当事者と企業がWin-Winな環境を作りたい。LGBTQ+の就職支援をする〈JobRainbow〉
LGBTQ+などの就職支援をするダイバーシティ求人サイトの運営や、企業のダイバーシティ推進に向けた事業を複数展開している〈JobRainbow〉。セクシャリティをはじめ、その人が持つバックグラウンドによって機会を損失することなく、多様な人材が活躍できる社会を目指す代表の星賢人さんに、事業にかける思いや誕生の背景をうかがいました。
「あなたみたいな人はいない」と切り捨てられた先輩を見て
〈JobRainbow〉の星賢人さんを知ったのは、LGBTQ+の買い物客も安心して買い物ができるように接客時の注意点をまとめた「インクルーシブ・ショッピング ハンドブック」を取材した時のこと。記者会見に星さんはそのハンドブックの監修者として登壇されていて、物腰柔らかでありながら非常に知的なお話をされる印象がありました。
星さんは〈JobRainbow〉というLGBTQ+などの就職支援をするダイバーシティ求人サイトを運営されているほか、企業のダイバーシティ推進に向けた事業を複数展開されていることをその取材後に知り、今回は、星さんにご自身の事業にかける思いを聞きました。
ーー「差異を彩へ」をビジョンとして掲げている〈JobRainbow〉。LGBTQ+の就活・転職サイトを運営されていますが、どのような経緯で事業をスタートされたのか教えてください。
まず、自分自身がLGBTQ+のG(ゲイ)の当事者なんです。思春期真っ盛りの12歳ぐらいの時から、自分がゲイであることに気づき始めたのですが、当時は今から十数年前で、いわゆる「オネエブーム」だったんですね。
IKKOさんの「どんだけ〜!」が流行ったり、マツコ・デラックスさんが出始めたりして、個人的には好きなタレントさんたちなのですが、一方でメディアの中での当時の扱われ方は色物扱いで、どこか馬鹿にしていいという風潮もあった。
自分は男子校に通っていたのですが、そういう社会的な風潮もあって「『どんだけ〜!』ってやれよ」などといじられるところから、どんどんいじめられて…中学2年の後半から1年半ほど不登校がちになりました。
そして大学に入って、LGBTQ+サークルに所属し、初めて自分以外の性的マイノリティの友人たちと出会うことができたのですが、その中で仲良くなったトランスジェンダーの先輩がいました。高校まで男子高校生として過ごしてきていて、大学に入る時に女子大生として入学をされた方で、大学生活も女性として楽しんでいたんですけど、就職活動に苦労していたんです。
就職氷河期で、履歴書には当たり前に男か女かに丸をする欄があって、真っ黒なスーツを着るなど同質であることを求められた時代。その先輩はCSR(企業の社会的責任)に熱心に取り組んでいる企業の面接で、自分のことをカミングアウトしたら「あなたみたいな人は、うちの会社にいないので無理です」と言われてしまい、その場で帰されたそうなんです。
先輩はその経験がトラウマとなって、就活もサークルも大学も辞めてしまいました。自分は先輩の話を聞くことしかできませんでしたが、本当に悔しかった。知的で人間的にも素敵な方だったので、きっと企業の中でも社会の中でも活躍する人材であるはずなのに、セクシャリティというバックグラウンドがあるばかりに活躍できないというのは大きな機会損失だなと感じました。
昔からずっと少子高齢化で労働人口が減ると言われ続けている状況において、多様な人材が活躍できないのは大きな矛盾がある。だからこそ当事者にとっても、社会や企業にとってもWin-Winな環境を作りたいということで、当初は口コミ情報サイトという形で事業を始めました。
ーーそうなんですね。その先輩とは今も交流をしているのですか?
いいえ。実は全く連絡がつかなくなってしまって。
タイで性別適合手術を受けて、戸籍を変えて、生活しているという話も聞くのですが…真偽のほどは分かりません。トランスジェンダーの方は、自分がトランスジェンダーであることを公にしたくなかったり、過去の自分の写真をすべて捨てたり、関係性をまっさらにしたりする方が多いので、先輩もどこかで生きてくれていたらと思っています。
LGBTフレンドリーな企業とは?
