花井悠希の朝パン日誌 vol.52 好きの引力!?…〈MONET〉と〈NiOR〉と〈ひらみぱん〉
ふいに決まった両親との金沢旅。金沢は行くと決まったその時から無条件にウキウキしてしまう街の1つ。そうやって心地よい思い出がスタンプラリーのように全国の街に増えていくことはとても幸せな事ですよね。無条件にとは言ったけれど、実は金沢には気になっているパン屋さんがあったのもウキウキの理由の1つ。正確には野々市市に。全国の美味しいものなら任せろな友人から勧められた、オープンしてまだ2週間のサンドイッチ屋さんから金沢旅はスタートしました。
いい朝あります…〈MONET〉
この7月にオープンしたばかりのサンドイッチ屋さんは金沢で人気のお店〈PLAT HOME〉の姉妹店。おひさまの光が柔和に包む店内は朝が煌めいていて、いい朝がもう約束されているよう。モーニングメニューの中からオーダーしたのは…
カリッすんほわっ!入刀した箇所にマイクを当てたらきっとこう音が拾えることでしょう(なんならLINEの通知音にしたい)。ナイフから伝わってくる感触だけでこの子只者じゃないわ感がビンビンで探究心を刺激されます。
生クリームを塗ってショートケーキにも抜擢したいほど(抜擢なの?)スポンジケーキみたいにふわふわなパン。だけど上から覆い被さるチーズからはみ出た部分はトーストの恩恵を受けてしっかりカリっ!(キリッ!)耳のカリカリ感が食欲をそそります。上にはとろんとホワイトソースとシャッキリしたハム、トップオブトップにはチーズがぷくぷくと膨らんで、これだけでもこちらを虜にするのは十分なはずなのに、まだまだー!と言わんばかりにパンとパンの間にゆるめの卵ディップとハムが現れました。
そしてそこからぽわーんと漂ってきたどこかで嗅いだことのある香り。ハッとしました。燻製です。燻製された卵で作られた卵ディップは1フックある味わいで、整った美味しさにそこはかとないミステリアスな奥行きをプラスしています。
そして食べ終わった頃、お店の方とお話していたら分かった事実。なんとこちらのパンは全て〈NiOR〉さんのものだそう。そう、今回行きたいと思っていた野々市市のパン屋さんこそがその〈NiOR〉さんだったのです。
さらりとした卵サラダじゃなく燻製の香りがあるおかげで、〈NiOR〉さんのフランス産小麦が香りたつパンにますます寄り添うのですね。パンへのリスペクトをとても感じました。お昼からはサンドイッチメニューが食べられるみたいなのでそれはまた別の機会のお楽しみに。
ここで会いましょう…〈NiOR〉
目的地に到着!すっきりした店構えがかっこいいです。
持ち上げたらずしっと重みがあるのを感じます。サクサク逃げタイプじゃなく(あるよね?)バターをしっかり味わうタイプ。内側はしっとりとした空気が閉じ込められ、その空気の粒全てにバターが染み染みしているよう。幾重にも重なるひだが1枚ずつ波打ちその全てが舌に優しく触れてきて、じゅわんとバターをおいていきます。この重量感だしバターがくどいくらいかなと思ったら大間違い!濃厚なバターで迎えてくれるのに、粘着質じゃないんです。気づけばひゅるりといなくなっていて、ぽつり私だけ残されていました。おぬし淡白よのう。そんなクロワッサン(←どんなクロワッサン)。
次の日の朝に食べたら土台のクロワッサンも上のキャラメルクリームも連日の暑さにちょっとくたびれ気味だったけど、一口がぶりといくとローズマリーが香り、清涼感を与えてくれます。
ふかふかな土台もキャラメルもしっかり主張があるのに、散らされた粗塩とローズマリーが弾けると甘さがスッと後ろに引っ込んで、一癖ある大人な味わいが広がります。ローズマリーが甘いキャラメルと絡むなんて、だれがあの日あの時想像出来たであろうか(それっていつ?)。
フランス産小麦100%のバゲット。しっかりキャラクターのある小麦なのに、その表情はいたって穏やか。逞しさや男気で押し切るのではなくただそこにあるのが必然みたいに、温厚な瞳でこちらに手を振ってくれるような安心感と優しさがこの子の性格。そよそよと小麦の香りと味わいが届くのに、密着するんじゃなくあくまでも柔らかく寄り添うようにゆらゆらとたゆたいます。
極め付けは、その余韻。鼻と口に残るこの穏やかな温もりは何なんだ!?毛羽立った心を優しく梳かしてくれるような温かいタッチは、瞳を閉じて全身でその余韻を味わいたくなります。ガリッと皮が強いイメージのせいで朝からはなかなかバゲットに気持ちがいかない私ですが(朝の口内だと怪我しそうで←)、歯ざわりも感触もソフト(でも密度もある)なこの子は朝から食べたい!
