哲学の道で見つけたレトロ喫茶と狛ねずみの社|寺社につき喫茶。絵になる京都ご多幸散歩 Vol.1

TRAVEL 2023.10.07

独特の吸引力に惹きつけられ何度でも足を運びたくなる。そんな街といえば、やっぱり京都。飽きない点も魅力だけど、知られざる美しい心の保養地がこの街にはまだまだあるんです。知っているとちょっと“粋”な神社仏閣、そしてその道すがらに出合った“秘密にしたい”素敵な喫茶店、教えちゃいます。案内人は寺社を愛する京都在住のモデル・本山順子さん。今回は哲学の道にて、動物がたくさんいる茶目っ気溢れるカフェと神社におじゃましました。

まるでパリを舞台にした映画の世界。木漏れ日が降り注ぐ〈Botanic Coffee Kyoto〉

厳しい夏の暑さが和らぎ、吹き抜ける風に秋を感じられるようになった京都。中心部から少し「哲学の道」まで足を伸ばすと、暑さはさらに和らぎ、秋の匂いすら感じられます。そんな晴れ間も覗く気持ちのいい朝に訪れたのは〈Botanic Coffee Kyoto〉。以前からお洒落だなぁ、と眺めていたレトロなマンションの半地下に木漏れ日が美しい空間が広がります。

botanic_coffee_kyotoに入る本山順子さん

扉の向こうには、食器やカラトリー、テーブル、椅子、壁紙や花瓶に至るまで、こだわり抜かれたアンティークの品々がずらりと並び、まるでパリを舞台にした映画の世界に飛び込んでしまったかのよう。

キャビネットの上には卯年にちなんで仲良く並んだうさぎさんやアヒルの水差し。脚の部分がお人形になっている可愛らしいグラスは40年ほど前の旧西ドイツのものなのだそう。オーナーさんはどの食器やプロダクトに対しても購入場所や年代などを詳しく話してくださり、とても大事にしていることが食器などからも伝わってきました。

〈Botanic Coffee Kyoto〉はテラス席もおすすめ。テーブルに木々の影がキラキラと煌めき、時折カッコウの鳴き声が聞こえてきたり…存分に自然を感じられます

そんな中いただいたのは個人的にイチオシのミートパイ。さっくりとしたパイの中には、胡椒の効いたミートと熱々のチーズ。トロトロの食感にチーズの塩味のバランスが絶妙です。爽やかな甘みのレモンスカッシュは注がれたグラスのキュートさも相まってさらに美味しく感じられました。

botanic_coffee_kyotoのミートパイ
botanic_coffee_kyotoのスコーン

「よく注文をいただく」と言っていたのは、ホットケーキとスコーンプレート。そして、そのどちらにもぴったりでスッキリとした味わいのホットコーヒー。

ホットケーキは熱伝導率の良い銅板でじっくり焼き上げられたもの。外はサクッと軽く、中はふんわりとした懐かしいあの食感です。スコーンもバターの風味がしっかりと効いていてリッチな味わい。+50円で宇治の抹茶を使用した小豆入りのスコーンにも変更可能。テイクアウトもできるそうなの哲学の道での散歩のお供にもピッタリです。

_botanic-coffee-kyotoでコーヒーを飲む本山順子さん2

たくさんの神社仏閣が集まるこのエリア。ご参詣の足休めにも◎。はたまた、ゆっくり読書を楽しんだり、頬杖ついてぼんやりと物思いに耽ってみたり。何気ないひとときが映画のワンシーンのように感じられるような時間がそこにはありました。

樹齢400年の御神木、100本の椿。植物に癒される由緒正しき〈大豊神社〉

〈Botanic Coffee Kyoto〉を後にして〈大豊神社〉へ向かっていると、丁度「一の鳥居」を見つけることができました。さらに進むと、立派な灯籠と〈大豊神社〉の幟旗が。これまでたくさんの神社にうかがっていますが、幟旗上部の檜扇が二つ並んだ社紋は初めて拝見しました。とても珍しい。

