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娘から父へ…おいしい日本酒おしえます! 『伊藤家の晩酌』~第九夜1本目/誰もがおいしいと思える万能酒「若波 純米酒」~
弱冠22歳で唎酒師の資格を持つ、日本酒大好き娘・伊藤ひいなと、酒を愛する呑んべえにして数多くの雑誌、広告で活躍するカメラマンの父・伊藤徹也による、“伊藤家の晩酌”に潜入!酒好きながら日本酒経験はゼロに等しいというお父さんへ、日本酒愛にあふれる娘が選ぶおすすめ日本酒とは?第八夜と第九夜の2回にわたって、娘と父が二人っきりの九州旅で実際に酒蔵を巡って選んだ6本をご紹介。旅の思い出の聞き手として母・ミキも加わって、第九夜1本目は旨味と酸味がベストバランスな、これぞ日本酒な1本。
(photo:Tetsuya Ito illustration:Miki Ito edit&text:Kayo Yabushita)
第九夜1本目は、押しては引く波のように、米のふくよかさとキレを感じる「若波 純米酒」」から。
娘・ひいな(以下、ひいな)「ジャジャーン!今回は福岡県の『若波』です!」
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父・徹也(以下、テツヤ)「おぉ! 蔵で買った前掛け!」
母・美樹(以下、ミキ)「似合ってる!」
ひいな「いいでしょ〜」
テツヤ「かっこいいね!」
ひいな「このお酒はね、いろいろ語りたいことがあるから、まずは飲んでみて!」
テツヤ「いいね、いいね!」
ひいな「ぽってりした口のおちょこよりも、口が薄くて平たい酒器をあえて選んでみたよ。じゃ、乾杯!」
テツヤ「あ! なんか違う!」
ミキ「うん、今までのお酒と違うね」
ひいな「さっきまでのお酒は、大吟醸とか純米大吟醸とかだったんだけど、今回はじめての純米酒」
テツヤ「硬派っぽいな」
ミキ「お米の甘みあって…純米酒って感じだね」
テツヤ「うん、酒好きな人はこれだね!」
ひいな「ずっと飲めちゃう!」
ミキ「なんかホッとするね。私、好きな味だな」
テツヤ「香りも強くなくて。これさ、燗でもいいんじゃないのの?」
ひいな「うん、ぬる燗ぐらいにしてもきっとおいしいよね」
テツヤ「あぁ、うまいなぁ〜」
ひいな「きっとね、みんながこれを飲んだら、日本酒っておいしいなって思うだろうなと思わない?」
テツヤ「うん、みんなきっと好きだよね」
ミキ「うん、上品だし、飲みやすい」
ひいな「それが『若波』のいいところだなと思って」
テツヤ「このお酒は、女性杜氏の方が作ってるんだよね? どうやって味を設計してるんだろう? たとえば、うちの蔵は華やかな味を目指してます、とか、それぞれの蔵の方針があるわけじゃない?」
ひいな「ね。米の甘みと酸もこれくらいにして〜とか、理想に近づけられる技術があるわけでしょ? それがすごいよね」
テツヤ「きっと完璧にはいかないだろうから、毎年酒造りするんだと思うんだけどさ」
ひいな「うんうん。逆に、これが造りたいと思っても造れなかったりとかいろいろあるんだと思うな」
「若波 純米酒」に合わせるおつまみは「らっきょときゅうりの冷奴」
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ミキ「このキレがいい感じは酸なのかな?」
ひいな「そうそう。酸がキレかかってる感じ」
テツヤ「キレかかってるってどういう意味?」
