ハナコラボSDGsレポート 「かわいいから身に着ける」が途上国の女性の笑顔につながる。〈ARTIDA OUD〉がジュエリーに込めた、強い意志と優しい気持ち。/編集者・藤田華子さん

SUSTAINABLE 2020.09.30

ハナコラボ パートナーの中から、SDGsについて知りたい、学びたいと意欲をもった4人が「ハナコラボSDGsレポーターズ」を発足! 毎週さまざまなコンテンツをレポートします。第2回は、編集者として活躍する藤田華子さんが、ジュエリーブランド〈ARTIDA OUD(アルティーダ ウード)〉のディレクター兼デザイナー・安部真理子さんに取材しました。

オンライン販売にこだわる、優しい理由。

指先から、首元から、私たちにパワーを与えてくれるジュエリーのきらめき。
〈サザビーリーグ〉が2018年4月に立ち上げた〈ARTIDA OUD〉のジュエリーは、かわいいと思い身につけたら、生産者や途上国の女の子、新型コロナウィルスと戦う医療従事者など、“誰かのためになる”優しい仕組みがあったのです。D2C(Direct to Consumer)にこだわる理由、石の個性を大切にする背景、ドネーションに込めた想いなど、ディレクター兼デザイナー・安部真理子さんに伺いました。

ーー旅、オリエンタル、大自然の偶然と文明の神秘…そんなコンセプトを掲げる〈ARTIDA OUD〉は、どのように立ち上げられたのですか?

私はもともとアパレルブランドのバイヤーやMDをしていたのですが、ジュエリーはずっと大好きで、おばあちゃんになったら趣味で作りたいと思っていたんです。それがあるとき、新ブランドを立ち上げるチャンスが巡ってきて、ジュエリーをやりたい!って。2年くらい準備期間があったんですけど、子どものころからギリシャやエジプト、トルコに惹かれて、旅をしてきたことが浮かんで。東西の文化が融合している場所なので、工芸品や遺跡、衣装なんかがエキゾチックなんですよね。砂漠の風景も素晴らしくて。そのときめきを込めて、ローンチしました。

ーージュエリーは実際に手にとってから購入したいというお客様も多いと思いますが、店舗を持たず、あえてEC限定という販売スタイルにこだわったのはなぜでしょう?

店舗を持つと、家賃や人件費など、ものすごくコストがかかるんです。私たちはその分のコストを削減し、原価に対してリーズナブルなプライス設定にしてお客様には高品質なものを低価格でお届けしたい。そして職人さんには適正な賃金がいきわたるようにしたい。そう思い、約3年前からアメリカのサイトをリサーチし始めて、D2Cというビジネスモデルを知りました。いまでこそD2Cブランドは増えましたが、当時ジュエリーをオンラインでご購入いただくのはチャレンジでしたね。

ーーサイトに「中間業者を可能な限り排除することで、余計なコストをカット。生産者とお客様を直接結ぶ努力をしています」と記載がありましたが、業界にとっては革新的なことだったのではないでしょうか?

しきたりが多い業界なので、それこそ最初は職人さんや業者の方に驚かれてしまいました。真珠を全国の入札を通さずに販売してしまうことのハードルや周りからの見られ方など、長くこの業界にいらっしゃる方が気にされるのはもっともだと思います。でも先程お話した、「お客様には高品質なものを低価格でお届けし、職人さんには適正な賃金がいきわたるようにしたい」という想いをお伝えしていくことで、賛同してくださる方が徐々に増えてきました。

――ブランドローンチから3年目の今年、こちらの〈THE ANOTHER MUSEUM〉を松濤にオープンされました。販売店舗ではないそうですが、どんな空間なのでしょう?

