ecoをやめてしまったら…(e)Xample たとえば、私たちが対策もとらず このまま地球温暖化が進んだら。

SUSTAINABLE 2023.06.15

2030年までに実現したい持続可能な開発目標(SDGs)を掲げ、世界中で取り組みがなされているものの事態は好転しない。そうなれば気になるのはもっと先の未来のこと。もしこのまま2050年を迎えたら、世界は、日本は、どうなっているのだろう。気象科学者の江守正多さんに「たとえば」の世界について教えてもらった。

「このままCO2の排出量を抑えることができず地球温暖化が進めば日本の気候にもさまざまな影響が出てきます。極端な猛暑、これまでにない大雨や強力な台風など異常気象が深刻化し、自分たちの生活を直撃するような気候危機を受けるリスクが高まっていくと考えられます」

その予兆はすでに今の私たちも感じているのではないだろうか。桜の開花時期は昔より早まり、夏の過酷な暑さ、強力な台風は日本各地にさまざまな被害をもたらしている。

「2019年に千葉県を中心に大停電を起こした台風15号と多摩川流域が氾濫した19号がありました。19号は実は荒川も溢れる寸前だったんです。氾濫が起きたら広範囲の浸水被害に加え、15号同様の停電または交通、通信インフラなどの被害が発生し、大混乱になっていたかもしれない。問題はこういった危機が50年に一度、100年に一度の異常気象ではなく常に起こる可能性が年々増していくということです」

もちろんより危機的な状況になるのは日本だけではない。
「中東などの乾燥地帯は干ばつがより深刻化し、それによる食糧危機や水危機に陥ります。海面上昇で住む場所を追われる人々も増えます。小さな島国やインド、バングラディシュなどの沿岸エリアがまずその危険にさらされると言われています。また東南アジアなど高温多湿の国々は熱中症リスクが高まりそれも人が住めなくなる大きな一因に。このような気候変化によって住む場所を変えることを余儀なくされる気候難民の数は2050年までに2億人を超すと言われています」

現在、日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする、カーボンニュートラルを目指しているが……。
「今の世界の平均気温は産業革命前と比べ1・1度上昇しています。今のままいくと2100年には4度前後まで上がってしまう。できればそれを1・5度以内に収めたいんです。気温の上昇が早まれば早まるほどティッピングポイント、気候変動が一気に進む“転換点”がくるのも早まります。転換点を過ぎると南極の氷床が融解し、アマゾンの森林も枯れ果てる可能性がある。そうなっては後戻りできない。そんな未来が百年先じゃないんです。数十年後もしかしたら数年後に迫っているかもしれない。そう思うと今、ここで止めなくてはと実感できるのではないでしょうか。まずは気候変動のニュースに関心を持ってほしい。そうすれば必要な社会の変化も見えてくると思います。今の便利さや快適さを重視した生活を手放すことは勇気がいるかもしれません。しかし、変化を恐れず持続可能な社会の実現を多くの人で後押ししていければと思っています」

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1.酷暑化が悪化。最高気温は42度を超え、死者数も増加。
現在、記録されている日本の最高気温は41.1度。1980年代以降、平均気温は10年ごとに0.18度ずつ上昇を続けている。温暖化対策を取らなければ2100年には3.4〜5.4℃上昇する可能性もあるとされる。また現在でも15年で3倍以上に増加した熱中症の死亡者数はさらに急速に増えることになる。


2.大雨やスーパー台風の影響で都市機能が麻痺する事態に。
温暖化による気温の上昇は海水温の上昇にも影響する。海面の水温が高く、水蒸気が発生することで台風は強力に発達。日本近海の海水温も上昇しているのでその勢いのまま水蒸気の供給を受け続け勢いを落とすことなく上陸する。台風や大雨による都市型の水害は今後増えていくと予想されている。


3.紅葉の見頃はクリスマス頃、桜の開花時期も早まっていく。
世界各地で発生する熱波(広い範囲に4〜5日またはそれ以上に渡り相当に顕著な高温をもたらす現象)は日本でも深刻な影響を与えるように。植物の開花時期などが変化するだけでなく、雪が積もらないなど観光業に大きなダメージも。漁業や農業も漁獲、収穫できるものに変化が生じ、対応が必要になる。


4.温暖化で白化が進み、美しいサンゴ礁の海が失われる。
サンゴの生息に適した水温は25〜28℃。海水温が上昇し30℃を超える状態が長期間続くとサンゴ礁は白化し、壊滅してしまう。また大気中のCO2を海も吸収しているため海洋の酸性化にも懸念が。酸性化するとサンゴ礁形成に必要がカルシウム不足に。魚たちの安全な住処であるサンゴ礁を守りたい。


5.コーヒー豆やカカオ豆の収穫量が減少してしまう。
コーヒー栽培地である赤道を挟んで北緯25度〜南緯25度のエリアの温暖化で栽培が脅かされる。2050年までにアラビカ種の栽培地は現在の50%まで減少するとも。またコーヒー豆よりも温暖かつ湿度のある場所で生産されるカカオも環境悪化により壊滅してしまう恐れが。


6.乾燥が続き、アマゾンの熱帯雨林が枯れてしまう。
アマゾンの総面積は日本の国土のおよそ20倍。世界最大の熱帯雨林は暑さや乾燥による自然火災が現在も続き、2100年には大部分がサバンナになるという予測も。アマゾンの熱帯雨林は多くの動植物の生きる場所、そしてCO2を吸収し、酸素を排出する「地球の肺」。それが完全になくなるかもしれない。


7.環境破壊により住む場所を失う人が10億人以上に。
海面上昇は2100年には最大2.5mになるという予測も。1mの上昇でも沿岸の湿地は2〜9割が消失。数億人が気候変動の影響を受け、住む場所、働く場所を失うことになる。都市部は温暖化とヒートアイランド現象が相乗され東京は夜でも30度を下回らず、日中は40度を超えることも珍しくなくなる。


8.ティッピングポイントを超えて地球の氷が解けたら…。
温暖化の影響ですでにこの100年で約17㎝も海面は上昇。北極海の海氷、ヒマラヤの氷河、グリーンランド氷床、南極の氷床…それらの融解が急激に進むと海面上昇は急速に悪化。日本では海面が30㎝上昇すると半分の砂浜が、1m海面が上昇すると日本全国の9割の砂浜が失われると予測されている。

illustration:Akiko Tokunaga text&edit:Kana Umehara

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