中村隆志シェフの次なるステップ パンマニアなら絶対知ってる〈しかたらむかな〉の高加水パン
おいしさの秘密は自家製酵母
鮮烈なピンク色のパン「いちご」で業界に衝撃を与えた〈中村食糧〉が移転&〈しかたらむかな〉に改名。中村シェフは、新天地・神楽坂で今まで以上にパン作りにのめり込んでいる。
酵母と“共生”し、二人三脚でパンを作る。
持ち上げるとずっしり重く、手でちぎればしっとりと柔らかい。そのまま口に放り込むと、瞬く間に溶けていってしまう。中村隆志シェフが作るパンには、何度驚かされたことだろう。加水率110%ともいう常識を超えた配合が注目されがちだが、「目指すもちもちとした食感に合わせて小麦が欲しがるだけ吸わせていたら、高加水になっただけのこと」と、ここに強いこだわりはない様子。紐解いてみると、〝発酵〞との向き合い方にこそ愛があふれていた。
生地を発酵させるのに使う自家製酵母は、主に、レーズン種、ヨーグルト種、麹で作る酒種、ルヴァン種の4つ。毎日20時間かけてゆっくりと育てるのだが、その中村式メソッドは放任型。でもそれは、酵母の力を信じているからだ。「人の手でコントロールしようという意識がないのです。もちろんそれでは発酵しすぎることもあるけど、『あぁ、ごめんね!』と放っておきすぎたことを謝りながら、生地の温度や捏ね方を調整します。酵母と一緒に暮らし、パン作りを作業分担しているというイメージですね」
スペシャリテ「みんなのパン」には、レーズン種、酒種、ルヴァン種を使用。酸味、甘み、塩味、苦み、うまみのバランスがよく、バターやジャムをつける気が起きないうちに食べ終わってしまう。「酵母は出したい食感や香りに合わせて組み合わせを変えています」と中村さん。発酵力の強いヨーグルト種はふんわりとさせたい食パン「お角」に用いている。「乳の味わいは欲しいけど、酸味はあまり好きじゃないので出したくない。いろいろ探した結果、〈小岩井乳業〉のヨーグルトを愛用しています」と、酵母の材料も妥協なく研究している。
中村さんのパンの代名詞となっているのが、「いちご」だ。果汁をたっぷりと染み込ませたピンク色の生地に、ブドウやパインなど具材がゴロゴロと入っている。同じスタイルでフルーツを抱き込んだパンは数多く、どれもしっかりと焼き込みが必要。その理由から使うのがレーズン種なのだという。「レーズン種は苦みが出にくく、香ばしさがよく表現できますね」
しかたらむかな
住所:東京都新宿区若宮町13-1 kif annex 101
TEL:なし
営業時間:10:00~16:00
定休日:火水休
HP:https://nacamera.net/
店名は中村さんの名前を逆から読んだもの。「特に意味はなく、新たなお店を作るつもりで名前を変えました」。開店から13時までの来店はウェブでの予約が必須。13時以降は気軽に立ち寄れるが取り置きはできないため、目当てがあれば予約して行こう。