今のあなたにピッタリの一冊は…? 北澤宏美さんのために選んだ一冊とは?/木村綾子の『あなたに効く本、処方します。』 LEARN 2019.10.20

〈本屋B&B〉のスタッフ、木村綾子さんがさまざまな業界で活躍する「働く女性」に、今のその人に寄り添う本を処方していくこちらの連載。第6回目のゲストは、ハナコでもお馴染み、北澤宏美さん。ご自身の持つ結婚観や、旦那さまとの出会いにいたるまで。木村さんとのガールズトークに花が咲いた会となりました。

今回のゲストは、ハナコラボメンバーの北澤宏美さん。

本屋B&B

居酒屋とおしゃれが大好きな元OL。雑誌『Hanako』では、連載「♯ひろみやれの、今夜も居酒屋おやじ呑み!」に出演。モデルの高山都さんと渋い居酒屋さんを巡って、話題を集めました(1097号〜1119号)。

3年ぶりに再会したおふたり。北澤さんの私生活に大きな変化が!

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木村綾子さん(以下、木村)「久しぶりに会って早々なんだけど、宏美ちゃん、結婚したよね?!」
北澤宏美さん(以下、北澤)「いきなり!(笑)でも、そうなのよ。私たち、最後に会ったのって3年くらい前じゃない?あのあと半年後くらいに出会って、そのまた半年後くらいに結婚したの」
木村「あのときは、「私もう恋愛はいいんだ!」とか言ってたのに(笑)」
北澤「最後に会ったとき、私結構やさぐれてなかった?(笑)」
木村「あー…、うん(笑)」
北澤「実はね当時、めちゃくちゃ不安だったの。気付けば30代も後半で、なのに自分の人生を自分で引き受け切れてない心もとなさみたいなものがあって。この先どう生きていけばいいの!って」
木村「気持ちはずっと子どものままなのに、容れ物だけがどんどん一人前になっちゃって追いつかない!みたいな?」
北澤「そう!あとは、自分の性格と、これから先の人生への不安と向き合った時に、パートナーがいたほうが安定するだろうなって。誰かに必要とされてる暮らしがあって、そこから考えていける自分らしい生き方もあるんじゃないかって思ったの」

本屋B&B

木村「定番の質問いい?旦那さまとの馴れ初めは?」
北澤「私、少しだけアパレルで働いていた時期があるんだけど、その時に知り合ったスタイリストさん」
木村「出会った瞬間、「これは結婚だ!」って感じたの?」
北澤「まさか!けど、「結婚を考えていないのであれば、お付き合いできません!」って伝えた(笑)」
木村「それはなかなかのストロングスタイルだ。今までいろんな結婚の馴れ初めを聞いてきたけど、初めてのパターン(笑)」

エピソードその1「人の顔色ばかりを気にしてしまう」

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木村「結婚のエピソード然り、人生や仕事に対する考え方然り。意外なことばっかりで、実は密かに動揺してるの気づいてる?(笑)」
北澤「嘘、なんでー!」
木村「私にとっての宏美ちゃんって、すごい気遣いの人っていうイメージが昔からあったのね。同じ雑誌に出てたり撮影現場で一緒になった時はいつも、場や人の雰囲気を見て、自分がどう振る舞うのが最善かを考える子だって印象があったから」
北澤「綾子ちゃん、ほんと人のことよく見てるよね(笑)実は私、昔から必要以上に人の目ばかりを気にしちゃうところがあるんだよね」
木村「そうなるきっかけとかって何かあったの?」
北澤「子どもの頃からずっとバレーボールをやってたんだ。しかもそれがプロ志向の強いチームだったから、監督がかなりのスパルタで。機嫌や顔色ばかりをついつい伺ってしまう癖が自然と身に付いてしまったのかも」
木村「身につけざるを得なかった「処世術」だったんだね」
北澤「大人になってからもその癖が抜けなくて、誰かと話していても「ひょっとしたら今、機嫌を悪くさせちゃったかな」とか、つい余計なことまで考えちゃうんだ」

