日本の文化や自然を継ぐために! 備前焼と食文化の旅
備前市[岡山県]/旅こそ、SDGs。#4 TRAVEL 2023.03.16

備前焼で知られる岡山県備前市。この町のものづくりや食文化に表れる人々の暮らしには、岡山藩政を確立し質素倹約を打ち出した江戸時代の名君、池田光政の教えが今でも受け継がれているようだ。焼き物の里と、池田氏ゆかりの場所を訪ねる、備前の旅。

器好きの間では、古い焼き物としてその名を知られている備前焼。その代表的な産地である備前市南東部の伊部地区には、備前焼の作家の窯元や工房が集まっている。JR伊部(いんべ)駅を降りて町を見渡せば、屋号を記した登り窯の煙突がポツポツと伸びていて、煙突を目指して歩けば窯元にたどり着くことができる。

備前焼は釉薬(ゆうやく)を使用せず、絵付けもしないという究極にシンプルな焼き物。伊部の土地で採掘される粘土を大切に使って焼かれ、一点一点に土味がよく表れる。表情は味わい深く、質実剛健という表現がしっくりくる。しかも約1200度の高温で焼き締められるので、実際堅くて割れにくい。備前焼窯元〈一陽窯〉を訪ねると、ちょうど窯出しの作業中だった。
「窯焚きはだいたい年2回。窯詰めに約2週間、窯焚きは10日間前後。冷ますのに8日ほどかかり、窯出し期間は約1カ月です」と、3代目の木村肇さんが登り窯を案内してくれる。
「窯焚きの間は昼夜火を絶やせないので大変な作業。でも一番神経を使うのは窯詰め。土の性質や窯の温度変化はもちろん、窯への詰め方、焼成時の灰や炭の影響によって模様が生み出されます。前後左右上下、置く場所によっても同じ表情は二つと出ないので面白い」

窯焚きの時期にはお手伝いの人やお客さんが集まり、食事やお酒の振る舞いがあるそう。そんな備前の宴の食卓に欠かせないのが「ばらずし」だ。海の幸や旬の野菜を華やかに盛りつけた、岡山を代表する郷土料理。倉敷に木村さんが〝魚の師匠〟と慕う魚屋さんがあるというので、案内してもらうことにする。

質素倹約から生まれた魅惑の旨さ。

「鎌倉時代、商業都市として水運で栄えていた備前福岡。ここで行われていた『福岡の市』で船頭用に出されていた五目飯に、武士が酔っ払って、酸っぱくなったどぶろくをかけた『どぶろくめし』がばらずしの元祖といわれています」と教えてくれたのは、〈魚春〉5代目の光畑隆治さん。さらに話は江戸時代へ続く。
「備前岡山藩の初代藩主・池田光政が質素倹約を奨励し、『食膳は一汁一菜とする』という倹約令を発布。そんな世でも庶民は工夫して、『飯の上にのせても一菜は一菜』と、上に魚や野菜をのせて『ばらずし』として食べていたそう。魚は季節や地域によってまちまちですが、この辺りではもっぱらヒラか鰆(さわら)。ばらずしは慶事などで振る舞うハレの料理なので、桶でたっぷり作るもの。上にはってある魚や煮染めをつまみに飲んで、締めにご飯を食べるのが岡山流ですね」

倹約令により考えられた「返し寿司」。具を下に詰め上にご飯をのせると見た目は質素な五目飯。箱をひっくり返すと豪華な寿司が出現。
倹約令により考えられた「返し寿司」。具を下に詰め上にご飯をのせると見た目は質素な五目飯。箱をひっくり返すと豪華な寿司が出現。

備前市には藩主の池田光政が創建した特別史跡旧閑谷学校が残っている。備前焼の屋根瓦はじめ剛健質朴な建物には、「永遠に残してほしい」という同氏の遺言に則り、修繕や経費をかけずに建物が長持ちする工夫が施されている。この土地を旅すれば、料理に建物に県民マインドに、今も受け継がれる名君の心を感じるだろう。

【訪れる】特別史跡旧閑谷学校(とくべつしせききゅうしずたにがっこう)

寛文10年創設の岡山藩直営の庶民教育のための学校。

住所:岡山県備前市閑谷784
TEL:0869-67-1436
営業時間:9:00〜17:00 12月29~31日休
入場料400円

【食べる】UDO

伊部駅に併設された喫茶〈UDO〉では〈一陽窯〉の木村肇さん作の器でコーヒータイムが楽しめる。
伊部駅に併設された喫茶〈UDO〉では〈一陽窯〉の木村肇さん作の器でコーヒータイムが楽しめる。

〈キノシタショウテン〉の自家焙煎コーヒーやスイーツが人気。

住所:岡山県備前市伊部1657-7 伊部駅1F
TEL:0869-93-4701
営業時間:10:00〜17:00
定休日:不定休

【買う】一陽窯(いちようがま)

登り窯や作業場など、いつでも見学可能。JR伊部駅から徒歩約5分。

住所:岡山県備前市伊部670
TEL:0869-64-3655
営業時間:10:00〜17:00
定休日:不定休

【食べる】魚春

明治31年創業。鮮魚の卸売販売に加え、ばらずしや仕出しも評判。

住所:岡山県倉敷市茶屋町1648
TEl:086-428-2427
営業時間:9:00〜19:00
定休日:日休

【訪れる】王子が岳

瀬戸内海を一望する絶景スポット、王子が岳。通称ニコニコ岩が内海を見下ろす。
瀬戸内海を一望する絶景スポット、王子が岳。通称ニコニコ岩が内海を見下ろす。

玉野市と倉敷市にまたがる、瀬戸大橋の全景を望むビュースポット。ニコニコ岩など巨岩や奇岩が織り成す珍景観も見どころ。

住所:岡山県玉野市渋川4

岡山県の特産品ショップ〈晴れの国おかやま館〉

JR岡山駅や〈岡山後楽園〉からも徒歩圏内と便利な立地。備前焼はもちろん、県の銘菓やお土産、地元のこだわり食品や民工芸品などが一堂に揃う特産品ショップ。

〈晴れの国おかやま館〉
住所:岡山県岡山市北区表町1-1-22
TEL:086-234-2270
営業時間:10:00~19:00
定休日:火休(祝日の場合は営業)

東京新橋で岡山の伝統工芸品フェアが開催

新橋にある岡山県アンテナショップ〈とっとり・おかやま新橋館〉にて、岡山の伝統的工芸品に触れることができるイベントが開催。「備前焼」をはじめ「手織作州絣」「蒜山がま細工」のほか、工芸品の展示・販売や実演・体験等が楽しめ、岡山県の特産品などが当たる抽選会も!

場所:〈とっとり・おかやま館〉2階イベントスペース及び1回プロモーションゾーン(東京都港区新橋1-11-7号)
日時:[1日目]3月18日(土)15:00~19:00
   [2日目]3月19日(日)10:00~18:00
   [3日目]3月20日(月)10:00~16:00
イベントに関するお問い合わせ:晴れの国おかやま館(TEL:086-234-2270)

旅こそ、SDGs。

“旅をする”とは即ち、その土地を訪れ、実際に見て、触れて、食べて、人と出会って話を聞いて、その思い出を持ち帰ること。日本各地の豊かな文化や貴重な自然を次の世代に残していくために、できる行動は何だろうと考えたとき、“旅をする”ことだと気がつきました。自分を豊かにしてくれる旅が、地域の継承にもつながっていく…。そんなSDGsな旅、西日本の4つの地域からお届けします。

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photo : Kiichi Fukuda text & edit : Chisa Nishinoiri

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