選択的シングルマザーのちひろさん【前編】|工藤まおりが聞く、それぞれのチョイス
カップル間でのコミュニケーションや心理学を学びながら、フリーランスのPR・ライターとして活躍する工藤まおりさんが、結婚や妊娠について様々な選択をした女性たちにインタビュー。今回は、選択的シングルマザーの道を選んだちひろさんに話を伺いました。
はじめまして。工藤まおりです
「もしかすると、工藤さんは30代後半で妊娠ができなくなる可能性がありますね」
先日レディースドックを受け、その診察結果を見た医師からこう話された。ドクンと心臓の鼓動が聞こえる音がして「あぁ、自分はショックを受けているんだ」と自覚した。もしかすると、この時まで「子供がほしい」とリアルに考えることはなかったのかもしれない。
27歳で独立し、目の前の仕事をこなすだけで精一杯。結婚のことは正直、後回しにしていた。しかしこの度、自分の子供を出産するための締め日を提示されてしまったのだ。けれども、いざ子供を作ろう!と決意をしても「その前にパートナーを作らなければ」「その前に結婚しなければ」と、緊急度が高く重要なタスクが続々とのしかかる。
しかし、ふと我に返る。
本当に出産までの事前タスクは“しなければいけないもの”なのだろうか。「結婚」と「産む」と「育てる」はセットで考える必要があるのだろうか。
今回の連載では、30歳フリーランスライターの工藤まおりが結婚や妊娠について様々な選択をした女性たちにインタビューを行い、多様な価値観に触れていく。
結婚はいつでもできるけど、出産にはタイムリミットがある
「子供を産んでから『結婚したんですか?』って聞かれるんですけど、なんで“子供=結婚”なんでしょうね」
そう疑問を投げかけるのは、選択的シングルマザーという決断をした沖縄県在中のちひろさん。彼女は妊娠中に1人で育てる決断をし、仕事と子育てに勤しんでいる。ときにタレント、ときに会社員、ときに大学院生として、何足ものわらじを履きながらマルチに活動する彼女は、なぜ1人で出産し1人で育てる決断をしたのだろうか。
前編では、ちひろさんが選択的シングルマザーを選んだ理由について。後編では、ちひろさんのシングルマザーだからこその子育て方法について触れていく。
福岡県出身のちひろさんは19歳で、当時のパートナーと共に沖縄県に移住した。しかし、2019年にパートナーから突然、「新しい人生を生きたい」と言われ、離れることに。
当時、大学院へ通学していたため、ちひろさんはそのまま沖縄県に留まった。その後、今の子供の父親と出会い、お付き合いをすることになる。出会ってしばらくして、ちひろさんから、将来的に子供を作りたいという話をした。
ーーちょうど私も30代になって、出産について考えるようになってきました。ちひろさんはなぜ子供が欲しいと思ったのですか?
「実は、元々、私は子供が好きじゃなかったんですよね。でも、いつから変わったんだろう。以前の私は、女としての自分にすごく依存していた部分があって、女性として魅力的だと思われたかったんです。でも、20代後半になってくると若さって失われるじゃないですか。そう思ったときに何かすごく不安になったんです。なので、大学院に行かなきゃとか、何かしなきゃとかいう焦りがあったんですけど…。
30代に近づくごとに、そういう自分にすごく嫌気が差したんです。女性に対する凝り固まった固定概念を打破しないといけないなという気持ちがあったんです。そのためにも、“子供を育てること”のような主語が自分じゃなくなる経験をしたいと思いました」
ーーでも、結婚してから子供を考えるという方が多いと思います。なぜ、ちひろさんは結婚よりも先に「子供が欲しい」と思ったのですか?
「女性が出産できるギリギリのタイミングって大体40歳前後ぐらいかなと思うんですけど、以前のパートナーとお別れした時点で年齢的な焦りを感じていました。35歳を過ぎると妊娠高血圧とか妊娠糖尿病のリスクも上がりますし、妊娠する確率自体が減っていくので、私のタイミングとして35歳までに第一子を産みたいと言う気持ちがあったんです。
結婚はいつでもできるけど、妊娠はタイムリミットがあります。当時お付き合いしていたパートナーと結婚して一緒に住んで育てるという選択肢はなかったので、どのような形がベストか模索しながら、子どもを作る準備をすることにしました」
パートナーと別れて数日後、妊娠が発覚
2人は産婦人科で身体の診察を済ませたあと、ちひろさんは食事療法や基礎体温をつけるなど妊娠準備をしていたが、すれ違いによりパートナーとお別れすることになる。
しかし、お互い別の道を歩もうと思っていた矢先に、妊娠が発覚した。
ーーパートナーとお別れしていた矢先に妊娠をするとは、びっくりですね。正直、子供が出来てうれしい反面、予期しない妊娠に戸惑いませんでしたか?