木村さんが処方した本は…『みんなの「わがまま」入門(富永京子)』

みんなの「わがまま」入門 富永京子

木村「きっと宏美ちゃんは、「わがまま」を「言う」ことにも「聞く」ことにも、恐怖心や抵抗感が染み付いちゃったんだろうなって思ったの。それでオススメしたいのが、『みんなの「わがまま」入門』。これは、自分の意見を言葉にすることや、行動としてそれを示すことに、どうして人は臆病になってしまうのかを社会学の観点から考えた入門書なんだ。「わがまま」っていう感情を掘り下げていくことで、自分の意見とは異なる他人や社会と共存する方法を、読者に問いかけながら一緒に探っていくの」
北澤「えー、ちょっと見せて!“過激な表現にひるまない”“うまく行かなくても気にしない”“人をカテゴライズしない”…。さっそく刺さるフレーズが!(笑)」
木村「私たちの生活に落とし込んでくれてて、分かりやすいでしょ!?「社会学」って難しそうに思われがちだけど、人間とか社会とかって曖昧な存在の意味を読み解いて、言葉で説明してくれるって考えたら、有り難い学問だよね」

エピソードその2「私は何でこんなことしているんだろう!」

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木村「東京に出てくるきっかけはなんだったの?」
北澤「高校がバレーボールの強豪校だったから、推薦を受けて卒業後は実業団に入ったの。それが東京の銀行で。銀行の仕事とバレーボールを掛け持ちすることから、東京生活が始まったんだよね」
木村「えー!じゃあもしかして出会った頃って、バレー選手だった?」
北澤「たぶんそうだよ。22歳くらいまで続けてたからね。バレー選手を引退してからも、しばらくは銀行で事務職してたし」
木村「私てっきり、宏美ちゃんはずっと美容とかアパレル系の華やかな世界にいた人と思ってた」
北澤「そんな風に見られてたの!?(笑)でもずっとOLしてたんだよ…。新人時代は、高速ブラインドタッチをマスターするために毎朝6時半に出勤して、猛特訓したりしてたんだから。銀行辞めた後も、損害保険の派遣社員とか居酒屋の店員とか、いろいろ経験したな」
木村「なにも知らなかったよ…。意外なことばっかりで想像が追いつかない」
北澤「バレー選手になるために上京してさ。でもそれもやめちゃって。30歳を目前に、「私なんのために東京に出てきたんだっけ?」って、いよいよ悩みはじめていくわけですよ」

木村さんが処方した本は…『しごととわたし(梶山ひろみ)』

しごととわたし 梶山ひろみ

木村「この本は、雑誌の編集長から気鋭のコピーライター、表参道の交差点にある本屋さんの店主まで、さまざまなお仕事をしている女性の生き様に迫ったインタビュー集なんだ。年齢も職業も異なる12人の女性たちの「しごと」や「人生」が語られているの」
北澤「日傘作家さんにバレリーナ。あ…。よしもとばななさんもいる!」
木村「バラエティーに富んだ頼もしい人選でしょ!性別を問わず、仕事をして生きることが「当たり前」になった現在だけど、やっぱりまだ、「女性」に対する固定概念ってあるじゃない? 仕事にも結婚にも子育てにも、それから美しさを保つことにも…。“女なのに”とか“女なんだから”とかって視点から、「たりない部分」を粗探しされてるような」
北澤「わかるー!結婚も出産も、適齢期とかって期間を勝手に与えられてさ。期間内にできたら「幸せ」、できなかったら「可哀想」ってジャッジされるし…。私が感じてた仕事への迷いや満たされなさも、そういう世間からの目が少なからず影響されているように思う」
木村「見ず知らず誰かが押し付けてくる架空の「幸せ」に振り回されて傷つくより、実際に、自分が描きたい「幸せ」のために選択を続けてきたこの本の中の女性たちから、パワーをもらおうよ!自分の経験をポジティブに捉え直すこともできると思うんだ」

