娘から父へ…おいしい日本酒おしえます! 『伊藤家の晩酌』~第一夜3本目/レモンの風味香るフルーティな日本酒「Shell Lovers」~
弱冠22歳で唎酒師の資格を持つ、日本酒大好き娘・伊藤ひいなと、酒を愛する呑んべえにして数多くの雑誌、広告で活躍するカメラマンの父・伊藤徹也による、“伊藤家の晩酌”に潜入!酒好きながら日本酒経験はゼロに等しいというお父さんへ、日本酒愛にあふれる娘が選ぶおすすめ日本酒とは?第3本目は、牡蠣の産地・広島県で生まれた、柑橘系の香り漂うワインのような一本!
(photo:Tetsuya Ito Hibiki Ito illustration:Miki Ito edit&text:Kayo Yabushita)
今宵3本目は、女性杜氏が造った柑橘系の香りがさわやかな「Shell Lovers」
父・徹也(以下、テツヤ)「お!これはラベルがかわいいね」
娘・ひいな(以下、ひいな)「ジャケ買いしたくなるよね。女性杜氏の人が醸したお酒なの」
テツヤ「なるほど!」
ひいな「『Shell Lovers』を初めて飲んだのは、牡蠣を出すお店で、名前の通り、牡蠣と相性が良くて」
テツヤ「あぁ、だから二枚貝のイラストがラベルに描いてあるんだ!」
ひいな「日本酒って、普通は『黄麹』で造るんだけど、これは『白麹』なの」
テツヤ「それは、味にどう関係してくるの?」
ひいな「味というよりも『黄麹』のほうが糖化力があるの。『糖化』っていうのは、お米を糖分に変えることなんだけど、その工程で『黄麹』を使ったほうが米を糖化しやすいってこと。焼酎とかでは『白麹』を使ったりするみたい。『白麹』は酸度が高くて、クエン酸とかを多く出すらしいよ」
テツヤ「ということは、酸味が強いんだな?」
ひいな「そう。日本酒の酸度の平均は1.3くらいなんだけど、『Shell Lovers』は3.2で酸度が高い。でもその分、アルコール度は13度で抑えめ」
テツヤ「ほほう、それはワインみたいだね。魚介に合うというのも、白ワインみたいだな。早く飲もう!」
ひんやり冷たく飲んで欲しいから、酒器は「錫」の片口とおちょこで乾杯!
ひいな「この『Shell Lovers』は錫(すず)の片口とおちょこのセットでぜひ飲んでみて」
テツヤ「おぉ〜こんなに酸味があるんだ!う〜ん、ワインみたい!この味、女性は好きな気がする!ワイングラスで飲んでもいいね」
ひいな「ワイングラスで飲むのもいいけど、冷やした酒器で飲むのもいいかなと思って今回錫にしてみたの」
テツヤ「うん、キーンと冷えてていいね!」
ひいな「温度が冷たいと酸を感じやすいから、この酒器のほうが酸を立たせるかなと思って。ワインっぽい味わいだとしても、やっぱり日本酒だから日本の酒器が合うんじゃないかなって思ってる」
ひいな「なんかさ、この日本酒、レモンっぽさ感じない?」
テツヤ「うん、レモン感あるね。さっきまでの日本酒とは酸の種類が違う!これは、どこのお酒だっけ?」
ひいな「広島県安芸津町。安芸津町は『杜氏の町』って言われてて、日本酒で有名な町だよ」
テツヤ「なるほど、広島といえば柑橘も採れるし、牡蠣も捕れるし、こりゃ広島らしい日本酒だね」
ひいな「牡蠣は白ワインと合わせるイメージが強いかもしれないけど、日本酒も負けてないでしょ!だから、海鮮に合わせたくて。今回は『鮭のホイル焼き』をおつまみに」
「Shell Lovers」に合わせるおつまみは、熱々できたての「鮭のホイル焼き」!
テツヤ「いただきます〜!」
ひいな「あ! ホイル焼きにはレモンを絞ってね! ホイル焼きとレモンの味と『Shell Lovers』が補完的関係なの」
テツヤ「合うね~!うまいねぇ~!なんか、いろいろ日本酒がね、カバーしてくれてる感じ!」
ひいな「マリアージュってやつだね」
テツヤ「レモンともすっごく合うね。レモンと合うんだったらさ、から揚げじゃダメなの?」
ひいな「いいと思うよ」
テツヤ「なんか揚げ物食いたくなってきたな(笑)」
ひいな「そうやって、いろいろなおつまみと合わせたり、試してみるのも晩酌の楽しみだからね。レモンは皮を下にして絞ると風味がさらに良くなるよ」
テツヤ「おう!」
ひいな「おいしい?」
テツヤ「ホイル焼きともレモンとも合うね〜、この日本酒は」
ひいな「バターとも合うんだよね」
日本酒はもともと甘いもの。そこにプラスαどんな味を感じるか?が大事。
テツヤ「ひいなはさ。おもしろいお酒を紹介してくれるけど、メジャーな酒に対する考え方ってどうなの?」
ひいな「もちろん、おいしいと思うよ。けど、自分にはひねくれたところがあって、この連載では、自分で飲んでおいしいと思ったもので感動したものとか、おいしいだけじゃなく何か他のプラス要素がないと紹介しないって決めたの。まわりがみんなおいしいって言ってるお酒でも自分がそのお酒に対して特別な思いがないとダメだなって」
テツヤ「そりゃ、タイアップには向いてないな(笑)。ひいなの好みのお酒って何なの?」
ひいな「私はお米の甘さが引き立っているようなお酒が好き。お酒はお米からできているからすべて『甘い』と思ってる。だから私の基準として、一般的に辛口と言われるものも、わりと甘いと感じやすいかも。居酒屋さんでアルバイトしてると『甘口のお酒って何?』って聞かれることがあるんだけど、日本酒はすべて基本的には甘いんだよね。前に飲んでもらった『仙禽』は、酸味のなかに米の旨味とか甘みが詰まっていて、そういうお酒がやっぱり好きだな」
テツヤ「たしかに『仙禽』の『なかどり』は甘さのなかにキレもあったね。甘口なのか辛口なのかはわからないけど(笑)」
ひいな「やや甘口になるのかな」
テツヤ「辛口ってキレがあるとか、そういうイメージ。味が“辛い”ってわけじゃないんだよね」
ひいな「甘口か辛口かは答えづらくて。米はもともと甘さがあって、そのプラスαで何が感じられるか、っていう話だと思うから」
テツヤ「ひいなが日本酒選びで大事にしているのは、酸なの?」
ひいな「うん、酸があるお酒が好き」
テツヤ「酸ってさ、単に酸っぱいってことではないよね?」
ひいな「たとえば同じ酸があるお酒でも、白桃のようなほのかな酸味とか、柑橘系の酸味とかいろいろあるからね」
テツヤ「甘ったるくないってことかな?」
ひいな「発酵してる酸っぱさ、乳酸発酵ってことかな」
テツヤ「あぁ、だからお漬物とかとも合うんだね」
ひいな「実は、好みのお酒とおいしいお酒は違ってて」
テツヤ「え、違うんだ?」
ひいな「おいしいお酒はもっと広いジャンルで、その中に好みのお酒がある。だから、この連載ではおいしいお酒を広く紹介したいなって。好きなジャンルももちろん紹介するけどね!」
(次回は8月11日(日)更新予定です)