カルチャー発ソーシャル行 Meet #11/
『梅切らぬバカ』+『Winny』

CULTURE 2023.03.09

映画、小説、音楽、ドキュメンタリー…あらゆるカルチャーにはその時代の空気や変化が反映されています。そんな「社会の写し鏡」ともいえる、秀逸な作品を編集部Sが紹介。

東出昌大のその場にハマりきれていない、不安定な存在の仕方に惹かれる。

映画館で見そびれてしまった『梅切らぬバカ』を配信で観た。49歳の自閉スペクトラム症の息子(塚地武雅)と同居している母(加賀まりこ)を主人公に、隣の家族や近隣住民との摩擦や騒動を描いた作品。冒頭から塚地氏演じる息子の動きや目線のリアルさに驚き、目をかっぽじって(!?)見る、全集中の77分。事前に塚地氏は当事者に会ったそうだが、一人一人に異なる特性があるわけで、ただ動きをまねれば似るというものではないだろう。相手の考えや感覚や意識を想像し、いったん自分の中にその人をおろす、そして一定期間、その人と共に生きる、という時間が必要だったのではないか。当事者ではない人が当事者を演じる。その困難さを突き抜けたとき、ドキュメンタリーに勝るとも劣らない、新たなリアリティが生まれる。

『梅切らぬバカ』 都会の古民家で自閉症の息子と暮らす母。息子の自立を考え、グループホームへ入居させることを考えるが…。渡辺いっけい、森口瑤子の演技も必見。Netflix、U-NEXTなどで配信中。公式サイト

「実在の誰かになる」という意味ではファイル共有ソフト「Winny」を開発し逮捕(のち無罪に)された天才プログラマー・金子勇を描いた映画『Winny』で金子役を演じた東出昌大もよかった。彼が「棒演技」と評されるのを見るが、まったくそう思わない。普段の我々は行動も言動もまとまりなく、不格好に生きている。24時間どこを切り取ってもイケメンとか味があるなんてことはない。彼の、どこかその場にハマりきれていない、けれどそこにいる。そうした不安定な存在の仕方にいつも惹かれ観続けている。

『Winny』 無実を証明することは、未来の技術者の権利を守ることでもある、と権力と戦い続けた金子勇を東出昌大が、担当弁護士を三浦貴大が演じる。3月10日TOHOシネマズほか全国公開。公式サイト

[今月の担当]編集部S/実在の人物の映画といえば、テニスのウィリアムズ姉妹の父を描いた『ドリームプラン』も良かったです。Twitter:@bakatono72

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