私たちが宇宙に行ける日が来たら…。 宇宙飛行士への道が拓かれた!?宇宙飛行士・山崎直子×アーティスト・スプツニ子!×ハナコラボ・花井悠希が宇宙について鼎談。
13年ぶりの宇宙飛行士候補者募集では、より多様な人にチャンスが巡ってきた。Hanako.tokyoでハナコラボ宇宙部として活動してきた花井悠希さんが宇宙飛行士の山崎直子さん、アーティストのスプツニ子!さんと鼎談を行った。
多様な人が宇宙飛行を目指せる世界に。
宇宙航空研究開発機構(JAXA(ジャクサ))では、12月20日から13年ぶりとなる宇宙飛行士の募集を開始し、募集の条件が前回とは大幅に変わった。このニュースは宇宙飛行士の山崎直子さん、宇宙を扱った作品制作も行うアーティストのスプツニ子!さん、ハナコラボ パートナーでバイオリニストの花井悠希さんにもそれぞれ衝撃を与えたよう。宇宙飛行士を目指すことや、宇宙旅行への夢について、3人に語ってもらった。
花井悠希(以下、花):私は2020年からJAXAの取り組みについて取材するようになり、宇宙って案外遠い世界じゃないことに驚いていたのですが、今回の募集要項を見て、さらに近づいた感じがしています。
スプツニ子!(以下、ス):2013年に『ムーンウォーク☆マシン、セレナの一歩』という映像作品を作ったのですが、これは「月面に憧れのスーパーヒロインの足跡をつけたい!」と願う女の子が、ハイヒール付き月面ローバーを発明するというストーリー。「“人類にとっての偉大な一歩”の次はあなたかもしれない」というメッセージも込めましたが、それが現実味を帯びてきました。
山崎直子(以下、山):動画に出てきたハイヒールの足跡は、本当に衝撃でした。実際に月面にハイヒールの足跡がついたら面白いでしょうね。
ス:母が数学の研究者だったので、私にとって女性が理系職についていることはとても自然でした。でも日本社会ではそれが不自然だった。そのジェンダーバイアスを壊したいと思いながら、この作品を作ったんです。今回の募集要項を主人公セレナちゃんが見たら、絶対応募したと思います。私も挑戦してみたい!
花:要項を見ると、女性にも門戸が開かれたような気がします。
山:身長などの制限が緩くなったからですね。NASAでは随分前から多様性に取り組んできた印象です。
ス:人類の半分は女性ですから、多くの女性に挑戦してほしいですね。スキルがあるのに応募しない、する自信がない人が多いのかも。それに宇宙ではいろいろな実験をするので、女性の身体のサンプル数が少ないと、それだけ女性にとってプラスになる研究が進まないということに。
山:おっしゃる通り。私たちの身体が宇宙空間でどう変化するかを観察することは、実はミッションの中でも大きなテーマの一つなんです。今はいろんな知見をためているのですが、特にアジア人女性のデータが少ないですね。
ス:そうすると、いずれ宇宙に住んだときに病気にかかりやすくなったり、治療したりするときにリスクがありますよね。地上での治験でも、これまで女性のデータがあまり取られず、副作用が女性の方が大きいなど、問題になりました。
山:今までは宇宙船に合わせて宇宙飛行士を探していました。が、ヨーロッパでは“パラアストロノート”も採用すると発表しています。身体に障がいがある人も宇宙に行けるように、多様性を考える世界の流れになってきました。
ミュージシャンやアーティストも活躍 !?
花:文系の私でも応募ができるようになったわけですが、ミュージシャンとして、どのような未来が待っているのか気になります。
ス:宇宙飛行士になってもアーティスト活動は可能なんでしょうか?
山:最初の2〜3年は地上での基礎訓練。その間は100%コミットしなくてはなりません。その後は業務の3〜4割が訓練に充てられ、そのほかは地上業務に。その中にはアートの活動も含まれていくかもしれません。というのも、今回の募集で重視されているのが発信していく力。いろんな分野をつなぐ力が見られるので、アートは歓迎されそうですね。
花:スプツニ子!さんは宇宙でどんな作品を作りたいですか?スまずは動画のために作ったムーンウォークマシンを月面に連れて行きたいですね。そこで初めて作品が完成するような気がします。宇宙での3Dプリントについても興味がありますね。建築に使ったり、家具やインスタレーションを作ったり。
花:コンサートホールも造れたら素敵ですね。演奏してみたい!
山:無重力空間ではバイオリンの音色も変わりそうですね。スプツニ子!さん、月面と地上では作るものが変わってきそうですか?
ス:宇宙から地球を見ると感動するかもしれないし、孤独になるかもしれない。行ってみないとわからない感覚が、制作にはすごく大事だと思うんですよね。
花:「もし宇宙に行けたら?」という妄想が、少しリアルになってきました。宇宙飛行士って雲の上の人がなるのではと思っていましたが、訓練で補える部分も多いと聞いて希望を持ちました。
山:宇宙飛行士は、好奇心がある人に向いています。失敗を恐れず、自分の可能性を狭めずにチャレンジしてほしいです。
山崎直子(やまざき・なおこ)
宇宙飛行士。2010年4月にスペースシャトルディスカバリーに搭乗し、ISSでの短期ミッションを遂行。訓練中とミッション後には出産をしたことでも注目された。
◆スプツニ子!(すぷつにこ)/アーティスト、東京藝術大学美術学部デザイン科准教授。名前は人工衛星「スプートニク」から。『ムーンウォーク☆マシン、セレナの一歩』はYouTubeで視聴可能。
◆花井悠希(はない・ゆき)/バイオリニスト、クラシカル・ユニット「1966カルテット」のメンバー。アパレルブランド「PANORMO」デザイナー。Hanako.tokyoでは「朝パン日誌」を連載。