J SONGBOOK 日本の音楽を学ぼう! 藤井隆が選ぶ!恋が学べるラブソング。『ストレートじゃないラブソングがいい。』
ラブソングはひとつの物語だ。歌うことでそのドラマの場面に入り、主人公になれる。シンガー、そして音楽プロデューサーとしての顔も持つ藤井隆さんに聞いた、ラブソングの楽しみ方とは?7月28日(木)発売Hanako1211号「J SONGBOOK 日本の音楽を学ぼう!」よりお届けします。
恋人たちの景色が動き出すと心も動く。
―まず率直にラブソングはお好きですか?
正直、このお話をいただくまでラブソングのことだけを特化して考えたことがありませんでした。音楽のひとつのカテゴリーとしては「好き」だと思います。でも、実体験でこのラブソングに励まされた、とか支えてもらった、とかは全然なくて……。
―そうなんですね。
はい。特集に寄り添えなくて本当に申し訳ないです。
―いえいえ(笑)。ではどういうところが「好き」なのでしょうか?
自分と重ねて聴くというよりは、子供の頃から自分の知らない気分や、わからない感情を歌で体験したり知った気になったりするのが楽しかったのかもしれません。ドラマや映画もそうで、わからないことを想像するのが好きだったので。ラブソングもそのひとつで、歌に出てくる「恋人」や「都会」はどんなものなんだろう?とイメージして遊んでいました。
―具体的に、どんな空想をされていたのでしょうか?
いちばん最初に自主的に聴いたラブソングは伊藤きよ子さんの「花と小父さん」だったと記憶しています。小学校の低学年でしたが父がレコードプレイヤーの使い方を教えてくれて、大切に扱うのを条件に、自分でレコードを選んで好きな時に聴くことを許してくれました。この歌は小さな花が「私」と言い出したり、「僕」が花を見つめていたり、目線がコロコロと変わるのが聴きながら楽しかったのだと思います。花自身に「摘んで」と言われ、そして摘んだ花を枯れる最後まで見つめつづける小父さんの愛情表現は独特ですが、なぜか気に入ってました。
“ストレートじゃないラブソングがいい。”
―低学年の頃にこの歌の内容を想像し、愛聴するなんてとても想像力があって、大人びているように感じます。直接的な恋人同士の歌ではないですよね。
どうしてか「好き」や「愛してる」というストレートな言葉が歌詞に出てこないラブソングの方がグッと胸にきます。それらの言葉を使ってないのに、恋人たちが離れたり繋がったりする景色が聴いていて目の前に浮かぶと心が動きます。
―情景や人間模様が浮かぶようなラブソングがお好きなんですね。
そうですね。だから子供の頃から大人の世界の関係や恋愛の機微を教えてくれるEPOさんや大貫妙子さん、ユーミンのラブソングが大好きでした。これも、まず3名どの方も「ラブソングだけじゃない」という思いが大きくありますが、その上で「好きなラブソング」を考えた時、頭の中でお三方の曲が流れてきたので「あ!ラブソング部門でも上位なんだ!」と気づきました。
―女優が歌うラブソングというのも、藤井さんらしい着眼点です。
はい。これも表現力のある役者の方による歌のドラマティックな見せ方、存在感がどれもすばらしいです。
―歌い手として、同じようにご自身が歌う場合はどうでしょうか。
仕事も含めて自分自身の恋愛観を語るような場面が少ないので、自分が歌うラブソングを自ら考えることは少ないと思います。
―藤井さんが作詞を一部手がけられた「1/2の孤独」は、奥様でいらっしゃる乙葉さんとのエピソードなのだと聞きましたが。
ディレクションしてくださった島武実さんが1番の歌詞を書いてくれて続きを書きました。妻とのエピソードの歌詞というわけではなく彼女の星座の「水瓶座」を借りたのと、彼女を「テンポ」、自分を「リズム」だと例えたくらいで。うふふふ。僕のラブソングの主人公は、恥ずかしがり屋だったり、奥手だったりする「ボク」が多いかもしれませんね。
藤井隆が歌うラブソング3選。
1.「1/2の孤独」
2004年リリースのアルバム『オール バイ マイセルフ』収録。作詞は「四方海」のペンネームで藤井自身による。曲は現在も藤井作品を多く手がけるキリンジの堀込高樹。爽やかな疾走感あるラブソング。
2.「絶望グッドバイ」
藤井隆作品の中でも評価が高い歌謡曲香るメローチューン。2002年リリースのファーストアルバム『ロミオ道行』収録。松本隆プロデュースによる贅沢なアルバムで、本曲は作詞・松本隆、作曲・筒美京平。
3.「OH MY JULIET!」
Tommy february6がビジュアルプロデュースと作詞を手がけたアイドル的なキュートな魅力が詰まったダンスチューン。「その瞳に僕だけを映して…目覚めるように口づけて」と歌う“タカシ”は最高。
Profile…藤井隆(ふじい・たかし)
1992年吉本新喜劇入団。2000年、「ナンダカンダ」で歌手デビュー。自身が主宰するレーベル「SLENDERIE RECORD」を立ち上げ、様々なアーティストのプロデュースやイベントも手がける。今秋発売予定のアルバムから先行配信第2弾となるKAKKO(Anju Suzuki) and TAKASHI(Takashi Fujii)「We Should be Dancing」をリリース配信中。