「トラディション テ アールグレイ エ 3フリュイ」のベースは歯切れよくしっとりと口溶けの良い生地。そこに紅茶がクルミがイチジクがレモンピールがーー!!はぁ忙し忙し(大袈裟)。
イチジクは、ネットリと絡みつきこちらをその渦に泳がせるとプチプチとその種を忍ばせてきます。そこへ紅茶が頃合いを見てふわりとやってくるんですもの。なんでもこちらのツボはお見通しのようです。レモンピールがやって来たら一瞬にして夏の顔が露わになってそれまでの妖しさはしゅるんと引っ込みます。ワニワニパニックのように(例えが昭和)色んな味わいが出たり入ったりして楽しい!
栗粉入りのトラディション生地がベース。無数のカシス達が天真爛漫に語りかけてきます。大きいも小さいもその子たち1粒ずつに、甘酸っぱく強いカシスの果実味が詰まっていて、ニコニコととびっきりの笑顔をむけてくれるものだから、モテモテな感覚に調子のっちゃいそうです!そんな浮かれた私を見かねてか、ガツンと攻撃が仕掛けられました。
ラム酒漬けの栗です!その一撃に面食らって私はクラクラ(←弱)。栗に染み込んだアルコールが感じられるほどのラム酒の芳醇な香りに、栗の甘露煮のラム酒風味くらいかと予想していたこちらが恥ずかしくなってしまいます。栗のホコホコとした食感は活きていて、栗粉の芳しさと繋がれば一口にぎゅっと詰まったストーリーにワクワクすること間違いなし。
どのパンをとっても、お!?って気になっちゃう個性がキラリ。ここでしか食べられないパンに出会えます。その後行ったフレンチでもこちらのパンが使われていたりして、なんだか〈NiOR〉さんに始まり〈NiOR〉さんで終わる旅でした。
と、終わるかと見せかけてもう一つ、好きの引力が引き寄せたとしか思えない事が起こったのです。
実は第1回に登場しています…〈ひらみぱん〉
今回はお腹のキャパオーバーによって泣く泣く寄れなかった金沢のベーカリーカフェ〈ひらみぱん〉。実は朝パン日誌の第1回に載せている写真の一つは〈ひらみぱん〉で撮ったもの。大好きなパン屋さんの一つなのです。私が金沢から帰ってきた1週間後、別で金沢に行っていたらしい弟がなんと〈ひらみぱん〉でお土産を買ってきてくれました!そのナイスお土産を前にこれまでにないほど弟を褒めちぎったのは言うまでもありません(感謝)。
やわやわでふにゃんふにゃんと口内で甘えてくるカヌレたん(やめれ)。ふっくらとやわらかく、甘えっ子な顔をしていたかと思ったら、目を離した隙に風味が走り出しました。
バニラとラム酒、卵が混ざり合った豊かな味わいが口いっぱい甘やかに広がって酔いしれてしまいます。これはもうみんなメロメロになっちゃうこと間違いなし。
じんわり滲み出す甘さが親しみやすさを覚えるパン生地はふわっふわで弾むよう。そこへ全く異なる星からやってきたような肉肉しいソーセージがガオー!雄叫びをあげます。
その声をなだめるようにサンドされたパンの繊細な柔らかさ、そんな二つの仲を取り持つようなカリカリに焼け旨味が濃縮されたチーズ。たくましいルックスよりもずっと繊細でしなやかなホットドッグでした。
好きの引力が引き寄せたんじゃないかと思っちゃうほど、好きなパンに囲まれた金沢旅。それは改めて自分の好きなものってコレなんだ!と向き合うきっかけにもなったような!?旅という限られた時間の中で選ぶものこそそれぞれのカラーがより色濃く出るのかもしれませんね。これだから旅はやめられません!