ふわっふわの名物オムライスなど。 グルメエッセイ多数!昭和の文豪、池波正太郎が愛した老舗の名店巡り。
昭和グルメのご意見番といえば、ご存じ池波先生。在りし日に通いつめ、著書に綴った東京の名店たちは、今、変わった?変わらない?写真投稿アプリ〈Instagram〉を通して考えます。
1.〈たいめいけん〉ふわっふわのオムライスと個性際立つシェフ。/日本橋
「〈たいめいけん〉の洋食には、よき時代の東京の、ゆたかな生活が温存されている。物質のゆたかさではない。そのころの東京に住んでいた人びとの、心のゆたかさのことである。」(十五頁)
昭和6年創業。1階では名物のたんぽぽオムライス1,950円(税込)など、2階では本格的な洋食がいただける。三代目の茂出木浩司シェフは褐色の肌で知られ、その色はデミグラスソースより濃いと評判。インスタではシェフの看板とオムライスの写真をレイアウトしてアップするのが定番。
〈たいめいけん〉
■東京都中央区日本橋1-12-10 1F
■03-3271-2463(1階)
■11:00~21:00(20:30LO)、日祝~20:30(20:00LO) 無休
■64席/禁煙
2.〈まつや〉あのセレブもご来店! 今や下町名物に。/神田
「うまいといえば、〈まつや〉で出すものは何でもうまい。それでいて、蕎麦屋の本道を踏み外していない。だから私は、子供のころに連れて行かれた諸々の蕎麦屋へ来ているようなおもいがする。そのころの蕎麦屋の店構えが〈まつや〉には残っている。」(三十一頁)
石臼で挽く「挽きぐるみ」の国産蕎麦粉と手打ちにこだわる蕎麦店。創業は明治17年、昔ながらの木造建築も見る価値あり。池波氏が好んだのは、どっしりとした太打ち蕎麦1,000円(税込、要予約)。トム・ハンクスがプライベートで訪れ、インスタにアップし話題に。
〈まつや〉
■東京都千代田区神田須田町1-13
■03-3251-1556
■11:00~20:00(19:45LO)、土祝~19:00(18:45LO) 日休
■66席/喫煙
3.〈竹むら〉文化財×素朴な味がインスタグラマーの心を掴む。/神田
「神田・須田町の〈竹むら〉へ入ると、まさに、むかしの東京の汁粉屋そのもので、汁粉の味も、店の人たちの対応も、しっとりと落ち着いている。(中略)香ばしい粟と、ほどよい小豆餡のコンビネーションは何ともいえぬ。もっとも、粟が出まわる季節にかぎられているのだが……。」(四十頁)
上記文章は池波氏のお気に入りであった粟ぜんざい800円について。テイクアウトもできる揚げまんじゅう2個470円や、あんずあんみつ(770円、各税込)も大人気。昭和5年建築で東京都の選定歴史的建造物に指定されているお店をバックに撮ったりと、キュートな写真が多数。
〈竹むら〉
店内での撮影はフードのみOKなので注意。
■千代田区神田須田町1-19
■03-3251-2328
■11:00~19:40LO 日月祝休
■38席/禁煙
4.〈前川〉日本らしい雰囲気もインバウンダーに大ウケ。/浅草
「〈前川〉の鰻は、申すまでもなく天然のもので、三代にわたるつきあいの、利根川の業者から仕入れ、冬になると、秋の下り鰻を水田に入れて半冬眠させ、必要に応じて割く。これほどに手間をかけているだけに、味は、まったく、むかしと変わらない。白焼の旨さは、いうまでもないが、ここの蒲焼は本当に旨いとおもう。」(九十五頁)
創業200年あまり、文化文政期(!)から変わらずおいしい鰻を提供し続けている。現在は天然ものに近い味わいの高級養殖鰻を使用。隅田川沿いで全室和室と、下町情緒たっぷりで、最近は海外からの旅行客の間でも大人気。インスタには中国や台湾の人たちの写真が目立つ。
〈前川〉
駒形の本店のほか、〈新丸ビル〉などにも支店を構える。
■台東区駒形2-1-29
■03-3841-6314
■11:30~21:00(20:30LO) 無休
■90席/禁煙
5.〈資生堂パーラー銀座本店〉上品でクラシックな、昔ながらの銀座を切り取って。/銀座
「銀座の〈資生堂パーラー〉で食事をするとき、いつも、かならず、二人の少年の顔が脳裡に浮かんでくる。一人は、幼少時代からの友だちの井上留吉である。一人は、ほかならぬ〈資生堂パーラー〉ではたらいていた山田君だ。二人とも、もし生きているなら、井上は私と同年、山田君は一つか二つの年下だろう。」(百十一頁)
日本初のソーダファウンテンとして創業し114年目。池波氏の定番はチキンライスだったが、上述の山田君に催され、初めてマカロニグラタンに挑み「こりゃ、西洋饂飩だな……」、ミートクロケットは「何ともいえぬおもいがした」と述べている。写真のパフェは季節限定メニュー。
〈資生堂パーラー銀座本店〉
パフェは食後にいただける。
■中央区銀座8-8-3 4・5F
■03-5537-6241
■レストラン11:30~21:30(20:30LO) 月休(祝の場合営業)
■65席/禁煙
池波正太郎
『鬼平犯科帳』『剣客商売』などで知られる、日本を代表する時代小説作家。浅草生まれでグルメエッセイも多数。今回文章を引用した『むかしの味』(新潮文庫)は昭和63年に発表された作品。氏が通った東京・大阪の店たちへの、愛あふれる記述が満載。
(Hanako1123号掲載/photo : Instagram users illustration : Yoshifumi Takeda edit & text : Hiroko Yabuki)