第2回 写真家・田尾沙織の『Step and a Step』500gで生まれた赤ちゃん 【田尾沙織のStep and a Step・2】森のどんぐり小屋
写真家・田尾沙織さんに、500gで生まれて、軽度の知的障害とADHDだと言われている息子、奏ちゃんの子育てと日常について綴っていただくこの連載。
2人の日常を、田尾さんによる色鮮やかな写真と共にお届けします。
前回の長野の話の続きです。
果樹園を訪れると、いつも果樹園のご家族の別荘に泊めてもらっています。森の中にある小さな小屋で(小さいと言っても東京の家と比べたらずいぶん大きですが)、ご家族はその小屋を「どんぐり小屋」と呼んでいます。とてもかわいい名前の小屋を私も奏ちゃんも大好きになりました。車をお借りして、小屋の近くの温泉に行ったりしましたが、私はペーパードライバーなので遠出はできません。奏ちゃんと私ふたりの時は、のんびりとした時間を満喫しています。
まず、奏ちゃんが気に入ったのはテラスに落ちた葉っぱのお掃除。自分の身長よりもずいぶん長いホウキを持って、全身を使って落ち葉を掃きます。
掃除が終わったと思っても、背の高い木に囲まれた小屋なので、すぐにまた葉っぱはひらひらとテラスに落ちてきます、それを部屋から見るたびに、
「おそうじしなくっちゃ!」と、はりきって掃いていました。東京ではマンション暮らしなので、ホウキを使ったことがないことに気がつきませんでした。
掃除の後は、朝の散歩。奏ちゃんは小さな自分用のバッグを持って、歩きながら落ち葉や木の実を拾いました。
私が奏ちゃんに伝わるように、なんでも少しおおげさに「黄色い葉っぱきれいだね! 赤い実きれいだね!」と言うのを真似してか、奏ちゃんも、
「きれいなきのみ」「きれいなはっぱ」「きれいなえだ」と言って、拾った宝物をバッグに詰め込みます。そして、初めて、
「これなに?」
と言って、苔に興味を示したり、枯れ葉の間から顔を出すきのこを見つけたりしました。
最近奏ちゃんは、私の携帯で写真を撮れるようになったので、自分で見つけた木の実の写真も撮って満足そうでした。
どんぐり小屋に帰ると、奏ちゃんは拾ってきた宝物を親友のクマの人形の“もたいさん”に見せると言って、テーブルの上に並べました。そして小屋にあった木の実の図鑑を広げて、拾った木の実はどれかを照らし合わせました。
子どもは、おもちゃがなくても遊びを見つける天才だなと思いました。そして、心なしかいつもより奏ちゃんが穏やかな気がしました。
すごく特別なことをしているわけではないのですが、東京で暮らしている私たちにとって、小屋で過ごす時間は特別で、こんな風に日々穏やかにすごせたら……と田舎暮らしへの憧れが沸々と湧きました。
それと、私たちはいつも旅行には、その旅に合った絵本を持っていきます。
どんぐり小屋に行く時はいつも「バムとケロのもりのこや」。あとは、絵本をたくさん持っているご家族が貸してくれました。
「どんぐりむらのパンやさん」
「もりのえほん」
「りんごのき」
「ルフランルフラン」
「もりのかな」
「もりのかくれんぼう」
奏ちゃんは、どんぐり小屋で借りた絵本は大好きになります。東京に帰って、先日病院の待合室で「もりのかくれんぼう」を見つけて
「みてこれ!」
とよろこんで教えてくれました。 次はいつか、雪のどんぐり小屋を訪れたいなと思っています。