ひいな「う〜ん、酸で終わるけど、酸だけじゃないみたいな感じ? 複雑さもありつつ、昔ながらのベーシックなお酒の感じもあって」
ミキ「これに合わせるおつまみは何になるの?」
ひいな「蔵としてのオススメは、福岡では“くつぞこ”って呼ばれてるヒラメの煮付けって言われたの。でも、ちょっと変化球を狙いたくて。お酒の酸に合わせて、おばあちゃんが漬けたらっきょうを使った、らっきょときゅうりの冷奴っていうのを提案してみます!」
テツヤ「ぜんぜん違うじゃん!」
ミキ「真逆?」
ひいな「濃いものが合うって言われてたところに、あっさりしたものを合わせてみました!」
テツヤ「どんなマリアージュなんだろう?」
ミキ「食べよう!」
一同「いただきます!」
ひいな「ふつうの冷奴に、かつおぶしの代わりにきゅうりとらっきょうを刻んでかけただけだから、誰でも簡単に作れるおつまみだよ」
ミキ「おばあちゃんのらっきょうっていうのがポイントだね」
ひいな「そう、おばあちゃんのらっきょうは酸味が効いてるの」
テツヤ「酸味が効いてるっていうより、効いちゃった系だよね(笑)」
ミキ「甘みが抑えめなのかな?」
ひいな「だからこそ、つまみに合うんじゃないかなって思って」
ミキ「伊藤家は酸が好きなんだよね」
テツヤ「そうかもね。ひいなも酸好きだしな。それにしても、この『若波』うまいね。相当いい酒! おかわり!」
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ミキ「これが、純米酒って感じなんだね。おいしい〜」
テツヤ「ちょっと派手さがないから一瞬どうだろう?って思ったんだけど、じわじわといい感じがするな」
ミキ「うん、ずっと飲み続けられるやつ」
テツヤ「何回飲んでもおいしいって思える」
ひいな「おばあちゃんのらっきょうと合わせてみてよ。本当においしいから」
テツヤ「俺、らっきょうばっかり食べてたから背が伸びなかったんだよな」
ミキ&ひいな「初めて聞いたよ(笑)」
ひいな「毎年漬けてくれてて、こないだもらいに行ってきて。ここにセロリとかも加えたら、もっと食感とか風味とか味わいが深まると思う」
テツヤ「ついさっき、北海道のウルリー牧場の北斗くんとあき穂さんから届いた赤エビも合わせてみない?」
ミキ&ひいな「わ~い、赤エビ!」
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テツヤ「5年前の『BRUTUS』の取材で会って仲良くなってさ」
ミキ「去年はホタテを送ってくれたね」
テツヤ「一昨年はサンマだったね」
ひいな「北海道の幸だね」
テツヤ「赤エビ、うんま!」
ミキ「おいしいねぇ」
ひいな「赤エビ、最高なんですけど…」
テツヤ「(笑)。自分のおつまみよりも合ってる?」
ひいな「これはね、私の研究不足っていうよりも、赤エビのおいしさが勝ったね」
テツヤ「素直に負けを認めちゃったか」
ひいな「だって、これはおいしすぎるでしょう! 赤エビと日本酒の旨味の調和がヤバすぎる!」
テツヤ「グッタイミングだったね! ウルリー、本当にありがとう!」
ミキ&ひいな「ごちそうさまでしたー!」
テツヤ「“ニッポンおいしいもの&日本酒紀行”みたいな企画になってきたな(笑)」
ひいな「いいね、全国からおいしいものがたくさん届くの。ピンポーンって」
テツヤ「伊藤家らしい企画になるかな?」
ミキ「日本酒って、やっぱりおいしいもの合わせたいし、日本のものならなおいいよね!」
福岡県大川市にある「若波酒造」へ酒蔵訪問!
