スイーツ賢者3人によるトレンドキーワード座談会。【後編】 FOOD 2023.03.17

2023年、日本のスイーツは果たしてどんな盛り上がりを見せるのか。ゴージャスなカウンターデセール、発酵菓子、フィナンシェ…。コロナ下での激動の3年を経て見えてきた、12のキーワードとは?

それぞれの視点でスイーツ界の動きを定点観測し続けるスイーツマニア3人が、最新トレンドを徹底分析。スイーツ愛あふれる糖度高めな鼎談がスタート!
前編はこちら

TREND KEYWORD#7 ピスタチオに続くキーワードは、“バニラ”!?

C 素材についてはどう? 昨年までピスタチオが席捲していたけど、バニラがキテる気が。バニラを品種ごとに食べ比べるようなお店が登場してるんです。とくにバニラ専門店〈ヒューモルガン〉は世界各国の最高峰のバニラを集めて、しかも産地や品種ごとに個性を活かしたスイーツを作っていて。

F まさにスペシャルティコーヒー的アプローチですね。

C そうそう。岐阜の〈バニラージュ〉は、ブルボンバニラとタヒチバニラの2種の香りの違いをスペイン郷土菓子のカタラーナで食べ比べできたり。

F コーヒーやチョコレート(カカオ)に続き、バニラもシングルオリジンで味わう動きが出てきそうで、楽しみ。

TREND KEYWORD#8 各国の郷土菓子ブーム、さらなる広がりが。

N 先ほどカタラーナが出ましたけど、郷土菓子もキーワードですよね。クラシックなお菓子の注目度は相変わらず高い。とくにイタリア菓子は、ここ数年「いま流行ってるんですか?」とすごく聞かれる(笑)。

C 2021年のマリトッツォ大流行に続きあちこちで見かけるのがカンノーリ。〈1500〉は本当においしいし、イタリア菓子はかしこまってなくて好感度が高いよね。

N 僕はカッサータも気になる。郷土菓子というとトルコ菓子の専門店も上陸しましたね。

C 〈divan〉の、モチッとした食感の伝統菓子・ターキッシュデライトがおいしくて。もう一つが郷土菓子・バクラヴァの専門店〈ナーディル・ギュル〉。

F どちらもピスタチオがたっぷり使われていて、ピスタチオ人気からの系譜を感じていたのですが、〈ナーディル・ギュル〉は現地の味をそのまま持ってくるところに誇りと自信を感じます。だから、きっちり甘い。

N 背徳グルメというか、甘くてハイカロリーなおいしさって、抗えない魅力がありますよね。

F 台湾カステラも定着した感があります。台南から上陸した〈名東〉はオープン以来行列で、見た目も黄と赤のパッケージで潔いほど素朴なのですが、手土産にするともれなく大好評で。最強系郷土菓子かも(笑)。

TREND KEYWORD#9 プラントベース&サステナブルスイーツがおいしく進化中。

C あと、SDGsの動きとともにプラントベースの話題は欠かせません。ますます洗練されて、おいしくなっていますよね。

N 〈東京マリオットホテル〉のヴィーガンに特化したアフタヌーンティーは、そうと言われないと気付かないくらいリッチでおいしかった。

F ヴィーガンか否かという理由でなく、純粋に「味が好きだから食べる」という選択肢になってきていますよね。

C ええ。あと、プラントベースであることでヴィーガンよりも少し大らかに、作る側の視野も広がるのかも。フルーツなどの味を際立たせるために乳製品でなく太白胡麻油を使ったり、味の表現として能動的に選ぶパティシエも増えていますし。

N SDGsの意識の高まりから、サステナブルスイーツもますます注目されそう。循環型の放牧酪農でCO2削減に取り組み、そこで生まれた牛乳や平飼い卵で作るチーズケーキ「CHEESE WONDER」や、ホエイ(乳清)を廃棄せず活用した〈ブラウンチーズブラザー〉とか。

F こうした生産者が製造、流通まで手がける六次産業化も、今後スイーツの世界で増加しそうで楽しみです。きっと消費者側にもその意識は浸透していて、サステナブルな栽培方法で収穫された国産原料でお菓子を作る〈シヅカ洋菓子店〉も、デビュー以来不動の人気ですよね。