オンライン販売を主とするスタイルは変わらず、お客様からの「実際にジュエリーに触れてみたい」というお声や、私たちの「もっとブランドの世界観を堪能いただきたい」という想いを叶える場所としてオープンしました。一部商品はこちらでも購入できますが、お買い物はのちほどオンラインストアでゆっくりとお楽しみいただく仕組みです。ブライダルドレスを纏ってのフォトサービスや占い、ネイルなどのイベントも完全アポイント制で行っています。

ありのままの美しさに、目を向けて。

ーー”raw beauty=ありのままの美しさ”というテーマに込めた想いを聞かせてください。

日本では昔から、形が整った石が“良し”とされてきましたが、私はそれに疑問を感じていたんです。例えば、いびつな形をしたバロックパール。日本では真円のパールが美しいとされているから、少し形がいびつというだけで価値が驚くほど下がってしまうんです。また、天然石も、少しインクルージョンが入っているだけで価値が大きく下がってしまうことも…。でも、ちょっといびつでも、インクルージョンがあっても、そこに美しさを見出しかわいいと思う人もいます。世界でひとつだけの一点ものというスペシャルな価値もある。そういう気持ちを応援したくて、”raw beauty=ありのままの美しさ”をテーマにしました。
余談ですが、お花のマーケットも似ていると聞きますね。大きさがまちまちなお花は捨てられてしまって、キレイなものだけが市場で売られている。固定された価値観を見直すことで、処分されてしまう運命を変えていけたらと思います。

――ブランドローンチ時から、売上の一部を途上国への支援にあてるドネーションプロジェクトを行っています。かねてから温めていたのでしょうか?

そうですね。中学生のころエジプトに行き、真っ黒なスラム街で私より幼い子どもが物乞いをしている姿を見て衝撃を受けたんです。それで途上国の貧困問題に関心を持ったんですけど、本格的に何かしたいと思ったのは、大学時代にインドのフリースクールで先生のボランティアをしてから。子どもたちは裸足で何時間も歩いて学校に来るんですけど、先生が「靴を履いてきなさい」って叱るんです。すごく貧しくて、靴なんて買えないのに。私はこっそりサンダルを買ってあげたりしたんですけど、それは目の前の子のほんの微々たる支えにしかならなくて。
いろんな国から来ている仲間とスポンサープログラムを計画して、大学生ながら名前を知っている大企業に協力の依頼をメールしてみたりしました。いま考えれば当たり前なんですけど、やっぱり誰も協力してくれなくて。
日本に帰るとき、持っていた現金をぜんぶインドに置いてきたんですけど、「私って、本当に何もできない」って無力感でいっぱいで。そのときに、お金がちゃんと循環する仕組みを作って、もっとたくさんの人を救いたいと思いました。

かわいいから身に着ける。そんなジュエリーを届けたい。

――具体的にはどのようなドネーションプロジェクトを行っているんですか?

途上国の女性への寄付やチャリティがメインで、ジュエリーの生産国であるインドの女性たちの自立をサポートすること、そして途上国の女の子の支援を目指しています。
具体的には大きく3つのプロジェクトがあります。ひとつは、お買い上げ金額の1%付与されるポイントを、途上国に寄付するか次回のお買い物の割引にあてるか、お客様にお選びいただける「Point Program」。
もうひとつは、インドで女性たちが手作業で作っているカラーストーンブレスレットをご購入いただくと、最大1,100円を寄付できる「“I am” Donation Project」。こちらは、私たちの想いに共鳴してくださったタトゥーシールブランド〈opnner〉のタトゥーシールがセットになっていて、ブレスレットにメッセージを添えてくれています。また、インドの女性たちの職支援にも繋がる仕組みです。
あとは年に2回、「"Raw Beauty Donation for Girls”」プロモーションを行っています。期間中はお買い上げ金額の10%を途上国にいる女の子へ寄付する試みで、セールを行わない代わりにこのかたちをとっています。

ーーさまざまなプロジェクトで、途上国の女の子への支援を行っているんですね。ドネーションを通して、叶えたい夢があるとか?