エピソードその3「はじめは友達に発展する気配もなかった」

本屋B&B

木村「仕事に対する葛藤と、これからの人生に対する不安。その両方を抱えつつ、どう人生を切り開いていったの?」
北澤「それがまさに、綾子ちゃんと最後に会った3年前ね。当時36歳で、「あー、もうダメかも…」って途方に暮れてた頃、夫と出会ったの!」
木村「なるほどそこに繋がるわけね!」
北澤「うん、でもね。夫とも最初は、友達に発展する気配すらなかったんだ」
木村「どうやって距離を縮めていったの?」
北澤「一度ふたりで会った時に、「誠実な人だなー」と思って。で、この人になら自分のこと全部話してみたいって気持ちが、気づいたら大きくなってたんだよね」
木村「わー、素敵な話じゃない!」
北澤「人の顔色ばっかり伺う性格だった自分が、素を見せられる人と出会って、生涯のパートナーになれるなんて不思議だよね。自分の人生なんかパッとしないなーって思ってたけど、ほんと何が起こるか分からない!」

木村さんが処方した本は…『ワーカーズダイジェスト(津村記久子)』

ワーカーズダイジェスト 津村記久子

木村「宏美ちゃんの話を今日聞いていて、実はずっと頭に浮かんでた作家さんがいたの。津村記久子さんって言ってね。いまは専業作家だけど、長い間OLをしながら小説を書いてたんだ」
北澤「どんな小説を書く作家さんなの?」
木村「実体験を元に小説を書く方だから、一般企業に勤めるOLさんの生活、仕事や恋愛の話とかが多いよ。『ワーカーズ・ダイジェスト』は、異なる職場で働く同じ年齢、同じ誕生日、同じ名字の、男女二人の物語を交互に描くの。一人はデザイン事務所に勤めるOLで、もうひとりは建設会社の建築部員。会社や社会に対してそれなりの不条理を感じてはいるけど、生活は地味で単調。変える勇気もない。だから、物語の中で特別な事件が起きるわけでもないし、特徴的な人が出てくるわけでもなくて」
北澤「それで、小説として成り立つの!?」
木村「や、だからこそリアルなんだよ。例えば漫画のモブキャラなら、名前も与えられず表情も簡略されちゃうけど、その人に見えてる世界は確かに存在して、人生の主役を確かに生きてるじゃない?そこを書いてくれるんだよね」
北澤「やばい、なんか泣けてくる…」
木村「それから、この小説の最大のオススメポイントは、ふたりの絶妙な距離感! 物語の中で、ふたりが邂逅するのは最初と最後の二度きりなの。それも、本当にちょっと会話を交わすだけで、お互い特別意識し合う関係でもなくて。でも、ふとした瞬間に「あの人今日も頑張ってるかな〜」って思い合ってる時間もあってね。結局最後まで、友情や恋愛みたいな分かりやすい感情が芽生えるわけじゃないんだけど…。それがいっそう、物語が終わった後も続いてるであろう、ふたりの人生を想像させてくれるんだよね」
北澤「ちょっと図々しいかもしれないけど、なんだか私と彼との関係を思い返しちゃった」
木村「そうなの!宏美ちゃんなら、この物語の先を生きてる感覚で読めると思ったんだ」

今回、ご購入いただいたのは…

本屋B&B

対談後、『ワーカーズダイジェスト(津村記久子さん)』をご購入いただいた北澤さん。作中に登場する主人公の女性について、「紆余曲折、いろいろ悩みながら歩んできた私と、重なる部分がある気がします」とにこやかに話してくれました。北澤さんの今後のご活躍にも、乞うご期待!

☆前回の「女優・小松彩夏さんのために選んだ一冊とは?」はこちらから

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