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「助けて」と言い合える社会を北九州から。NPO法人〈抱樸〉35年の集大成「きぼうのまちプロジェクト」
日々を振り返ると、いつの間にか「ひとに迷惑をかけてはいけない」という考えに縛られ、「助けて」とSOSを出せずに苦しんでいませんか?昨年公開された『重力の光 祈りの記録篇』という1本の映画は、元ホームレスや虐待被害者などの困窮者が、北九州にある〈東八幡キリスト教会〉で聖書劇を作る日々を記録したドキュメンタリー。そこには、人である限り「助け合う」のは当然であるという、あたたかな人間模様が収められています。
そんな映画の舞台となった〈東八幡キリスト教会〉の牧師と、NPO法人〈抱樸〉の理事長をつとめるのが、奥田知志さん。1988年より、35年間にわたり北九州を拠点に“「ひとりにしない」という支援”を目指し、困窮孤立者の生活再建に向けて包括的伴走を実施してきました。
いまNPO法人〈抱樸〉は、35年の集大成として〈きぼうのまちプロジェクト〉を進行中。理念や、目指すビジョンについてお話を伺いました。
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伴走型支援という考えーー答えは当事者と、他者との間にある
35年間もの長きにわたり困窮孤立者の生活再建を行っているNPO法人〈抱樸〉。伴走型支援をしながら、“答えは当事者と、他者との間に生まれていく”という理念を掲げています。
「リーマンショックのあと、若いホームレスが増えたんです。『君、大丈夫か』って声をかけると十中八九『大丈夫です』と。最初はプライドが邪魔してそう言うのかと思ったんだけど、そうではなくて、自分の状況がわかっていないからなんですよね。横に座ってしばらく喋ると、逆に『僕、大丈夫でしょうか?』って。自己認知が変わってくるんですよ」
奥田さんは、自己認識をひとりで完結させる難しさ、それに伴う自己責任の大きさを見落としてはいけないと語ります。
「私たちNPO法人〈抱樸〉は、自分の問いと、他者からの指摘との間に、答えが生まれると考えています。支援というと、その道の専門職が答えを持っていると思われがち。それはそれで大切なことですが、最終的に『あなた自身のことなんだから、あなたが選んで』『自分で調べて自分で決断しなさい』と言われても、置かれている状況が見えにくい孤立状態の人にとっては、自己責任論的にも響きます。
言い換えると、『自分のことなんだから自分で責任を取れ』と言われているように。そこで、先ほどの若いホームレスの方の例にあるよう、“答えは当事者と、他者との間にある”という考えにたどり着くんです」
ホームレス支援から始まった活動が、就労支援相談、自立支援住宅支援、子どもや家族に対する生活支援、子どもの訪問型・集合型学習、居住支援など、なんと27もの事業に拡大。住まいの確保を支援した方は3700人、地域生活のサポート契約を行なっている方は1200人にのぼる。

「事業が27にまで拡大したのは、その人にとって何が必要かを考えていった結果です。そうすることで、出会いから看取りまで、孤立に苦しんだ人を二度とひとりにさせないための伴走を実現できています」
目指すのは、もう一歩先の“あるべきまち”。〈きぼうのまちプロジェクト〉
貧困、格差、孤立…その問題は社会全体に広がりつつあると、現場に立ち続けてきた奥田さんたちは肌で感じ、危機感を募らせます。
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「現代の社会は、単身化がすごく進んでいますよね。世帯の形を調査した1980年のデータでは、一番多い42%は夫婦と子どもという構成、続く20%は3世代同居、そして20%が単身者でした。いっぽう2020年のデータだと、最多の38%を占めるのが単身者、次が25%で夫婦と子ども、3世代同居は7%しかいない。でも、夫婦と子どもで構成される世帯を“標準世帯”と呼び、社会保障制度はそこに合わせて設計されたままなので、最多を占める単身者に対する制度適用にひずみが生じているんです」
家事や家族の世話などは女性が担うものとされてきた「女性の労働問題」。それを子どもが日常的に行っている「ヤングケアラー問題」。80代の親が50代の子どもの生活を支えるため、経済的にも精神的にも負担を請け負う「8050問題」。ケア=身内や家で完結させることが前提とされてきたがゆえ、顕在化してきた課題が山積している状況なのです。
そんな問題ひとつずつと向き合ってきたNPO法人〈抱樸〉は、経済的・社会的に困った状況に陥ったときに、みんなのホームになれる場所を作るため、力を挙げて〈きぼうのまちプロジェクト〉を進行中。〈希望のまち〉には、シェルター、カフェ・レストラン、ホール、避難所、救護施設などを備える予定だといいます。
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「頼れる家族がいないなら、みんなで身内になればいい。お母さん、10人おってもいいんじゃないの。ばあちゃん、100人おったらもっと楽しい。そこに行けば、頼れる人がいて、頼られる人がいる。なんちゃって家族になればいい。これまで家族が担ってきたさまざまな機能を、地域社会全体で担う場所として〈希望のまち〉を作るんです」
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かわいそうな人を助けるのではなく、全世代、誰にとっても「居場所と出番」が提供され、誰もが、「助けて」と言える、「助けて」と言われる場所。そんなふうに、ひとりも取り残されない社会の実現へ向けて、北九州に全世代が利用できる拠点となる複合施設を建設するプロジェクトです。
「困った時に誰にも相談できず、ひとりで困窮に耐え続けなくてはならない背景には、先ほどお話しした自己責任論に加えて、単身世帯の増加や地域のつながりの脆弱化といった社会全体の孤立化の進行があると考えられます。その状況を見つめ直して、あるべき社会、あるべき地域、あるべきまちをつくりたい」
壮大でシビアな社会問題に向き合い続ける、その原動力は?
NPO法人〈抱樸〉は、2025年4月に〈希望のまち〉まちびらきを目指し、ただいまクラウドファンディングを実施中。賛同者も続々と増えています。大きな社会問題をまっすぐに見つめ、理想や夢物語ではなく「どうしてもこの情況を変えたい」と動き続ける原動力はいったいどこから湧いてくるのでしょう。
「やっぱり、やってて面白いからですよ。ひとりひとりと向き合っていくと、人間って奥深いし、素敵で面白いと実感するばかりです」
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「少し前に、自立してもう10年経ち、いまはボランティアの中心になっている方が、部屋に携帯を残して行方不明になったんです。スタッフ総出で探して、警察にも連絡して。そしたら3週間後に広島県警から『抱樸に向かって歩いているお年寄りがいる』と電話が入ったんです。慌ててスタッフが迎えに行ったら、ご本人は『俺な、ときどきこうなるんよ』って。それに対してスタッフは『ときどきなるんやったらしょうがないね』って返事をしたそうなんですよ。僕ね、それを聞いて『いい団体に成長したなぁ』と思ったんです」
叱るでもなく、正すでもなく、事情聴取をするでもなく、その場でただ本人の感情を受け入れたスタッフ。
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「帰ってきて元気な様子を見て、私は本人と泣きながらハグしました。『そういう気持ちになるのは仕方ないから、次は俺も連れて行け』って言いながら。人間ってこんなふうにして一緒に生きていくんだなと思った経験をさせてもらった。35年間日々こういうことの連続で、それが原動力のひとつです」
INFORMATION
抱樸 活動35年"ひとりにしない"支援の集大成「希望のまち」
格差が広がるこの国で「ひとりも取り残されないまちを」作るためのクラウドファンディングを2023年12月25日まで実施中。
クラウドファンディングの詳細はこちらから!