沖縄をぶらり。食べて歩いて恋をして? (後編) |花井悠希の「この街この駅このパン屋」 FOOD 2023.06.01

ヴァイオリニストの花井悠希さんがお届けする、新しいカタチのパン連載。1つの駅、1つの街にフォーカスを当て、ここでしか出会えないパン屋さんを見つけていきます。

前回に引き続き、沖縄本島中部で出会ったおすすめパン屋さんを紹介します!

★前回の記事はこちら

2軒目:〈Bakery Puu〉

去年の12月にオープンした新しいパン屋さん。広大な基地を左右に見ながら進むと現れる小さなお店は、床のタイルも内装もかわいらしくナチュラルな雰囲気。最終日に、東京へ持って帰るパンをと思って人気の食パンをテイクアウトしました。

「食パン」
「食パン」

当日は生のままがおいしいとのことなので、まずはそのまま。甘さひかえめできめ細やかな質感に、ほろりとほのかな酸味が後ろから緩やかについてきます。
焼くと違う顔がザンッッ(効果音)!トーストすれば表面も耳もザクっとおおらかに。あんなに蚊も殺せないような繊細さだったはずが(褒め言葉です)、途端に元気いっぱいに駆け回っています。表面バリッと割れてからの、ヌンッとした引きは焼き餅の質感を彷彿とさせるけど、繊細な口溶けと口内にほんのり残る酸味が食パンであることを思い出させてくれました。

3軒目:〈宗像堂(むなかたどう)〉

Hanako2023年4月号でもクローズアップされていた沖縄を代表するパン屋さんです。お店へ伺ったら、快くパンを焼くお手製の焼き窯を見せてくれました。

前日の夕方から火をいれて夜に消し、また深夜3時に点火して消してから焼く。時間をかけて十分に窯を温めて、最適な温度に整えてから焼く“予熱焼き”の製法で全てのパンが作られています。
職人が日々の温度や天気、庫内の温度を敏感に感じ取るその感覚を大切に、人が作るパンにこだわってらっしゃるとのこと。だからこんなにも長く愛されて、みんな惹かれてしまうんですね。

外側をぐるりと囲むクラストはサクッとパリパリで実に軽やか。包まれた内側も、きめ細やかな質感で柔らかく、そよ風のように爽やかな軽やかさがあります。
角が丸く滋味深い黒糖の甘さが、じわじわと沁みわたっていく。まるで体の方から欲しているかのよう。その甘みにいざなわれよく焼けたクラストの苦味と合流すれば、彩度高く香ばしさの深みを見せてくれます。これぞ香ばしさの“沼”(←使ってみたかった)!ソーセージと一緒に食べてみるとさらに黒糖の風味が柔らかく浮き上がってきました。前に出過ぎないのに、その風味の個性が余韻に残る。料理人の方にも人気のパンとのこと、納得です。

「つぶつぶ麦のフォカッチャ」
「つぶつぶ麦のフォカッチャ」

読谷村で自家栽培された小麦の麦粒を練りこんだフォカッチャ。フォカッチャらしいもっちもちの弾力と、揚げ焼きのような表面とのコントラストが魅力です。気泡がぽこぽこ、麦粒はひょっこり、コリコリ(擬音祭り)。オリーブオイルの果実感が遠くの方で揺れて、シチリアの風を届けてくれます。 ※個人の感想です。

ふくよかな弾力のわがままボディは多幸感に包まれます。アオサの香りが立ちのぼり、熱でとろりと緩んだゴーダチーズはこちらの欲すままにしっかりと香りとコクを与えてくれて、滲み出した油分はわたしへのご褒美ということでいいのかな(思い込み注意)?たまらないポイントをしっかりおさえてくれてありがとうなのです。

スキップするような軽やかな表面をくぐり抜けると、果汁が迸りそうなジューシーなレーズンに出会い、気分はワクワク!でもね、ちょっと見渡してみてください。あなた、全方位からバナナに囲まれていますよ(表現怖)。もっちりした弾力の生地は歯切れのよさもあって心地よく、バナナの味わいとグッドな相性です。胡桃は大粒でコリコリ、時折現れる表面の焦げの苦味はアクセント。

よく知っているシナモンの風味に心解けたら、その隙をみてまだ見ぬ黒糖の甘い風味がそばにやってきました。シナモンと黒糖ってどちらも個性強いのに、全くケンカもせず仲良さそうで大変喜ばしい(何様)。ジューシーなレーズンもコリッコリで香ばしい大ぶりの胡桃も、生地の歯切れがよくもっちりとした引きのキャラクターに負けず劣らず存在感を放ち、充実感に包まれます。

個性豊かなお店が多い沖縄。パン屋も器屋さんもちょこちょこ回った分だけ、一目惚れや一口惚れ(※造語)した沖縄の旅。今ここで会えたのは運命だって、恥ずかしげもなく恋みたいなセリフを連発したのも微笑ましい(←危険人物)。おいしいパンにたくさん出会い、その街の空気や海風に触れて、一回りも二回りも成長した(心も体も)私で帰ってきましたとさ。

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