夢は、インドに学校を建てることなんです。教育を受けることで女性や子どもたちが知識と技術を身につけ、自分の人生を選びとる力と自由を得られるようになれば、少しずつ状況が変わってくるはず。国際NGOプラン・インターナショナルを通じて、途上国の女の子をエンパワーメントする「Because I am a Girlキャンペーン」に賛同しながら、「暴力の被害にあった女の子を守る」プロジェクトと、〈ARTIDA OUD〉のオーダーメイドプログラム「インドに学校を建てる」プロジェクトに寄付しています。
学校を建てるための目標金額は、750万円。これまでの累計寄付総額は、1,165万8,605円(2020年8月末時点)、そのうち、国境なき医師団の「新型コロナウイルス感染症危機対応募金」への寄付額は510万2,958円です。学校を建てるのはとても大きなチャレンジですが、多くの皆様にご賛同いただくことで夢が少しずつ現実味を帯びてきました。集まった寄付の金額は随時サイトでお知らせしているので、応援いただけると嬉しいです。

ーーかわいいと思うジュエリーを買うことが社会課題の解決につながるって、とても素敵だと思います。目指されていたところなんですか?

まさしく目標としていましたね。フェアトレードやチャリティを目的にしたグッズはいろいろありましたが、私自身「寄付したいから買う」気持ちを抱いていることに気づきました。逆に「かわいいから身につけたい、けどそこには強い意志と優しい気持ちが込められている」そんなジュエリーを作りたかったんです。
ありがたいことに多くの方に共感していただき、去年の夏「”I am”Donation」を発売したときは即日完売してしまい、あまりの反響に驚くとともに胸がじんわり温かくなりました。Instagramでお客様から「かわいいと思って買ったら、誰かのためになることができて嬉しい」というコメントをたくさんいただいたり。ブランドの目指すところなので、私たちも本当に嬉しいです。

SDGs 藤田さん

ーー今年の4〜7月は寄付先を国境なき医師団の「新型コロナウイルス感染症危機対応募金」にされ、アーティストとのチャリティコラボレーション作品を販売されたと伺いました。

新型コロナウィルスの感染拡大で世の中が大変な時期だったので、急遽、寄付先を変更しました。また、ふだんお世話になっている大好きなクリエイターの方々のお仕事がストップしてしまっていると耳にし、何かできることはないかと、公園を散歩しながら一緒に企画を練って…こちらもありがたいことに想いに共鳴してくださるお客様が多く、クリエイターのみなさんからも「医療従事者の方の支援になれたことが嬉しい」「参加できて良かった」「またすぐに何かやりたい!」などのお声をいただきました。身近な方をはじめ、困っている方々の力になることができ、私もうれしく思います。

ーー今後、やりたいことを教えてください。

途上国への支援を続けながら、ジュエリーのリサイクルを通して環境の側面でも社会課題に向き合いたいと思っています。金は地上に出ている在庫が18万トンあるのですが、半分ほどが宝飾品で、そのうちリサイクルされる金は1%にも満たないんです。どんどん地下資源を採掘しちゃっている。特に石は金よりも限りある資源で、一説によるとエメラルドはあと30年くらいしたら掘れなくなるという話もあるんです。そんな貴重な宝石でも、引き出しに眠っているものを日本の方は質などに安くで売りに出してしまうため、価値ある石が海外に流出してしまっていて…。
すでに、ジュエリーをお届けする際にエコ包装もお選びいただけるようにしていたり、金のリサイクルも行っていたり環境への配慮は進めているのですが、これからは石のリサイクルが実現できるようにしたいですね。

SDGs 藤田さん

ーー社会課題に関心があるHanako読者に向けて、メッセージをお願いします!

友人に、環境学者の子がいます。彼女は小さいころから植物に興味があったので環境学者になって、私はファッションと人が好きだったのでジュエリーを通して途上国の支援をしています。社会課題の解決には、さまざまなひとが、さまざまな立場で意識を向けることが大切だと思います。日常にある情報に目を向けて、無理せず自分の興味のあることを少しだけ掘り下げてみることから始めてみてはいかがでしょう。一緒に未来に光を灯せたらうれしいです。

〈ARTIDA OUD〉

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