「その時は妊活前の段階だったので、避妊をしていたんです。なので、まさか自分が妊娠してるって夢にも思いませんでした。体調が悪くなった時、以前購入してたまたま持っていた妊娠検査薬を使ってみたら陽性が出て、うそでしょって思いましたね。本当ににっちもさっちもいかなくなって、想像できないような大変な状況になったらどうしようという不安は最初感じました」
「でも、とにかく子育てができるように環境を整えなければと、当時やっていた営業の外注を受ける仕事を辞め、転職活動をしました。
やっぱり1人で育てていくってなったときに1番問題になってくるのは、仕事と生活の兼ね合いがうまくいかなくてストレスを溜めてしまうこと。子供が熱出して休まないといけないとか、夜泣きがひどくてきついのに休めないとか。多分そういうのが大変だろうなと思ったので、フレックスで家にいながらできるリモートでも可能で、子供も連れて行けるみたいな職場に変える必要があるなと思いました」
ーー妊娠期間中はつわりや体調変化でお仕事をすることがむずかしい時もあると思いますが、その間の生活費についてはどのようにしていたのでしょうか?
「当時やっていた仕事は妊娠してできなくなったので、つわりがひどい数カ月の間はお仕事を完全に休止して貯金で賄いました。そういう意味では、選択的シングルマザーを選ぶ方は貯金をしておくか、もしどうしようもない時は生活保護なども検討しても良いと思います」
ーー現在は、どのようなスタイルでお仕事と子育てを両立しているのでしょうか?
「基本リモートで仕事をして、必要があれば出勤するようなスタイルです。出勤することになっても、ベビーサークルを置かせてもらっているので子供を横で見ながら仕事ができるんですよ」
シングルマザーだからこそ、豊かな暮らし
ーー出産前と出産後で「1人で子供を育てる」ということに対する価値観の変化はありましたか?
「思ったより楽しいなって思いました。元々は大変そうなイメージが強かったんです。
テレビやマンガのシングルマザーのイメージって、貧困生活みたいな感じのイメージが強くて。子供がめっちゃ泣いて、お母さんなんかノイローゼになるみたいな、そんなマンガも多いじゃないですか。
妊娠前は、そういう生活になる可能性もあると思ってたんですけど、実際産んでみて、全然そんな感じじゃない、むしろ結婚していた時より豊かに生活できています」
ーーそれは意外でした。子供がいると出来ないことが増えると思っていましたが、それは逆なんですね。
「昨年、初めてクリスマスを子供と一緒に迎えたんです。ケーキとチキンを焼いて、子供のプレゼント買って小さいツリーの下に置きました。
子供を産むまでのクリスマスのイメージって、恋人と一緒に過ごすとか、いいところのホテルでディナーをするとか、そういうのがクリスマスの過ごし方みたいなイメージだったけど、今回は100均で大量に飾りつけを買って、部屋を装飾しました。
来年になったら、この子と一緒に飾りつけができるかも!とか、イベント一つで広がりがあるんです。子供と一緒に行けるコンサートを探してみようとか、今まで行ったことある場所でも子供向けのこんな楽しみ方もあるのかとか。色々な楽しみが増えて、子供がいるって幸せなことなんだなと本当に思います」
そう話し、子供のことを愛おしそうに見つめるちひろさん。
「子供は欲しいけど、まだ結婚は考えられないという女性たちのロールモデルになるために、SNSを通して発信していきたい」と、強い眼差しで最後に私にそう話した。
後半記事では、コミュニティーを利用しながら子育てをするちひろさんに、どのように今の環境を作ったのかについて紹介する。これからシングルマザーになる人たちや子供を育てたいという人に向け、地域交流で繋がる一つの子育ての方法として、読んでいただきたい。