「子どもを持たない人生」月岡ツキさんが夫婦で歩むと決めた理由【後編】|工藤まおりが聞く、それぞれのチョイス

LEARN 2023.10.12

カップル間でのコミュニケーションや心理学を学びながら、フリーランスのPR・ライターとして活躍する工藤まおりさんが、結婚や妊娠について様々な選択をした女性たちにインタビュー。前回に引き続き、子どもを持たない共働き夫婦(通称「DINKs」)という生き方を選択している月岡ツキさんに話を伺いました。

現在30歳の月岡ツキさんは、2021年に東京から長野県に移住。
そこで現在のパートナーと知り合い、出会って半年後に結婚。現在は都内の企業に週3で正社員として働きながら、ライターとしても活動しつつ「令和DINKs(仮)」としての考えを発信している。

後編記事では、子を持たない選択についての周囲からの声と「DINKs(仮)」として発信し続けている理由について深掘りする。

★前編はこちら

「子どもはいつ?」と無邪気に聞かれる

月岡ツキさん

ーー月岡さんは現在「子どもを持たない人生」をご夫婦で歩まれていますが、月岡さんやパートナーのご両親から、その選択に対して反対されたことは?

「私の母親からは、『一人くらい産めばいいのに』『早く孫が見たい!』と実家に帰省するたびに言われますし、よく衝突します(苦笑)。『子を持つかどうかは私たちが決めることだから』と繰り返し伝えて、ようやく以前よりは言われなくなってきましたが、まだ納得していないと思います。
夫のご両親は、夫が名字を変えることに関しても、子どもを持たないことに関しても、『大人である当人同士が決めることだから』と私たちの意見を尊重してくれています」

ーー「結婚したら子どもを持つことが当たり前」という考えの方はまだまだ多いですもんね。

「そうですね。特に、私の母親は4人も子どもを育てて、人生のほとんどを子育てに費やしてきた人です。
そういう人生を歩んできた母にとっては、子育て経験がアイデンティティであり誇りでもある。そんな自分の娘が子どもを産み育てないということに対し、自分の人生を否定されたような不安な気持ちになるのかもしれません。

親族だけでなく、友人や年長者の知人からも『子どもは?』『そろそろ?』って無邪気に聞かれることはあります。私は身体的な理由で子どもを持たないわけではなく、選択的なものなので聞かれてもまあなんとなく流せますが、もし私が不妊治療で授かれなくてすごく悩んでいる人だったら、聞かれるたびに傷つく質問になのにな…他の人にもそうやって無邪気に聞いてるのかな…って心配になります」

ーー出産の話題は結構センシティブだと思うのですが、気軽に聞く方もいらっしゃるんですね。

「挨拶代わりのような感じで聞かれることが多いです。
移住した長野の周りの人や地元の同級生たちは、結婚も出産も早いうちに経験して、それはそれで結構幸せそうに暮らしてるんですよね。実家も近いので子育てを助けてくれる親もいるし、近所には友達もいるし。
そんなふうに、それなりにゆとりがある子育て世帯が周りにたくさんいるなら、躊躇なく子どもを産み育てようと思えるだろうし、子どもがいる家庭が当たり前だと考えるだろうなって思います。

だから、結婚しても一向に子どもを産まない私に対して『なんで産まないの?』って、シンプルに疑問を抱く人が一定数いるのもわかります」

子どもを持たない人の声は可視化されにくい

月岡ツキさん

ーー「子どもを持たない」という選択に対して、責める人も?

「妊娠や出産は『おめでた』って表現されるくらい、めでたいことですよね。それ自体にはなんの疑いもないですし、人を産み育てるって尊いことだと思います。
でもその反面、『おめでたいこと』をやらない人は『めでたくない人』とされてしまいがち。まだまだ『やらなくちゃいけないことをやってない人』『寂しい家庭』というイメージが強くて。

