ストレスフリーな、こだわりの黒い傘|前田エマの、日々のモノ選び。#9
30代という年齢は、“モノを選ぶ眼”が育ち養われてくる年齢ではないだろうか?流行りものやブランドものではなく、自分が心地いいモノを選びたい。生産の背景を知り好きになるモノだったり、多少値が張っても人生をかけて大切にしたいと思えるモノだったり…。そういった視点でモノを選ぶ前田エマさんが、ご自身の私物とともに「モノの選び方」について綴る連載です。第9回目は“傘”について。
傘という道具は、私にとって、どうしてもストレスを感じてしまうものだ。
人混みでは、すれ違いざまに、誰かを傷つけたりしないかと、ヒヤヒヤしている。
ささずに持ち歩いている時も、上手くやらないと武器のようになってしまうのではないかと、ドキドキしている。
電車の中では、雨で濡れた傘が、誰かに接触したりしないか、いつも目を凝らしている。
店に入ると、片手が塞がり、自由に身動きがとれず、買い物も楽しくできない。
雨は嫌いじゃない。
でも、傘と一緒に過ごすのは、なんだか憂鬱で仕方がなかった。
しかし、そんな傘との時間を、少しいいなと思えるようになったのは、この傘との出会いがあったからだ。
百年近く続く〈大森商店〉は、傘の柄(ハンドル)を作る店だ。
数年前に取材で訪れた際、傘袋のついた傘をここで見た。
肩にかけられる傘袋。
これさえあれば、電車の中で濡れた傘のあれこれを心配しなくていいし、店に入るときも両手が空く。
その当時、大森商店で扱っている傘袋付きの傘には黒色がなかった。
私は普段から黒色の服を着ることが多いのだが、雨の日は泥跳ねなどが気になるので、特に黒い服を着る。
そして何よりも、喪服を着た時に、きちんとした黒い傘を差したいという気持ちがあったので、ダメもとで黒い傘が作れるのかお願いしてみた。
それからしばらく経って、お店の方から連絡をいただいた。
黒い傘を作ってくださったのだ。
大森商店の傘の柄は、職人さん達がひとつひとつ手作りしている。
動物のモチーフや、竹や木、アクリルやリボンを使ったものなど、種類が豊富で目移りしてしまう。
私は雨粒が連なったような、キラキラ光るデザインのものを選んだ。
とてもシンプルな傘だけれど、アクセサリーのようなアクリル部分を見るたびに嬉しくなる。
丸い輪っかの部分を手首にかけることもできるので、そこも気に入っている。
花の形をしたボタンもかわいい。
シンプルで主張しないのに、こういうときめきが散りばめられていると、嬉しくなる。
お気に入りの傘があると、雨の日に外出するのが、少し楽しみになる。
ちなみに、私はいつもカバンに折り畳み傘を入れている。
持ち歩いているのを忘れるくらい、軽くて小さな傘だ。
耐久性はあまりないけれど、持ち歩くストレスがないのがいい。
晴雨兼用のもので、黒色。
付属の外袋は使わず、細長いポーチのような、吸水性が高いものを買って、その中に入れている。
折り畳み傘は、使用した後に袋に入れるのが面倒だ。
しかし濡れた傘をカバンにそのまましまうわけにはいかないので、吸水性のある傘袋がものすごく便利なのだ。
こうやって、色々少しずつ工夫しながら、傘と上手く付き合っていきたいと思う今日この頃なのだが、最近はちゃんとした日傘が欲しくて色々探し回っている。
遮光性があるものは、ギンギラと輝く素材で、少し躊躇してしまう。
かといって、布素材だとお手入れが大変そうだし、少し重い。
道具であり、装飾品でもある傘を選ぶことは、なかなか難しいのである。
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