思わず旅行がしたくなる。 文筆家のおすすめエッセイ3冊!憧れの作家が訪れた観光地や、グルメをたどる旅へ。
憧れの作家が歩いた場所や食べた味を、本を片手にたどる旅。新たな趣味を見つけるきっかけになるかも。
1.『日本奥地紀行』女性探検家が感嘆した〈日光金谷ホテル〉
探検家が「本当の日本」を求めて旅をした記録。アイヌの人々の暮らしぶりなどがストレートな筆致で描写されている。
「クラシックホテルに目覚めるきっかけを与えてくれたのは、池波正太郎のエッセイ『よい匂いのする一夜』と、女性探検家が明治初期の日本を旅したこの本。〈日光金谷ホテル〉について、正直な筆致で知られる彼女が『こんなに美しい部屋でなければよいのにと思うことしきりである』と感想をもらしているのを読み、自分の目で見てみたいと足を運びました。当時の日光の様子を知るのにも最適です」
2.『散歩のとき何か食べたくなって』京都の〈イノダコーヒ〉や〈村上開新堂〉を散策
グルメであった小説家・池波正太郎が日々の暮らしで見つけた店の味を書き留めたエッセイ。銀座の〈資生堂パーラー〉など、今でも足を運べる店も多い。
「前から憧れの街であった京都を『さらに知りたい、そして暮らしたい』と思わせてくれた一冊。時代小説家である池波正太郎が取材のために訪れた、京都の雰囲気や息遣いが文章から伝わってきます。池波正太郎のエッセイを読んでいると『旅をして、おいしいものが食べたい』という気持ちがむくむく湧き上がってくるはず。この本を片手に〈イノダコーヒ〉や、老舗菓子店〈村上開新堂〉を巡りました」
3.『富士日記』見慣れた風景も新しい富士五湖の旅
小説家である夫の武田泰淳氏と過ごした、富士山麓での暮らしを描いた日記文学。その日の行動や食べたものが詳細に記されている。
「今日何をしたか、何を食べたか、どんな本を読んだかなどその日の記録が富士山麓の美しい自然とともに丹念に記されています。静岡で生まれ育った私にも気づけなかった富士山の魅力を改めて教えてくれた一冊。彼女の見たものを実際に見てみたくなって私も富士五湖を巡り、富士山についての本も執筆しました(『電車でめぐる富士山の旅』)。彼女の文章があったからこそ、見慣れた風景も新鮮に感じました」
文豪らが愛した場所を時代を超えて旅する喜び。
女性が憧れるものやことを題材に、執筆活動を行う甲斐みのりさん。甲斐さんは喫茶店やレトロホテル、地元パンに地元アイスなど、テーマを決めて旅することが多いのだという。
「特定の視点を持って旅をすると、ただ観光するだけでは見えてこないものが浮かび上がってきて、とたんに充実したものになります。旅に視点を持つきっかけを与えてくれたのは、池波正太郎や武田百合子ら、昭和の作家たち。彼らのエッセイを読んでから旅をすると、自分だけでは気づけなかった街の魅力に気づけるはずです。同じホテルに泊まったり、同じ場所でコーヒーを飲んだり、ミーハー的に旅するのも楽しい」
文筆家・甲斐みのりさん
旅、散歩、手土産など雑貨や暮らしを題材に執筆。近鉄百貨店奈良店のEC サイト「奈良のおみやげ」の監修を務める。
(Hanako1178号掲載/photo : Aya Sunahara, Megumi Uchiyama (still) text : Marie Takada)