〈ハナコラボ×KAI〉本当に欲しい刃物開発プロジェクト#4 プロダクトデザインのプロに〝よいデザインとは何か?”のヒントを聞く
貝印とHanakoによるコラボ連載4回目。“本当に欲しい刃物”を作るための旅は、デザインを考える段階に入りいよいよ佳境へ。
これまで料理やブランディングの識者から話を聞くうちに、私たちが本当に欲しい刃物は〝単機能で使い勝手のよさを突き詰めていった結果、いろんな用途に使えるキッチンバサミ〞という道筋が見えるまでに。そして今回は特別ゲストとして貝印で刃物プロジェクトのデザインを担当する大塚淳さんも参加し、大塚さんが会ってみたかったというプロダクトデザイナーの辰野しずかさんを迎え、デザインについて意見を深める
〝嫌じゃない〞という 落としどころが実は大事
大塚:2017年に、ドイツのアンビエンテ(世界最大級の消費財見本市)で辰野さんがデザインした備前焼のカラフェを見て、「既成概念を打ち破ると同時に生活にすっとなじむ。一体どんな方がデザインしているんだろう」と気になっていたんです。
辰野:ありがとうございます。
大塚:辰野さんの製品を見ていて思うのは、〝工業製品〞と〝工芸〞のバランスが絶妙だということ。製造上さまざまな制約があると思いますが、その中にも工芸的なニュアンスが感じられる。そのあたり辰野さんご自身は、デザインについてどのような考えをお持ちでしょうか?
辰野:私はメーカーさんとお仕事をすることが多いんですが、大切にしているのは、それぞれのメーカーにしかない強みを探し出して、そこを大きく膨らませていくというプロセスです。自分たちにしかできないことを再発見し、自信を持って制作を行った方が、メーカーもやる意味を見出せると思うので。
東:辰野さんの個性みたいなものは、あまり押し出さないんでしょうか?
辰野:そうですね。でも、見た人からは〝辰野らしさ〞が出ているとよく言われます(笑)。ただ、私としてはあくまでメーカーに寄り添うことを考えて、あとは〝嫌じゃない形〞に落とし込んでいるだけです。
大塚:〝嫌じゃない〞って、重要なキーワードですね。貝印でいうと、たとえばキッチンバサミだったらこういうデザインにするのがセオリー、みたいなメーカー的なロジックがある一方で、他社と差別化したい自分もいる…。そのせめぎあいの中で、〝嫌じゃない〞デザインに落ち着かせるのは、ありたい形の一つです。
東:私はせっかくキッチンバサミを作るなら、長く愛されるようなデザインにできればと思っているんです。辰野さんはデザインの普遍性みたいなことを意識しますか?
辰野:もちろん長く使ってもらえたらいいなと思いますが、時代も人の気持ちも変化するものなので、そこに期待しすぎるのは、ちょっと違うのかなと。長く使われるとしたら、たぶんそれはモノだけの魅力ではなく、たとえば大好きなおばあちゃんから受け継がれたハサミなど、思いや背景がそうさせるのではないでしょうか。
木皿:以前にも出た〝物語のあるプ
ロダクトは魅力的〞ということにもつながる気がします。
辰野:確かに、作られた背景がとても素敵だったり、少なくとも使い勝手がよかったり、そういうものであれば自ずと残っていくと思います。
プロダクトの美しさには 状況の美しさも含まれる
木皿:デザインと使いやすさのバランスはどう考えたらいいでしょう?
辰野:一概には言えないのですが、私は使い道に〝余白〞があるのも魅力的なプロダクトの一つだと思っています。たとえば、右利き専用と限定しないキッチンバサミであれば、左利きの友達が遊びに来た時に2人で一緒に使える。そんな余白です。
東:それは素敵ですね。
刃物作りからその歴史が始まり、今年で創業112年という老舗メーカーキッチンツールも多数作っていて、大ヒット商品「SELECT100 T型ピーラー」など、機能的にもデザイン的にも優れた商品や、「トング付きキッチンハサミ」といったアイデア商品など、幅広く展開。
また、クラウドファンディングで商品化した「サカナイフ」の開発・製造にも協力した。
問い合わせ先/貝印 お客様相談室:0120-016-410