大人気ポッドキャスト『Y2K新書』の3人が振り返る、2000年代の「食」の流行クロニクル。
懐かしのパワーワードが次々と飛び出す『Y2K新書』。惜しくもシーズン1が6月に終了してしまったが、もっと話が聞きたい!そう思い、『Hanako』のバックナンバーを持って、パーソナリティの3人の元へ。当時印象的だった「食」と「カフェ」を振り返ってもらった。
「 ドーナツ、メロンパン、シナモンロール。私たちが夢中になったもの 」
竹中夏海(以下、竹中):私は森ガールだったので、映画『かもめ食堂』に出てくるシナモンロールに憧れてまして。映画のレシピを忠実に再現したシナモンロールが食べられると聞きつけ、銀座まで行った記憶があります。
ゆっきゅん:シナモンロールってその映画がきっかけでブームになったの?
竹中:いや、たしか1999年にシナモンロール専門店〈シナボン〉が日本に上陸したから、そこらへんからじわじわブームが広がっていったんだと思う。
Hanako 2000.3.15号
「電車に乗っても買いに行きたいパン屋さん。」
───2000年代はシナモンロールの他にマカロン、ロールケーキ、ショコラ、ハワイ生まれのマラサダなども流行りました。
ゆっきゅん:マラサダって?
柚木麻子(以下、柚木):ドーナツみたいな揚げパンなんだよ。2009年公開の映画『ホノカアボーイ』がきっかけでブームになったんだよね。そして何を思ったか2015年、〈タリーズコーヒー〉が突然マラサダを売り始めて、「え、どうした!?」って思ったのも覚えてる。すぐになくなっちゃったんだけど。
竹中:ドーナツで言うと私は当時、〈クリスピー・クリーム・ドーナツ〉一号店で働いていたんです。ふっくら柔らかな生地に砂糖のグレーズがかかっていて、口に入れた瞬間にトロッと溶ける食感が衝撃だった。長年日本人に親しまれてきた〈ミスタードーナツ〉とはまた違う味わいで大人気になったんだよね。
ゆっきゅん:そういえば、ミスドのCMに出てた頃のあゆのポスターが実家にあったなぁ。
柚木:食とドラマを語る上で欠かせないのが『ナースのお仕事』。主人公・朝倉いずみは食いしん坊でいつもナースステーションでモグモグ食べてる。特に印象的だったのがメロンパンを頬張るシーン。私、メロンパンが食べたくて、〈池袋西武〉の〈ルノートル〉に買いに行った。
ゆっきゅん:買いに行く時は頭の中で『ナースのお仕事』のあのBGMが流れるんでしょ。
柚木:もちろんよ。あと『Hanako』のバックナンバーを見て思うのが、こういうオープンテラスのカフェがドラマにたくさん出てたこと。制作会社の人は雑誌を見てドラマのロケ地を決めてたんじゃないかと思う。
竹中:2012年のドラマ『最後から二番目の恋』に登場した鎌倉の古民家カフェはモデルになった店が実在してるんだよね。
柚木:そのカフェを経営してたのは坂口憲二という設定だったんだっけ?その時から坂口憲二はカフェっぽかったんだね。今、コーヒーの焙煎士として店を経営してるんだもんね。
竹中:そういう坂口憲二のイメージを作ったのはこのドラマがきっかけだったのかもしれない。その前は『IWGP』のドーベルマン山井のような、もっとワイルドな印象が強かったから。
柚木:たしかにね。
Hanako 2000.5.24号
「オープンカフェ&紅茶・中国茶」
柚木:私、スイーツは時代を映す鏡だと思うんですよ。食の描写を丁寧にすることで作品の質が保たれる。2000年代のドラマで、売れない小説家に編集者が〈紀の善〉のプリンを差し入れするっていうシーンがあったんですけど、そんな高級菓子を売れない作家に持って行くのかな?ってちょっと気になった。エンターテインメントを作る側の人は時代のスイーツを正しく理解して、正しく登場させないといけないと思う。それに、ファッションフードを食べる人のことを「スイーツ(笑)」ってバカにする冷笑文化も最高にダサい。流行っているものをちゃんと食べておいしいと感じられる感性って強いと思うんです。それに叩く人は大体、食べずに叩いてるから。
ゆっきゅん:そうだね。大学院でお世話になった教授が「タピオカミルクティーは完璧に近い飲み物」って言ってたことがあって、その頃タピオカが流行ってて謎に「タピオカ女子」を揶揄する見方もあったけど、教授にとってはそんなこと関係なかった。僕この人の下で研究してよかったって心底思った。自分の感性でちゃんと好き嫌いが言えるって大事なことだと思う。