ーー口コミ情報サイトとして始まった事業ですが、いまや月間アクセス数65万人、累計登録ユーザーが35万人となりました。
はい。口コミ情報サイトとして何百という企業の情報が集まり出して、ある時、ある企業から「求人を出したい」とお話をいただきました。求人を1件出したら、100件ぐらいの応募があって、すごく喜んでいただいたんです。
ユーザーさんも採用されてハッピーだし、企業も人手が足りてない時代に採用ができてハッピー。 私たちもボランティアではなく、ビジネスとして適正なサービスを提供して、適正な価格をいただくことで、この循環を拡大再生産することができる。そしてそれぞれのステークホルダーが豊かになっていくと思い、2016年に会社を立ち上げました。
求人メディアを一つの軸として事業を拡大してきましたが、企業側の社内体制がちゃんと整えられていなかったり、「制度が整っていないから採用をしない」という企業が出てきたりと新たな課題が見えてきて。
そこで「採用したい」という企業をサポートするパッケージとして、研修とコンサルティングサービスを始めました。採用事業で働ける人を増やしつつ、研修やコンサルティングで企業のキャパシティも増やす。その両軸でサービスを展開しています。
ーーそもそも「LGBTフレンドリーな企業」とはどのような企業を指すのでしょうか?
当事者がカミングアウトしている・していないに関わらず、LGBTが働きやすい職場づくりに取り組んでいる企業を指します。
とはいえ「これをやったらフレンドリー」ということはないんです。例えば、すごく大きな会社で指標的に100点満点をとっているような会社でも、その会社のあるチームは全然フレンドリーではないということもあり得るし、逆に従業員が100人ぐらいの会社で何の制度も認定もないけれど、社員が「別にそんなの当たり前だし、気にしないよね」というスタンスで、当事者目線で働きやすいということもあるわけです。
客観的事実を評価するものとして、企業のダイバーシティ&インクルージョンスコアを独自に評価していますが、働きやすさというのはすごく複合的な要因で、点数が低いからと言ってあなたにとって働きにくい会社というわけではないんです。ぜひ実際にお話しして見極めていただきたいと思います。
ダイバーシティ全体に輪を広げていきたい
ーー事業を進める中で、ユーザーや企業からの声として、星さんご自身が印象に残っているものはありますか?
会社を創業してから3、4年経った時に、トランスジェンダーの方からTwitter(現在のX)でDM(ダイレクトメッセージ)をもらったんですね。〈JobRainbow〉を通じて素敵な会社に出会えて、前職は男性として働いていたけれども女性として働くことができた。そして会社でも活躍することができて、しっかりとお金を貯めることができて、性別適合手術を受けることができた。そのお礼が言いたいとメッセージをいただいたんです。
大学の時に出会ったトランスジェンダーの先輩のことは救えなかったけれども、数年後に彼女と同じような境遇の方が、自分らしく働けて、自己実現がちゃんとできている状態だということを知って…すごく嬉しかったですね。
ーー今後の展望について教えてください。
〈JobRainbow〉はLGBTQ+の視点から事業を始めましたが、LGBTQ+のみならず、ダイバーシティ全体の統合的な取り組みをより推進していきたいと思っています。例えば女性活躍支援を行う会社や、外国人採用支援の会社、障害者雇用促進の会社といった形で、それぞれプロフェッショナルが存在しているのですが、私たちは今分散している取り組みを統合する取り組みがしたいのです。
なぜかというと、今、ダイバーシティと聞いても、女性の活躍にLGBTQ+、それに育児や介護のことも入ってきているので、何をやればいいかわからない状態の企業が多いんですね。
そこで私たちは、採用の枠を広げるというハードの面だけでなく、ダイバーシティスコアを活用して企業の取り組みを100点満点で評価する、日本最大の包括的D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)認定制度「D&I AWARD」や、多様性を認識し包摂しようと行動する「真のD&I推進プレイヤー」を一人でも多く輩出するための「D&I検定」など、ソフトの面でも展開し、多様な個の差異が「彩」となる社会を目指します。
INFORMATION
▷LGBTフレンドリーな企業が集結する「ジョブレインボーしごとEXPO2023」が2023年11月18日に行われます。