今まで『いつか後悔する日が来るよ』とか『女性は、子どもを産んでこそ知れる幸せがあるんだよ』というようなことも言われてきました」

ーー子どもを持たないからこそ、味わえる幸せもあると思うんですが…。

「そうなんですけど、今まで「子どもを持たないからこその幸せ」についてはポジティブに語られてこなかったんですよね。子どもが欲しくないという人も昔から一定数いたはずなのに、なかなかそういった声は可視化されてこなかった。
子育てブログや子育て漫画は世の中に溢れているのに、子どもを持たない夫婦の話って、本当に少ないと思っています。『欲しかったのに授かれなかった』という話はまだしも、最初から子どもを望まずに夫婦で楽しく暮らしている人たちって、あんまりいないことになっている気がします。
ネットの一部界隈では子どもがいない女性のことをスラングで『小梨(=子無し)』と表現して、『自己中心的な人たち』として糾弾することも。そんなの少数の過激な人たちが言っているだけだとわかっていますが、やっぱり多少は傷つきます。

私と同じように『子どもを持たない人生もいいじゃん』と思っていても、表立っては言えない人が多い。私が子どもを持たないことについてSNSなどで発信すると、全然知らないアカウントから『言えなかった気持ちを言語化してくれて、ありがとうございます』ってDMで感想をいただくことも多いです」

子どもがいる人と子どもがいない人が対話する場を作りたい

月岡ツキさん

ーー月岡さんは現在「DINKs(仮)」として発信をされていますが、10年先はどのように暮らしていると思いますか?

「そう聞かれて10年後の未来を考えてみても、自分の子どもがいるイメージが湧いてこなかったので、きっとこの先も夫婦2人で生きてくんだろうなとは思います。めちゃくちゃ気が変わって親になる選択をしている可能性も全くのゼロではありませんが、まあ今のところはないかな。
夫婦ふたりで暮らしていく中で、子どもを持たない生き方を発信して、微力ながらネガティブなイメージを変えていければと考えています。『子どもを持たない人を増やそう』という意図ではなく、いろんな選択を知って尊重し合えるようになるためです」

ーーどのように変えていきたいと思っていますか?

「30〜40代は特にそうかもしれませんが、子どもがいる人はいる人同士で、いない人はいない人同士でばかりコミュニケーションを取りがちで、なんとなく分断されたり対立構造っぽくなりやすいのではと感じます。同じ属性同士でしか共有できない悩みもあるので、そういう集まりももちろん大切だと思いますが、社会はいろんな人が集まってできているのに、同じ選択をした者同士としか話さなくなっていくのはあんまり良くないんじゃないかなと思ってて。

子どもがいる人と子どもがいない人同士で、お互いに悩みを共有したり、それぞれがどんな視点でどう物事を見ているのかを知ったりすることで、どうしたらお互いが社会で気持ちよく過ごせるのか、逆にどんなことをされたら嫌なのかをわかるようにしたいんです」

ーー確かに、同じような環境で暮らす人たち同士でコミュニケーションを取りがちになってしまいます。

「最近はそんな理由から、子どもを育てている同い年の友人と一緒にPodcastを始めました。子どもがいる友人といない私とで、同じテーマについて話し合って、視点の違いやお互いの悩みと本音を話せる場所を作ろうとしていて。相談や感想を送ってくれるリスナーも、子育て中の方、DINKsの方、子を持とうか迷っている方、独身の方などさまざまで、いろんな立場の方の声が集まって来るのがすごくうれしいです。
違う選択をした人同士がお互いにコミュニケーションを取ることで、もっと世の中に対していい影響を及ぼしていけると思うんです。私はたまたま子どもを持たない選択をしていますが、社会は子どもがいる人たちとも、結婚をしない人たちとも、もっと別の選択をしている人たちとも一緒に暮らしていく場所。だからこそ、子どもを持つ持たないも含めていろんな立場の人がが心地よく過ごせるような社会にしていきたいなと思っています」

2023年にBIGLOBE(ビッグローブ)が発表した「子育てに関するZ世代の意識調査」によると、「将来、子どもが欲しくない」と回答したZ世代(18~25歳)は45.7%。
約半数の若い世代が子どもが欲しくないと思っているのにも関わらず、子どもを持たない選択はまだまだ世間に受け入れられているとは言い難い。

月岡さんの発信をキッカケに、子どもがいる人、いない人双方が過ごしやすい社会になって欲しい。

月岡ツキさんのTwitter:https://twitter.com/olunnun
note:https://note.com/getsumen/

photo:Wataru Kitao

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