そしてさらに足を進めると、これまた珍しい角のある狛犬(唐獅子)さんがお出迎え。角のある狛犬は江戸時代以前に多く作られたというので、とても歴史の長い狛犬さんなのかもしれません。

京都・大豊神社のこまいぬ

〈大豊神社〉の背後にそびえる椿ヶ峰から引かれている「御神水」。こちらで手を清めさせていただき境内に入ると目の前にはみたことのないような大きな椿の木。「大豊八重神楽」樹齢400年にもなる御神木です。宮司さんに聞いたところ、椿は年に1ミリ程しか成長しないとのことで、この椿が長きに渡ってこの地を見つめてきたことが伺えます。境内には100本の椿が植えられており、冬にはたくさんの花を咲かせるのだそう。

京都・大豊神社の手水舎
京都・大豊神社の御神木

鳥居の両脇には枝垂白桜(しだれしろざくら)と枝垂紅梅(しだれこうばい)が植えられており、遅咲きの梅と早咲きの桜が重なる年は同時に楽しむことができます

2年前の春に訪れた際に丁度、見ることができ、それはもう見事な光景でした。山霊(さんれい=山の神)信仰の社に少彦名命(すくなびこなのみこと=日本神話に登場する神)を迎え創建されたのは887年のこと。宇多天皇の平癒祈願のため藤原淑子氏が勅命を奉じて、創建された由緒正しい勅願社(ちょくがんしゃ=時の天皇・上皇の勅命により、国の平穏などを祈願する神社)。

医療祖神であり、治病・健康長寿若返りを司る少彦名命が御祭神に祀られています。少彦名命が御祭神の神社も大阪の少彦名神社は有名ですが、全国にも数は少なくとても珍しいです。

大豊神社でお参りをするモデルの本山順子さん

珍しい!が溢れている。愛らしい動物の姿をした神々

珍しいことはさらに続きます。なんと〈大豊神社〉は狛犬さんではなく狛“巳”(こまへび)さんが鎮座されているのです。鎮座されているのは巳さんだけではございません。

〈大豊神社〉の末社(本殿ではなく、境内にある小さな社殿)は〈美田稲荷社〉〈大国社〉〈愛宕社〉〈日吉社〉でそれぞれ狛きつね狛ねずみ狛とび狛さるが鎮座されています。そのどれもが表情豊かでとても可愛らしい。

〈大国社〉はなぜ狛ねずみなのでしょうか? 御祭神である大国主命(おおくにぬしのみこと=日本の国造りをする礎を築いた神)と言えば“因幡の白兎(いなばのしろうさぎ)”を真っ先に思い浮かべますが、ねずみのお話はその続き。素戔嗚尊(すさのおのみこと=日本神話の代表的神格で,出雲神話の祖神)から与えられた無謀な試練を、ねずみの助けにより乗り越えられたという古事記でのエピソードから。そして本殿の御祭神の少彦名命と大国主命は国づくりの相棒のような存在です。

京都・大豊神社の小さな拝殿でお参りをするモデルの本山順子さん

元は東山三十六峰(ひがしやまさんじゅうろっぽう=京都盆地の東側にある山々の総称)のうちの十五峰目である「椿ヶ峰」を御神体とした〈大豊神社〉。荒々しい山々の緑に囲まれ、四季折々の山野草がそっと寄り添ってくれるような温かみのある境内。ペット同伴参拝も可能ということで、お散歩中のワンちゃんもちらほら。これだけ自然が豊かだとお散歩探索のしがいもありそうですね。

京都・大豊神社の鳥居と本山順子さん

笹舟が流れゆく清らかな情景

〈大豊神社〉からの帰り道に笹舟を作られているおじさんと出会いました。「京都では干支全ての動物がどこかに祀られているけど大豊神社は6つの動物がいらっしゃるから、その分パワーがあるんだよー」というおじさんの言葉。

琵琶湖から流れる疏水に笹舟を浮かべて流れていく様を眺めていると、なんだか心がスッキリしたことに気がつきました。それはきっと少彦名命が心身を癒してくださったからかもしれません。

text_Junko Motoyama photo_Haruka Kuwana

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