ハナコと考えるSDGs 【かつおぶし伝道師】永松真依さんのストーリー/「愛してやまない鰹のように、動き続けることを大切にする。」
最近よく耳にするようになったSDGs(Sustainable Development Goals)という言葉。「持続可能な開発目標」と訳され、2030年までに“誰一人取り残さない”よりよい世界を目指して17の国際目標が掲げられています。それは政府や企業の頑張りだけでなく、私たちがもっと意識して毎日を“変えて”いくための課題でもあるのです。そこでハナコは、SDGsについて読者のみなさんと考える特集を企画しました。今回は“わたしらしく働く”ことをあきらめない、かつおぶし伝道師・永松真依さんのストーリーを紹介します。
勢いと情熱、巻き込む力で前に進み続ける。
ねじり鉢巻がチャームポイントの〝かつおちゃん〞こと永松真依さん。彼女が削る鰹節を目当てに、お店は連日大繁盛。明朗快活な彼女の口から飛び出したのは意外な言葉だった。
「実はつい先日までお休みしていたんです。待ち時間が長かったり、ご飯のクオリティが下がっているとご指摘を受けて、お店を開けて初めて立ち止まったタイミングでした」〈かつお食堂〉の開店は2017年。それまで派遣社員として働きながら夜な夜な飲み歩いていた永松さんを心配した母に勧められ、祖母と暮らすことに。そのときに飲んだ鰹だしのお味噌汁が運命の一杯となった。
「削りたての鰹節のおいしさに驚いたし、おばあちゃんが削り器に向かう姿が美しかった。この素晴らしい文化を広めたいと思ったんです」そうして宮古島から気仙沼まで、全国の鰹節の産地を巡る旅に出る。「もっと知りたい」という一心で、調べた住所に印をつけた地図を手に、文字通り飛び出した形だ。「ほぼ突撃で見学させてもらって、断られても全然めげなかった(笑)。だって、やりたくてやっていることだからあまり失敗だとも思わなくて。それは今の仕事においてもそうで、〝好きなことを仕事にしている〞という概念さえそんなになくて、ただただ好きなことをやっているだけ」
東京に戻り、鰹節屋でバイトをしていた頃、行きつけのバーに「昼間、うちで鰹節を出したら」と誘いを受けて、日間で〈かつお食堂〉を開店。旅先で見つけた日本全国のおいしい食材を使い、自ら削った鰹節をたっぷりかけた定食は、たちまち人々の心を掴んだ。
「鰹節の文化を伝える方法のひとつがお店。だから今も、お店で話しすぎてしまうんですよね。それを面白がってくれるのもとてもありがたいですし、私も、伝えたいことがたくさんあってついつい長く語ってしまって…それによって鰹節をおいしく食べてもらう方がおろそかになってしまっては本末転倒だなと。何が一番重要なのか、お休みをいただいた中でスタッフととことん話し合い、クリアにすることができました」
気になったことは解決しないと前に進めない。こだわりの米をさらに最善の状態で提供するために、それまで使っていたガス釜を廃止した。「うやむやにしたままにはできない性格なんです。解決しないと前に進めないし、前に進めないと苦しくなってしまう。私、勢いだけはあるんですけれど、鰹節のこと以外は知らないことばかり。周りのスタッフに助けてもらいながらやっています」不器用なほどに好きなことにまっすぐ。その姿勢があるから、周りの人も手も差し伸べたくなるのだろう。
【わたしが影響を受けたもの】『商人(あきんど)』ねじめ正一
鰹問屋伊勢屋「にんべん」の次男、伊之助を描いた時代小説。伊之助が「商人は何のために商売を大きくするのか?」と父に尋ねると、「おまえもあきんどになるのなら、答は自分でみつけるのだな」と答えるその言葉を胸に刻んでいます。(集英社文庫/667円)
Profile/永松真依(ながまつ・まい)
1987年、神奈川県生まれ。派遣社員として働くうちに鰹節の魅力に目覚める。その魅力を広く世に伝えるため、25歳の頃からイベントなどで鰹節を削るように。2017年11月〈かつお食堂〉をスタートさせる。
SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」について。
昨年、国際労働機関(ILO)が発表した日本における女性の管理職比率は、全世界平均27.1%に対してわずか12%。この国は女性にとってまだまだ働きにくい環境だといえます。今後、世界中が一丸となって、女性の力をもっと引き出せるような取り組みが進められていく中、私たちも自分の働き方についてポジティブに見つめ直す良い機会なのではないでしょうか。
Hanakoは“わたしらしく働く”ことをあきらめない、女性のストーリーを紹介します。
(Hanako1184号掲載/illustration:Nodoka Miyashita photo:Takehiro Goto , MEGUMI, Yoshiki Okamoto text:Makoto Tozukai, Rie Hayashi, Narumi Sasaki, Rio Hirai edit:Rio Hirai)