの煩悩があると言われています。貪は『あれが欲しい』といった欲望、瞋は嫉妬などに代表される他者への攻撃的な感情、癡はひとりよがりな思い込みを指します。すべての煩悩の根底には『執着』があり、諸行無常な世の中を『固定化』させようとするところに煩悩が生まれるんです」(稲田さん)
「パートナーシップにおいても、『結婚していながら他の人と恋をしたい』などの煩悩が湧いてくるもの。でも煩悩を完全に滅することは不可能で、僧侶たちは煩悩とうまく付き合っていくために修行を重ねているのです。煩悩を否定し続けることで、また別の煩悩に陥ってしまう可能性も。煩悩自体を深く見つめ直さない限り、悟りは見えてきません」(稲田さん)
複数のパートナーたちと全員同意の上で同時に交際をするポリアモリー当事者であるきのコさんは、パートナーシップにおいて大切なことは、相手のコントロールではなく、「あなたの気持ちや感情を尊重します」という姿勢だと言います。
「不倫中の方に、配偶者の合意をとってポリアモリーな関係になっていくためには、どのように説得すればいいですかと相談をよく受けます。でもそんな『魔法の言葉』はありません。『自分の気持ちを一度手放す』ことと『相手に委ねる気持ち』を大事にしてほしいと伝えています」(きのコさん)
稲田さんはパートナーシップの課題を恋人とともに乗り越えた経験もシェアしてくれました。
「僕はずっと自慰行為はできるけどパートナーとの性行為ができなくて、恋人関係としては不適切なのではとずっと思い込んできた、つまり煩悩を抱えていました。そんな時、彼女のある言葉に救われた。『性行為はお互いが気持ちいいことをすればいいんだから、あなたはその場で自慰行為をすればいいし、そうすることで私も幸せになれるんだよ』と。おかげで『恋愛においてパートナーとは性行為をすべきだ』という僕の中の思い込み、煩悩を供養できました」(稲田さん)
世界初のフェムテックアイテム専用のオンラインストアを運営するfermataの中村さんは、フェムテックの授業を行うなかで感じたパートナーシップに対する価値観の変化をシェアしてくれました。
「たとえば『セックスしないと子供をつくっちゃいけない』みたいな固定観念は最近いい意味で薄れてきているなと感じます。恋愛においても、ビジネスにおいてもパートナーとの対話ってすごく大切。お互い魔法使いじゃないから頭の中なんて読めないし、自分がやりたいことや嫌なことをちゃんと伝えて、相手の気持ちもしっかり聞いて。固定観念にとらわれず、お互いの期待値をコントロールしながら対話を重ねて自分たちなりのパートナーシップを育んでいくことが大切ではないでしょうか」(中村さん)
最後は日本の婚姻制度についての話題に。
「ポリアモリーはいてもいいけど、結婚や出産をすべきじゃないとか、一夫多妻の国へ行けばいいじゃないかとか批判されがちなんです。しかしどんな法律やルールも人間のためにあるのであって、ルールのために人間がいるのではないと思うんです。決してルールを破ろう!と言いたいのではなく、ルールに則せない自分自身を責める前に、ふと立ち止まって、本当はどうしたいんだっけ?ということを自問自答してもらえたら」(きのコさん)
「個人的にはパートナーと心地よくいられる関係であれば、別に結婚という制度にはまらなくていいかなと思っているけど……、日本の婚姻制度や夫婦別姓の話題は気になるところです。みんなの多様な意見を取り入れながら、もっと速いスピード感で法律や制度をアップデートしていけたらいいなと願っています」(中村さん)
『MASHING UP』
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