第16回 写真家・田尾沙織の『Step and a Step』500gで生まれた赤ちゃん 【田尾沙織のStep and a Step・16】写真は嘘つきなんですよ MAMA 2021.06.25

写真家・田尾沙織さんに、500gで生まれて、軽度の知的障害とADHDだと言われている息子、奏ちゃんの子育てと日常について綴っていただくこの連載。
2人の日常を、田尾さんによる色鮮やかな写真と共にお届けします。

以前、育児雑誌のお仕事をした時に編集の方との雑談で、育児中のお母さんの鬱の原因にSNSがあると聞きました。

子育て中、友人となかなか会えなくて、言葉の通じない赤ちゃんや手がかかる幼児と毎日ふたりっきりだと、孤独で携帯を開く時間も長くなると思います。

この家はこんなに素敵なお誕曜日会をしているとか、
なんだかすごいアイシングのクッキーがのっている豪華なケーキだとか、
育児しているのに部屋がモデルハウスみたいに綺麗だとか、
海外旅行に連れて行ってあげているとか、
もうあの子はひらがなが書けるとか……。

確かに、SNSで見えてくる隣の芝は青いですし、それに育児が関わってくるとより一層青く感じるのもわかります。

私もよく奏ちゃんと同じ年の子の成長を見ては、やっぱり全然違うな……と思ってしまうこともあります。

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ですがここで言いたいのは、SNSで見えているモノが全てではないということです。

以前、奏ちゃんが離乳食が終わって普通のご飯が手べられるようになってきた頃、新幹線の形のお子さまランチのプレートみたいなお皿を買いました。そのお皿の一区切りずつにお豆腐をのせて、それを食べている奏ちゃんの映像をInstagramに載せました。

私が伝えたかったことは、そのお皿を300円ショップで見つけたということ。子どもができる前はあまり活用していなかった300円ショップが使えると知ったということ。ですが、その投稿を見た方から

「子どもに豆腐しか食べさせないなんて、かわいそう! 信じられない! もっと栄養を考えて、カロリーの高いものを食べさせてあげてください」

というような内容のメッセージが届きました。確かに、Instagram上ではお豆腐しか食べていませんし、何をその日食べたかなんてわざわざ書いていませんでした。

でも真実は、ハンバーグやブロッコリー、ご飯、しらす、お豆腐、あとは何だったか忘れましたが、完食した上で、その時奏ちゃんはお豆腐にハマっていたので、おかわりをしたのです。そしてお豆腐は他のお皿ではなくて、新しい新幹線のプレートで食べたいと訴えるので、わざわざプレートを洗って、そこにお豆腐を並べてあげたのでした。

写真からはそれは見えません。

もしかしたら、写真に写っていない場所に他のお皿が並んでいた可能性もあります。

もしかしたら、アレルギーがあったりとか、病気でカロリーを制限しているとか、その人の事情があるかもしれません。

当たり前ですが、その日の写真かどうかもわかりません。

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奏ちゃんが食事を散らかしている映像を載せた時は

「無言で映像を撮っている母親なんておかしい。どうかしてる」

という内容のメッセージが届きました。

でも、実際は普段から私はかなり声かけをしている方だと思います。ただ、自分の声が好きではないので、映像を撮っている1分だけ声が入らないようにわざと黙って見ていたのです。

それがそんなにおかしなことでしょうか。

写真は嘘をつけます。いくらでも良く見せれるし、見る視点によっては良くも悪くも見える。

ここだけの話、仕事でモデルのオーディションの審査をすると、Instagramから拾ってきたプロフィール写真の画像と、本人が違いすぎて、審査員全員でコソコソと、「え、どの子?」と書類を探すこともあります。

何回も言いますが、写真はそれくらい嘘をつけます。映像も、切り取り方によっては見え方も伝わり方も違います。

撮影スタジオに実際行ってみると、遠目には青々としていた庭の芝生が、近寄ってみると枯れて茶色になった芝生に緑のスプレーでペイントしているスタジオもありました。見上げると、その庭の椰子の木の葉も同じく緑のスプレーでペイントされていました。

もっと広い視野で一歩引いて見て考えて見たら、隣の芝生は案外、緑のスプレーで塗られたモノかもしれない。

この写真の反対側には山盛りの洗濯物があるかもしれない。

そんなものだと思って、自分の気持ちがよくなれる情報だけ得られたらいいのではないのかと思います。

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