〈+CEL〉インタビューvol.4 (前編)
北海道・美瑛に暮らす料理家たかはしよしこさん、
移住して変わった、家族との向き合い方。 MAMA 2023.08.31PR

春夏秋冬、四季折々の旬の食材を追いかけて、おいしく料理する。万能調味料〈エジプト塩〉も人気の料理家たかはしよしこさんは3年前まで東京で春・夏・秋・冬の頭文字をつないだ〈S/S/A/W〉というアトリエ兼レストランをベースに活動をしていた。2020年、家族とともに北海道美瑛に移住。かの地でレストラン〈SSAW BIEI〉をオープンすることに。ランドセルブランド〈+CEL〉と共に“子どもに受け継ぎたいもの”を訊くインタビュー企画。前編となる今回は、北海道で実にのびのびと育っているという娘さんとの暮らしぶりや、北海道へ移り住んだ理由と、そこで変わった家族との向き合い方について話を伺いました。

森の中に佇む、平屋レストラン〈SSAW BIEI〉。この敷地にはもともと小学校があった。レストランは、元教員住宅をリノベーションして作られた。
森の中に佇む、平屋レストラン〈SSAW BIEI〉。この敷地にはもともと小学校があった。レストランは、元教員住宅をリノベーションして作られた。

娘が自分から“この学校に行く!”と言ってくれた。 
――北海道、美瑛に移住されたのは2020年。娘さんの季乃ちゃんが小学校に入学するタイミングだったそうですね。

「はい。小学校がはじまる前の4月頭に引っ越しをしたかったのですが、ちょうどコロナの流行がはじまり緊急事態宣言がでた頃で。1ヶ月くらいは東京に留まっていたのですが、学校もはじまってしまったし、これはいつまでも待っていられないぞと、思い切ってこちらにきました」

――移住を決心されたのは、たかはしさんの夫である前田景さんの祖父で写真家の前田真三さんが開設した写真館〈拓真館〉を引き継ぐため。

「はい。もともとは夫の実家が風景写真ギャラリーを営んでいたんですが、経営的にうまくいってないことが、景さんが会社に入ってみたらわかりました。遠隔ではどうにもならないので、実際に移住して建て直すことが必要だなと思い、移住を決断しました。写真館をリニューアルすることと同時に、この場所をもっと知ってもらい盛り上げるために、ここで私がレストランを開いてみたらどうかと考えるようになりました。夫は今、館長として日々、試行錯誤を続けています。この3年間で、入館者の数も倍以上になり、売り上げも徐々に回復してきました。やはりこちらにきてよかったなと実感しています」

――季乃ちゃんにとっては新しい生活がはじまりましたね。

「そうですね。小学校にあがるタイミングで移住できたのもよかったことのひとつです。東京では自宅からわざわざ5キロも離れた祐天寺の幼稚園に通っていました。そこは自然派の幼稚園で素晴らしい園だったのですが、1学年だけで70人くらいいる大きな園だった。うちの子は早生まれというのもあって、4月、5月生まれの子たちには体格も体力も到底叶わない。いつも圧倒されてしまい、家では元気いっぱいなんだけど、それを幼稚園でも同じ様に発揮できているかというとそうでもなかった。けっこうキャラが立っているタイプなんですけどね。それを活かせてなかった。そんな彼女に合う学校って、どんなところなんだろうと当時はずっと考えていたんです。地元の公立の小学校でいいのか、それとも私立の学校を選んだほうがいいのか。でも、お受験するっていうキャラじゃないよなとか(笑)。その中で、この移住の話が出て、とりあえず美瑛の小学校を見に行こうと見学に行ったんです。そうしたら家族3人とも“ここがいい!”とピンときてしまった。娘も率先して“私この学校に行く!“と言ってくれました」

――どこかよかったんでしょうか?