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ひいな「四代目当主の今村嘉一郎さんが弟さんで、お姉さんの友香さんが杜氏なんだって。この蔵のポイントはね、“チーム若波”として意識して造ってることなの。いま7名が製造に携わってて、ラベリングの方たちも含めると15名で造ってるんだって。それと、販売店を限定して、目の届く管理を徹底してるそうで、東京でも買えるところは増えてきてはいるんだけど、ここまでおいしいお酒なのに爆発的に出回らないのはそういうことみたい」
ミキ「販路を広げすぎない?ってことなのかな?」
ひいな「福岡県の大川市っていうところにある酒蔵なんだけど、大川市に根づいたお酒っていうのを大切にしたいと。その中で、海外とか東京に出ておいしいって思ってもらえたら、お酒から大川市を知ってもらうきっかけになりたいっていう蔵の思いがあるんだって」
ミキ「なるほど、このおいしさを知ってしまったら、どういう蔵なんだろう?って気になるもんね」
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ひいな「伊藤家はさ、父も母も妹のひびきも私以外みんなが写真に携わってるから、同じ職業を家族でやっていくということについてどう思いますか?って嘉一郎さんに聞いてみたんだよね。そしたら、両親や姉と仕事することについて特に気にしてませんって言われたの。みんなで造るっていう意識があるからって」
テツヤ「なるほど。そこはフリーのカメラマンと違うところではあるよな」
ひいな「嘉一郎さんの父親、つまり三代目の方が、やりたいことを受け入れてくれたから自分たちでやりたい流通や酒造りができたともおっしゃってて。それでまた家族の絆が深まっていくのかなって、取材を通じて感じたな」
ミキ「きっといい関係が築けているんだね。お会いしてお話を聞かないとわからないことだね」
テツヤ「俺たちはこの『伊藤家の晩酌』で家族の結束が高まった!よな?」
ひいな「日本酒が確かにつないでくれてるよね(笑)」
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ひいな「蔵のコンセプトにね、“味の押し波と余韻の引き波”って表現があって」
テツヤ「おぉ〜、いいね」
ひいな「具体的にどういう意味なんですか?って聞いてみたの。そしたら、“味の押し波”っていうのは、米の旨味とふくよかさをしっかり伝えるっことで、“余韻の引き波”っていうのは、きれいな酸味と透明感を引き立てることだと聞いて、飲んでみると確かにそうだなって思って」
テツヤ「すばらしいね。ぴったりだな」
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ひいな「エビみたいな旨味にも合うけど、お酒と合わせると余韻はさわやかに終わる感じでしょ? まさにコンセプト通り!」
ミキ「なるほど。ということは、食べたり飲んだりする順番関係あるかな?」
ひいな「そうだよね。エビの場合は、エビが強いから先に食べて、豆腐なら先にお酒を口に含んでからがいいかも」
ミキ「引き波に合わせるっていうことかな」
ひいな「そう。上級テクだね」
ミキ「波乗りだね」
テツヤ「俺たち、波を乗りこなすサーファーだね(笑)」
ひいな「東京で『若波』を飲むと、あんまり流通してなこともあって高価なイメージがあって」
ミキ「そうなんだ!」
ひいな「ちょっと、飲むのに緊張する感じがあるの。なかなか飲めないし、いいお店で出てくるイメージがあって」
テツヤ「へぇ、これからお店に行ったらチェックしてみよう」
ひいな「だからね、取材させていただいてもっと深く知ったうえで『若波』を飲んでもらえたら、確かにこのお酒は飲む価値があるよねって思ってくれる人がたくさんいるんじゃないかなって思って」
テツヤ「なるほど、このおいしさの価値っていうのを値段で評価してほしくないってことだな」
ミキ「おいしいから飲んでほしいってことだね」
ひいな「そう。高いから飲んでるわけじゃないんだってことが言いたかった!」
テツヤ「ちなみに、これはいくらなの?」
ひいな「1375円」
ミキ&テツヤ「安いじゃん!」
テツヤ「その値段でさ、おいしいワインって買えないよね。それを考えると日本酒の安さ、コスパはもっと評価されていいよな」
ひいな「ワインみたいにぐびぐび飲まないいし。そういう意味でも、日本酒って全体的にコスパがいいね」
テツヤ「でもさ、1本で長く楽しめちゃうと、それだと蔵としてはコスパが悪いってことになるよね(笑)」
ひいな「食中酒としてもっと定着してほしいな」
テツヤ「うん、特別な日のお酒じゃないもんね」
ミキ「日常のお酒としてね」
テツヤ「晩酌にね」
ひいな「日本酒とかがもっと普段の食事に定着したらいいのになと思って紹介してるからね」
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テツヤ「ゆえの、今日は冷奴だったんだね」
ひいな「私の紹介する日本酒ってね、派手さはないかもしれないなとは思うんだよね」
テツヤ「でも、それはそれで特徴だよね、日常酒としての。繰り返し飲めるお酒ってことでもあるから」
ミキ「伊藤家みたいに、毎日飲む日常酒として、もっと広まったらいいね」
ひいな「冷蔵庫にいつも日本酒が1本入ってたら、生活がきっともっと華やかになりますよ!」
→次回:2月23日(日)更新
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【ひいなのつぶやき】
詳しく味のコンセプトや造りについてお聞きしたうえで、若波さんのお酒は全種類飲んでみようと心に誓いました!
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