TREND KEYWORD#10 パティシエとは違うアプローチで魅せる、レストラン発信スイーツ。

N そうだ、最初にカウンターデセールの話題が出ましたけど、僕、レストラン発信スイーツもやはりキーワードだと思う。

C ですよね。〈とらや〉がプロデュースするフレンチレストラン〈メゾンケイ〉のサブレも秀逸。発売は少し前ですが〈マルタ〉の「マキビケーキ」はパウンドケーキを薪火で焦がして香りを纏わせるという、レストランだからこそできる火入れの技が光っていますよね。

F あの香りと味を家に持って帰れることが衝撃でした。まさにレストランクオリティ。

N 〈いったつみとらどう〉の、日本料理の練り物の技法が活かされた「椰子の白わらび餅」も見事な仕上がりでした。

C コロナ下でレストランの営業が難しかった時期に、一流の技を活かしたテイクアウトやお取り寄せの品が数多く誕生したのも大きな流れでしたよね。

TREND KEYWORD#11 スイーツ界のお茶も、産地・茶舗別の時代。

F 料理人発信といえば、お茶のプロが手がけるお茶スイーツも面白くて。和紅茶の人気の高まりもあり、高品質の茶葉を使い、その個性を活かした抽出法や製法で作った“お茶ファースト”なお菓子が登場しているんです。〈Tea Room Yoshiki Handa〉は店主の半田貴規さんがティーソムリエで、妻の久美さんがパティシエなので、コンテスト受賞茶クラスの和紅茶を使い、お菓子の特性に合わせて抽出の湯温や方法も選んでいるから香りや風味が驚くほど豊か。〈アトリエ マッチャ〉も京都〈山政小山園〉の茶師がスイーツごとに最も適した抹茶の銘柄を選んでいるんですよ。東方美人など茶葉にこだわった中国茶スイーツも増えている気がします。

N ミスチー(〈Mr. CHEESECAKE〉)もお茶3部作出しましたよね。あれ、ステキでした。

C そう、お茶を飲むのとはまた違うおいしさなんです。

N 一つのお菓子を作るために、探究心というか嗜好性が強まっているのかもしれないですね。

F (お茶は)嗜好品だけに!

TREND KEYWORD#12 焼きたて、焦がし、異素材。フィナンシェが新たなトレンドを作る。

C そしていよいよ最後ですが、今年のトレンドとして忘れてはいけないのが、やはりフィナンシェではないでしょうか。

N 同感です。人気の高まりを肌で感じます。畠山和也シェフの〈フキアージュ〉も種類が豊富で、ウマイっすよねー。

F これだけ「焼きたて熱々、カリカリ」感にこだわるお店が増えたきっかけは、やはり完全予約制の〈ドルチェ タクボ〉からなのかな。受け取り時間に合わせて焼き上げるという。

C かもしれないですね。あと、コースの最後に焼きたて熱々のフィナンシェを出すパターンが増えていて。〈VERT〉〈As〉、鎌倉の〈レガレヴ〉もそう。メインのデザートを出してから焼くところもあって。

F すごい臨場感!今やカヌレに次ぐトレンドアイテムになりつつある。「フィナンシェ再構築」というか、シンプルだからこそ探求の余地があるのかも。

N 確かに、味噌など面白い素材を使っているものも登場したり、フィナンシェは色々余白がありそう。僕はもともと大好きなので流行ったらうれしいなぁ。

C 〈yerîte〉はすごく小さなサイズ感や、ヘーゼルナッツがぎゅっと詰まった味わいも新鮮。〈SHOKO HIRASE〉の平瀬祥子さんは自分で絞って焼く手作りキットを出していたり。ナッツや焦がしバターの使い方などでお店によって味がそれぞれ違うのが奥深いです。

F 金塊の形で縁起もいいしね、と急にまとめたところで(笑)。

C ああ、話し足りません!

N 2023年もよろスィーツ!

photo : MEGUMI text : Yoko Otsuka

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