「まず東京と違い子どもの数が少ないです。全校生徒が30人しかいない。季乃の学年は全員で5人です。とても少ないのですが、少ない分みんな仲がいいし、先生たちの目も行き届いています。いいなと思ったのは、見学へ行った時に、子どもたちが先生にジャンプして飛びついていた。なんでもない場面のようですが、子どもたちが先生に素直に懐いているのがすごく伝わりました。学校なのでピシッとしないといけないところはもちろんしていますが、それでも先生と子供の距離が近くてみんな生き生きと楽しそう。それに、給食がおいしいというのもよかったです。周りは農家さんばかりなので、アスパラがたくさん採れたよって、バーンと大量に差し入れられるんですよ。味噌も地域のおばあちゃんの手作り味噌を使っているとか生徒数が少ないからできることかもしれませんが、とても丁寧に手作りしてくれていることが伝わりました」

――それはいいですね。

「生徒数が少ないので上下の学年とも関係が密接なんですよね。娘は一人っ子なので、兄弟のように育つ環境もよかったと感じています。当初の直感の通り、娘は学校が大好きになりました。だから、私の仕事の都合で学校をお休みしないといけない時なんかは、大泣きですよ。“明日は図工があるのになんで休まなきゃいけないんだ!”って(笑)。もし今も東京で暮らしていても、もちろん元気いっぱいだとは思いますが、こんなに伸び伸びとはできてなかったかもしれないと思うと、この選択ができて、よかったなと思いますね」

料理家 たかはしよしこさん ランドセル

必要なものだけでいい、仕事も暮らしもシンプルになった。

――たかはしさんご自身は東京にいた頃と仕事や育児のペースは変わりましたか?

「とっても楽になりました。東京の頃は、家とお店が離れていたので移動時間だけでも1時間近くかかっていました。でも、今は家とお店は徒歩1分の距離。食材のことも、東京では生産者からわざわざ取り寄せて選んでいましたが、今は農家さんがすごく近くにいるし、必要なときに自分の菜園に取りにいくこともできる。美瑛にきたら、いろいろと距離ができるのかと思ったら、まったく逆で、私が今必要なものがぎゅっと濃縮された。仕事がとてもシンプルになったと感じています。それと同時に生活もとてもシンプルになりました。夜もやることがないから早く寝るし(笑)。そのせいかわかりませんが、体調がとてもいいです。以前は、1年に1回は喘息の様な症状が出て体調を崩すことがありましたが、こちらの空気がいいからか、忙しさは東京の頃と変わらないけれど体の調子もすごくいいんです」

――お子さんとの向き合い方についてはいかがですか?

「それも大きく変わりました。こちらにきてから自分の休み日曜日にしたんです。日曜ってお客さんがいちばんきてくださる日なんですけれど、小学生のお休みに合わせると、日曜休みがいちばんいいなって。それをはじめてから、娘としっかりコミュニケーションがとれるようになったと感じています。休みの日は、一緒にバドミントンをしたり、自転車に乗って公園へ行ったり。冬にはスキーを楽しみます。でも、今日は疲れているからと、まったりするだけの日もある。とにかく一緒にいる時間が大事。お店が家に近いことで“おかえり”をお互いに言い合えることもとてもいいことだなと感じています」

――季乃ちゃんも近くでお母さんの仕事をしている様子を見られるのは、安心できるし、うれしいでしょうね。

「そうなんです。彼女は私のことを“タビー”と呼ぶのですが、いつも“タビーは料理人なんだよ”とクラスメイトたちに自慢してくれます。仕事のことで悩んで夫と口論になっても“タビーは仕事が楽しいんでしょ。だったら辞めちゃダメだよ”とか、アドバイスをくれる。励ましてくれると素直にうれしいし、がんばらないと、となりますよね。最近では、写真館でイベントを開催すると、彼女は自分で考えて“似顔絵屋さん”を開いたりしています。私が料理を得意とするように、自分も自分が得意なことで何かはじめてみたいという気持ちが出てきている。その気持ちを大事にしたいし、なにより面白いから、自由にやってみて、と出店者のひとりになってもらっています。1人100円で似顔絵を描くのですが、一丁前になかなか上手なんですよ。1日で5000円くらい稼ぐこともあって、働くことの面白さや大変さを知ってもらえたらと思っています」

食材の味を引き立てる、「エジプト塩」「モロッコ胡椒」はレストランにも。北の大地の素材をふんだんに使った、ここだけの驚きの一皿と出会える。
食材の味を引き立てる、「エジプト塩」「モロッコ胡椒」はレストランにも。北の大地の素材をふんだんに使った、ここだけの驚きの一皿と出会える。

後編では、たかはしさんが母から受け継ぎ、娘の季乃ちゃんに渡していきたい、もの、ことについて。そして、〈+CEL〉のランドセルを見ていただきながら、ランドセル選びでたかはしさんがどうしても譲れなかったこと、について話を伺いました。

photo_Norio Kidera text & edit_Kana Umehara

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